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〔撮影:著者、使用機材:Fujifilm X100V,RicohGR3,Sony RX100V〕

私は新潟の片田舎で生まれ、町工場の倅として育った。要するに〈どこの馬の骨〉であり、平たく言うと貧乏だった。だから人一倍、食い物に執着する。そんな口が卑しい私が最も愛するのが鰻である。

閑話休題。ここ数年、週刊誌や新聞での連載を依頼されるケースが増えた。何度かの打ち合わせを経てオファーを請ける段になると、雑誌の編集長や新聞社の部長さんなど〈偉い人〉が担当編集さんとともに決起会と称して食事に招待してくださる。

 

麻布や駒形、日本橋に神田……優秀な担当編集さんが抜群のリサーチ力を発揮し、名だたる鰻の老舗を予約する。いざお店に赴き、床の間を背にする。こんなとき〈俺って、偉くなったなあ〉などと軽薄な作家は悦に入るのだ。鰻重の蓋を開けた直後、〈夢が叶った〉と思うのはほんの一瞬だ。なにせ、田舎者である。老舗の伝統と風格に圧倒されるばかりで、肝心の鰻の味に関する記憶はほとんどない。

さて、本題。当欄の第一回に登場した町中華の名店の店主から、耳より情報が寄せられたのが約一年前のこと。二〇年近く住んでいる高田馬場エリアで鰻の名店があるというのだ。これ以降、ランチも含めて足繁く通うようになった。

今回もあえて店名を載せない(高田馬場エリアにはいくつか有名店があるので、間違えないよう自己責任で検索してね)。

それではお店のお話。優秀な職人さんのおかげで、こちらでは関東風、関西風の焼きが両方楽しめる。蒸しが入る関東、パリパリに仕上げて風味を楽しむ関西風。口が卑しい人間としてどちらも捨てがたい。そんなときはあい盛りで万事解決。それに肝焼きやくりから焼き、その他鰻の串物が非常に充実している。そして、なんと名古屋名物のひつまぶしもいただけるのだ。

ひつまぶしを簡単に説明すると、おひつ(お重)に入った鰻を茶碗に移し、一杯目はそのまま、二杯目はワサビで、三杯目はお出汁をかけていただくという味変の王様みたいな食べ物だ。

このお店、鰻の他にも目玉がある。それがおでん。おでん用にひいた出汁をひつまぶしにかける。これがいくらでも腹に吸い込まれる非常に危険な食べ方。どうか注意していただきたい。超有名な老舗と違って夜遅くまで営業しているので、時間が不規則極まりない作家にとってオアシスなのだ(通常営業時の場合)。

(こちらは夏季限定)

鰻とおでんをたらふく堪能したあとは、人並みに鰻をいただける幸せを噛み締める。

〈オヤジの夢は夜開く〉……昭和歌謡の名曲を口ずさみながら、焼酎を飲んでいる中年男を見かけたら、どうか放っておいていただきたい。かなりの確率で出来上がっているので、面倒臭いこと間違いなしだ。

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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!

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相場英雄

1967年新潟県生まれ。元時事通信社記者。主な著書に『震える牛』(小学館文庫)、『血の轍』『KID』(幻冬舎文庫、幻冬舎)、『トップリーグ』  『トップリーグ2/アフターアワーズ』(ともにハルキ文庫)。日経ビジネスで『Exit(イグジット)』、ランティエ(角川春樹事務所)で『レッドネック』連載中。

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