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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2019.12.29 更新 ツイート

「知ってる人」と「知らない人」、イマドキの境界線泉美木蘭

「知らない人」ってどんな人?

幼い頃、親に「知らない人からチョコレートをあげると言われてもついていってはダメ」「車に乗った知らない人から『家族が事故にあったから病院へ行こう』と言われても絶対に乗ってはダメ」など何度か言われた記憶がある。

「知らない人についていってはダメ!」とは、親が子どもによく言い聞かせる言葉だろう。ところがいまや、隣人もよく知らないという時代。「そもそも『知らない人』ってどんな人?」というところから教えなければならないようだ。
 

セコムが運営する『子どもの安全ブログ』によれば、「知らない人についていってはダメ!」と言っても、子どもはその意味を正確に理解するのが難しいという。話したこともない人でも、子どもの視点では、よく行く場所で見かけるなら「顔を見たことがあるから、知っている人」という認識になるのだ。

セコム「子どもの安全ブログ」

「よくゲームを貸してくれるお兄さん」、「いつも公園で犬と遊ばせてくれるおじさん」など、ただ親切で子ども好きな大人なら良いが、なかには犯罪者が子どもを物色するために潜んでいるかもしれない。最近は「SNSで話し相手になってくれる人」というケースも多いが、それも「知っている人」という解釈になってしまっている場合がある。

 

子どもに対しては、ただ「知らない人についていってはダメ!」と言うのでなく、「名前を知らない人」「どんな人なのかよく知らない人」「お父さんお母さんが知らない人」など、まずは「知らない人」の定義をする必要があるようだ。

顔見知りが犯行に及ぶケースもあるから、もはや「知っている人にも、知らない人にもついていってはダメ!」と言うべき状況かもしれないが……。

 

大人も「知ってる人」と「知らない人」の境界があいまいに

子どもに教えなければならないのはわかるが、ネット上では、大人にとっての「知らない人とは誰か?」という常識も見事に崩れてしまっている。

60代の私の母は、フェイスブック上で「30代キラキラ女子」を演じて遊んでいたことがあったが、そこに集うおじさまたちは、「我こそが彼女を一番よく知る男である」と言わんばかりの親しげなコメントを日々書き込んでは、母と親交を深めようとしていた。

母のほうは「あんた誰? 知らんがな」といった様子で真剣に交流する気はないようだったし、娘の私としても「みんな気付いてー! そんな女子、存在しないからー!」と全力で教えたい気持ちでいっぱいだったが、知らぬが仏とはこのことで、母と「知り合った」ことにささやかな喜びを見出し、日々のネットライフを楽しんだ男性も何人かいたようだ。この手の話はそこらじゅうに転がっている。

このご時世、ネットでの出会いやイベント告知などがきっかけで知り合って、リアルな友達になったり、交際や結婚に至るというケースも珍しくはないが、その陰にはやはり「出会い系サイトで知り合った相手は、サクラだった」とか「オンラインゲームで知り合った女の子は、ネカマ(ネット上で女性のふりをしている男性)だった」とかいう悲劇が繰り返されている。

出会い系サイトのサクラは、巨額の利益をあげる組織的犯罪集団でもあり、たびたび摘発されて男女十数名単位の逮捕者が出る。以前取材したサクラ経験者の男性は「男のほうが男の下心がわかるし、惑わされる言葉や絵文字のツボもよく知っているから、女のキャラを演じて成績を上げやすい。メールのやりとりだけで指輪を買わせた奴もいた」と話していた。

オンラインゲームのネカマは、人を侮って遊びたい、ちやほやされたいという目的もあるようだが、大半は、若い女性のふりをして男性プレイヤーに近づき、課金アイテムなどを貢がせるのが目的らしい。うちの母がもしゲーマーだったら、20代キラキラ女子初心者ゲーマーのふりをして、いろいろやらかす恐れも十分あると思う……。

もちろん騙すのは悪いことで、出会い系のサクラは明確に犯罪だ。ただ、なにぶんネット上には、お互いになにも知らないはずの相手のことを「知り合い」と解釈したり、会ったこともない相手なのに、「好かれている」「交際している」とまで思い込んでしまう人が後を絶たない。

しかも、もはや悪意ある人間に騙されなくとも、みずからスポスポとその落とし穴にはまってしまう人々が続出しているようだ。

 

オンラインゲーム上での「恋愛」と「失恋」のかたち

ある知人は、大学に通う娘がオンラインゲームで知り合った男性と恋愛し、その関係が破局したことでひどく落ち込んでいると嘆いていた。

(写真:iStock.com/gorodenkoff)

変な男に騙されたのかと思いきや、話を聞くと、相手とはオンラインゲームのアプリ内でふれあい、アプリ内のボイスチャット機能で会話していただけだという。会ったこともない。顔も知らない。本名も知らない。電話番号も、どこに住んでいるのかも知らない。

じゃあお互いに知っているのはなんなのかと言うと、生年月日と血液型、そして、声。それだけ? それって恋愛なの? と思うのだが、お互いに話が合うので盛り上がり、告白して「付き合う」ことになり、だが次第にボイスチャットの回数が減って、しまいに「もう別れよう」と切り出され、一緒にプレイすることもできなくなってしまったらしい。

彼女は特別に引きこもりというわけでもなく、友達もいて学生生活を楽しんでいたようだが、自分だけに語り掛けてくれるボイスチャットがよほど楽しかったのか、心の拠り所にしてしまったようだ。

相手の男性は、すでに別の女性とゲームを楽しんでいるらしく、彼女は「浮気された、裏切られた」という思いに苛まれている様子だという。もともと会ったこともない「知らない人」なのだから、ゲームアプリをスマホから削除して、早く現実に引き戻されるしかない。

 

恋愛の悩みの質も変化

最初はこの話には呆気にとられたが、オンラインゲームに熱中している友人に聞くと、会ったこともないゲームフレンドに恋愛感情を抱くというのは、そもそもスマホ依存という背景があるだけに、よくある話らしい。

オフ会もよく開催されており、そこから交際して結婚に至るカップルもいるようだ。人から白い眼で見られやすい「ゲーム好き」という趣味が一致するので、結びつきやすいらしい。なるほど、リアルな場で出会って、という流れならよくわかる。

ただ『Yahoo!知恵袋』などの相談サイトを見ると、「ネットで顔も知らない人を好きになりました。出会いはゲームです」「オンラインゲームのフレンドのことが好きになってしまいました」「ネトゲで知り合った女性が、ギルド内の他の男と遊んでいて嫉妬してしまいます」などの相談が大量に寄せられていて驚く。

Yahoo!知恵袋に寄せられ続けるオンラインゲームでの恋愛相談。(画面は一部編集したもの)。回答者たちに罵倒されるのではと思いきや、経験者からの助言も少なくない。

ボイスチャットで性的な会話を求められるようになって困惑しているとか、会いたいと言ったらやんわりスルーされたとか、チャットでは熱烈だったのに実際に会ったら音信不通になった……などの話が多い。

大前提として、同じゲームが好きだということ以外は、相手の現実をなにも知らないのだし、相手もまた、自分の現実を知っているわけではない。お互いに、相手を「男」「女」「キャラA」「キャラB」、あとはせいぜい「年齢」「生年月日」「血液型」といった記号で識別しているだけなのだが、チャットで話すと「自分を認識してくれた相手」ということになってしまい、それが進行すると、もともとのスマホ依存、ゲーム依存などと絡み合って、「自分だけを見てくれる人、話し掛けてくれる人」として、心が吸い込まれていくのかもしれない。

 

生主(なまぬし)まわりの人間関係は“知り合い”に当たるのか問題

ゲームだけでなく、配信アプリを介した恋愛感情もよく聞く。番組を配信する「生主」に恋愛感情を持つケースは多いようだが、私の友人R子は、さらに一歩進んだ(?)体験をしていた。

一視聴者として、ある生主のもとに毎晩集まってコメントを書き込んでいたところ、そこに集まる常連視聴者の男性から恋愛感情を持たれたというのだ。

顔も名前も明かさずに、固定のハンドルネームでコメントしていたR子は、その男性から、「R子さんはいつも配信を盛り上げる存在だね」と言われて嬉しくなり、気軽にチャットに応じたという。すると相手は孤独な初老の男性で、人生の悩みを打ち明けられ、無下にもできず聞いてあげているうちに、しがみつかれたらしい。

そんなの無視するか、ハンドルネームを変えてやり過ごせばよいのでは? と思ったのだが、無視すると「死にたい」などと書き込んで配信を荒らすし、そもそも自分は固定のハンドルネームで生主に認識されているから、変えるわけにはいかないということだった。

結局R子は、数日で我に返ったようで、「のめり込みすぎて、生主に対する責任まで感じていたけど、よく考えたら私の人生になんの関係もない人たちだった」と言って配信を見ること自体をやめたようだ。それでいいと思う。

 

ネット上の「顔も知らない人」への恋愛感情は、総じて、断片的な情報、記号をもとに、あくまでも「自分が作り上げた虚像」にしがみつくようなところがあると思う。それは恋愛というよりは、依存と言ったほうがいいだろう。

人と人は、素性や人柄をお互いにある程度知ったり、リアルな共通の体験か知人を通して、はじめて「知り合い」と言える関係になるものだ。そうでなければ「顔見知りだけど、知らない人」か「知らない人」である。そして、「知らない人」には「あんた誰?」と即座に思えるようにしておきたい。

子どもに教える前に、大人こそが「知らない人」を学びなおさなければならない時代かもしれない。

 

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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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