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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2019.09.26 更新 ツイート

陰謀論を布教する人が陥りやすい2つの穴泉美木蘭

話のつじつまは関係なし。ベースは「権力への不信感」

陰謀論にはまり込んで信奉してしまう人は、どのような思考回路を持っているのだろう。まず、つじつまがまったく合わない矛盾した話を、同時に信じ込むという特徴がある。

自分の都合の良いように物事の認識をゆがめてしまうズルい矛盾や、自己正当化は、多くの人の心のなかで起きることだが、イギリス・ケント大学の心理学者らによる2011年の研究によれば、もっと驚くべき矛盾を簡単に信じる現象が示されている。

「オサマ・ビンラディンはアメリカ軍の急襲によって殺害された」というアメリカ政府の公式説明をどの程度支持するかを大学生たちに評定させたところ、政府の公式説明を疑問視し、「襲撃時にはすでにビンラディンは死んでいたのではないか」と考える人たちは、なんと同時に「ビンラディンはまだどこかで生きている」と正反対の主張をする傾向がほかの人よりも高かったという。

(写真:iStock.com/romeocane)

また、ダイアナ妃の死に関する質問でも、「ダイアナ妃と同じ車に乗って死亡したドディ・アルファイド氏の商売敵が、二人の殺害を企んだ」という考えを持っている人たちは、同時に「ダイアナ妃は自らの死を偽装しており、まだどこかで生きている」というこれまた矛盾した考えも持っている傾向が高かったらしい。

つまり、人が陰謀論を信じるのは、その陰謀の「筋書の信憑性」によるのではなく、「陰謀論めいた考え方」そのものを支えたいという、もっと深い思い込みを抱いているためだというのだ。そして、こういった観念を生む大きな要因の一つは、「権威や権力に対する強い不信感」とされている。

私に「地震兵器で311の大震災は引き起こされた」と迫って来た女性は、政府の説明も、専門家による解説も、マスメディアによる報道も信じていない。しかし、なんの根拠もなく誰が発信しているのかもわからないネットの情報は信じ込み、そして、つじつまの合わない話を堂々と語っていた。

 

「ボストンマラソンテロは、すべて舞台装置と役者による演技だ」と言っていた男性は、アメリカの自作自演であり、報道はすべてウソだと言いながら、8歳の男児が犠牲になったという報道だけは信じて「許しがたい」と言って批判しはじめる。つまり、事実がなんであれ、アメリカという国に対する不信感を持ち、ケチをつけられれば良かったということなのだ。

思考は単純化し、脳はナマケモノになる

一時的に楽しんで終わるならよいが、陰謀論を信じ込む人は、大地震やテロなどの大事件を、「すでに計画されたもの」と論じたがる傾向があるために、現実の世界ではもっといろんな出来事が複雑に絡み合い、予想できない結果が生まれることがあるということを無視しがちなところに問題がある。

権威や権力を疑ってみる視点は必要だが、自分から見て大きな存在に映るものに対して、その背景に「なにかあるはずだ」と意図を過大に勘繰ろうとするクセがつくと、人は、複雑に考えて理解することをあきらめるようになってしまう。つまり、「どうせ裏で、自分の住む世界とはまるでスケールの違う強大な力が働いているんだ」というような思いからくる無力感や、現実に対する強い不確実さを伴ってしまい、物事を精細にとらえて考えたり、地道で面倒な批判作業をしたりする体力を失ってしまうのだ。長いものを嫌っていたはずが、注目しすぎて、すっかり巻かれてしまい、服従したような状態とも言えるかもしれない。

(写真:iStock.com/romeocane)

こうなると、自分の見える世界を、自分の視野の範囲だけで予測できる世界、つまり自分が見たい世界へと塗り替えてしまう。「あの権力!」なり「あの権威!」なり「あの大物!」なり、単純ではっきりとした敵を作ることで、なにもかもその敵まかせにして済ませてしまい、主体的な考えや決断、責任などを放棄した、ナマケモノになってしまうのだ。つじつまが合わなくてもお構いなしになるのは、ここにワケがあるのではないだろうか?

「地震兵器である証拠」を収集するパワーを、原発中心のエネルギー政策の転換について考えて、自分で意見を述べる方向に回せばどんなにか有意義だろうかと思う。ボストンマラソンのテロ事件では、「過激派組織ではない人間がテロを起こすなんておかしい。あれはアメリカの謀略だ」という陰謀論を「それはありえるかも」と受け止めしまった私だったが、今考えれば、あれは「ホームグロウン・テロ(自国産テロ)」の象徴だと学ぶ機会でもあったと思う。子供時代に難民としてアメリカにやってきて、長年その地に暮らし、結婚もしてすっかり社会の一員と見られていた人物が、実は人知れず疎外感をつのらせ、ある日突然テロリストになってしまうという出来事だったのだ。

かと言って、「陰謀なんて一切あるわけない」とも言えない。「トンキン湾事件」の話を聞けば、今年6月に起きたホルムズ海峡のタンカー攻撃事件や、つい最近のサウジアラビア石油施設攻撃事件については、眉をひそめてアメリカの動向を見張ることになる。終始、陰謀の世界観だけを信じようとする陰謀論者になってしまうと問題だが、陰謀は存在する場合もある。それほど現実は簡単に割り切れないということだ。
 

いま富は一部に集中し、人々は先の見えない不安や無力感、虚無感にさらされている。日々、驚愕するような事件や紛争のニュースばかりだ。スマホを手にしている自分は、なんだかすべてを「アップル」だの「グーグル」だの、なにか巨大なモノに操られているんじゃないかという気さえする。もしかすると、誰もがいとも簡単に長いものに巻かれて、陰謀論者的な単純思考に走ってしまい、ナマケモノになりやすい時代と言えるのかもしれない。

事実や現実から遊離しないでいることは、かなり大変なことだ。自分の手綱をしっかり持ち続けることができるだろうか。

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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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