<使用機材>FujifilmX100V,BMW 220i Coupe
〈アイバさん、短編集作らない? 舞台は港町でさ〉
過日、某社のベテラン担当さんからこんなご提案をいただいた。企画の詳細を他社サイトの当欄で披露することはできないが、いつもの社会派っぽい(注:本人は社会派を意識したことは一度もない)筆致ではなく、別の方向性でいこうというオファーだった。
目下、数社の納品スケジュールがキチキチのため(もちろんG舎分も含む)、実際に執筆作業に入るのは当分先になるのだが、私の頭の中には〈港町〉というキーワードがしばらく点滅を続けていた。
G舎の新連載第一回の執筆に一区切りついた先月下旬、私は〈港町〉探索に出かけた。過去にいくつも港町に出向いたが、今回は未訪問の地を選んでみた。
訪れたのは、日本海に面した富山市だ。私は新潟県出身で富山はお隣に当たる。だが、古くから県境に〈親不知〉という断崖の難所があるため、両県同士での交流は少ない。ご多分に漏れず、私も北陸自動車道で通過したのみで、実際に街の中に入ったのは初めてだったのだ。
知らない街という要素のほかに、私が同地を選んだのは、路面電車(トラム)が現役で走っている点。かつて郷里では〈新潟交通電車線〉という路線があり、新潟市の親戚宅を訪れる際、燕駅から頻繁に乗り込んだ記憶が鮮明に残っているのだ(同線は廃線に)。
チェックインした直後、私は宿の目の前にある停留所に赴き、行き来するトラムに見入った。新型の二両連結も走っているのだが、注目したのが古いタイプ(鉄成分が限りなくゼロなので型式とかは知らない)、一つ眼のレトロな車両だ。
富山駅至近の停留所のため、結構な数の人が車両に吸い込まれていく。生活の一部として、レトロな路線が今もしっかり現役で活躍している様は、ガキの頃に乗った新潟のカボチャ電車(俗称=緑と黄色のツートンカラー)を思い起こさせた。
札幌や函館、京都や熊本でも路面電車に乗車したが、ゆっくり走る車両から眺める街や行き交う人たちの様子は、作家のイマジネーションを強く刺激する。もちろん、富山も同様で、循環線の目的の停留所で降車し、紹介してもらった寿司店へと足取り軽く進んだ。
富山市は、目の前に富山湾をようする。〈天然の生簀〉とも称され、寿司店が多い。訪れた一軒は、古い商店街の中ほどにあった。
店構えは、全国どこにでもある商店街の老舗だが、キトキト(富山弁で新鮮)な逸品の数々に、口の卑しさでは誰にも負けない私は一発でノックアウトされた。
白エビ、バイ貝など地元富山湾産のほか、漁が解禁されたばかりの能登産の紅ズワイ蟹は絶品。親方チョイスの地酒が進むのなんの。
もちろん、私が一軒で宿に帰るはずはない。ご紹介いただいたスナックへと移動し、豪快なママや店のスタッフと飲むのなんの。
もちろん、取材である。楽しむだけではなく、地元の情報もたくさん仕入れた。いや、本当だってば。
富山ビギナーのモノカキに対し、ママは地域ごとの訛りの差、県内各地の漁港の気風、産物の違いを丁寧に教えてくださった。いただいた情報は、脳内のファイルにきっちり記憶させてもらった。
一つだけ残念だったのが、ママ激推しの〈マス寿司〉の老舗が臨時休業だったこと。富山市内にはいくつも専門店があり、酢の加減やシャリの硬軟で、家庭ごとにご贔屓があるのだとか。口の肥えたママが推す店なら間違いないはず。近いうちに富山を再訪せねばなるまい。
トラムに乗って寿司を食いに行く。ああ、贅沢。大人になってよかった。
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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar
食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!
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