〈使用機材〉FujifilmX100V,RicohGR3,SonyRX100M6
当欄でほとんど触れてこなかったテーマが〈ラーメン〉だ。出身地や普段の食生活で個人の好みが分かれてしまい、私の嗜好を押し付けるような原稿を書きたくなかったからだ。また、個人経営店と巨大資本ではテイストが違う(全く別の食べ物)。一口でラーメンといっても多種多様すぎるのがその理由だ。
だが、あえて今回は取り上げる。なぜなら、すごい店に出会ってしまったから。今回のお店は、私の仕事場から少し離れた新宿御苑の周辺にある(例によってあえて屋号は掲載しない。自分で検索するように=ちなみにお店からお礼の類いも一切頂戴していない)。
その存在を知ったのは昨年春だ。いつも通る幹線道路沿いの空き店舗に新規オープンの告知を見つけた。最寄り駅から徒歩でけっこうな距離がある。住宅街なので、ビジネス街のように人の流れも多くない。かつて同じ場所で何軒も飲食店が撤退していたので、長続きするのかと首を傾げていた。
しかし、かつて当欄にも登場した某料理人が、新店がとんでもなく美味いと教えてくれた。ならば麺好き(週に4、5回食う)として行かねばらない。先に触れたが、あくまで私の好みであるということを前置きした上で、以下お読みいただきたい。
開店当初は醤油のみ。澄み切ったスープ、整えられた麺線。煮卵、レアチャーシューに鴨のロースト、プリプリのワンタン……淡麗系と称される最近のトレンドを最大公約数的に取り入れた一杯が目の前に。
他店の淡麗系の味を頭に思い浮かべつつ、レンゲでスープを一口飲んだ。直後、私は降参した。大袈裟ではなく、ビジュアルから連想していた味をはるかに凌駕した滋味溢れるテイストだったから。もちろん、麺の茹で加減や他の具材にしても、バランスは完璧だ。
店内の説明を読むと、スープは丹波黒どりと親鶏から抽出した鶏清湯、そして羅臼昆布、宍道湖のしじみ、純米酒でととのえた和出汁とあった。
期間を置き、順次リリースされた塩、煮干しもいただいた。全国から取り寄せた厳選素材をふんだんに使い、丁寧に仕上げられた一杯は、定期的に危険な禁断症状が出る(大袈裟ではない)。
クールかつ丁寧な仕事を施す店主の佇まいを眺めるうち、〈この人はクラシックのバイオリニスト、あるいはオーボエ奏者だったに違いない〉などと想像した。
三種類の出汁、そして各具材のバランスを完璧に調和させる様が〈交響曲(シンフォニー)〉のようだと感じたからだ。ところが、である。店主は元パンクロッカー(ベース、ボーカル)だとか。事前に情報を仕入れていたら、〈野菜とニンニク、脂の全増し〉あるいは〈固め、濃いめ、脂多め〉などとG系や家系のトンガった一杯を連想したかもしれない(作家のイマジネーションなんてこの程度)。このギャップにやられたのも店に足繁く通う要因の一つだ。
小さな店舗、そして丁寧な調理のため行列は必至(15分から30分程度は覚悟)。最近は、巨大資本系に飽き足らなくなったラーメン好き海外観光客の姿も多くなった。
ラーメンは流行り廃りがはやいジャンル。魔法の粉(食品添加物の類い)を多用すれば、原価率がグンと下がって、儲けも格段に大きくなる素地がある。実際、名が売れたあと、味が激変して〈ビジネス拡大〉に邁進するお店も少なくない。一顧客である私がとやかく言うことではないが、このお店は頑固に、丁寧に、そして新たな味のシンフォニーを奏でてくれるはずだと確信している。
ずらりと並べたラーメン、丼の写真。こちらは店主と、盛り付け担当の女将の見事な共作である。開店からまだ時間が経っていないにも関わらず、二人の息はぴったり。ソムリエ資格を持つ女将厳選ワインもいただける。飲んで食う。最高の時間が約束されている。
勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar
食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!
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