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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2019.01.28 更新

SNSにはまっていった私のイタい体験記(3)泉美木蘭

→「SNSにはまっていった私のイタい体験記」を初回から読む

(写真:iStock.com/LightFieldStudios)

「ツイッター認証済みバッジ」が欲しくなる

ツイッター上で「フォローしている人数より、フォロワーの人数がはるかに多いアカウント」を作ることに成功した私には、新たに欲しいものがあった。「認証済みバッジ」だ。著名人や世間的に話題を集めている人、メディアなどの公式ツイッターには、偽アカウントの発生による混乱を防ぐために、ツイッター社が身元確認を行い、水色の丸いバッジをつけて「本人認証したアカウント」であることを証明している。
 

アカウント名の右側につけられた「認証済みバッジ」。これが欲しくて……


「公式って感じがして特別感あるし、かっこいい。これ欲しい、これくれ」

まるで『千欲しい、千くれ』と暗黒の欲望を肥大化させるカオナシ状態だ。だいたいが“公式”とは完全に真逆の私的欲望しかないくせに何を言ってるのって感じだが、認証済みバッジの取得方法を調べてみると、基準は明らかにされておらず、どうやら自薦、他薦ともに「ツイッター社が必要性を認めること」が条件らしい。なるほど。そもそも私のツイッターなんてなんの話題も集めていないし、誰も私の偽アカウントなど作っちゃいない。私にはわざわざ本人認証する必要性などないと自分でわかる。

「でも、ツイッターって外人の会社だし、何かの勘違いで認証されるかもしれないから、一応自薦してみようっと」

ツイッター本社はサンフランシスコの会社でも、日本のユーザーからの問い合わせは東京都中央区のツイッター・ジャパン株式会社がさばいているわけなのだが、とりあえず問い合わせフォームから「認証バッジ欲しいです!」という思いの丈を送信してみた。もちろん、なしのつぶてだった。

 

認証バッジがダメなら、翻訳者バッジだ!

あまりに無意味で生産性の欠片もないことにこだわれるのは、ひとえに「現実逃避のための依存」と、「そんなことしてる暇がある」という怠惰のなせるワザである。そして、その怠惰をひたすら楽しめるものに溢れ、そんな状態に「時代」「最先端」「情報網」「集合知」のようなもっともらしい意味を与えて、さらなる自己弁護・自己欺瞞の泥沼に引きずり込むのがネット空間の罠でもあるだろう。だらしのないエゴを許す際限のない自由空間は、どんどん私を“トンチンカンなツイッタラー”に変貌させてゆくのだった。

さて、あえなく「認証済みバッジ」の取得に挫折した私は、新たなバッジを発見した。著名人でもなく、フォロワーもさほど持たない人のなかに、水色の地球柄のバッジをつけている人がいるのだ。

 

 

 

アカウント名の右側にある地球のようなマークが「翻訳者バッジ」だ

 

調べると、どうやらもともと英語で作られたツイッターのシステム上の文章を、各言語に翻訳する翻訳ボランティアが集う、「ツイッター翻訳センター」というサイトがあるらしい(2017年11月末に役割を終えて終了している)。ここで翻訳者として一定以上の働きをすると、ツイッターから「翻訳者バッジ」が付与されるという。

「これ欲しいし、これなら私でもとれそう!」

高校受験レベルの英語しかできないが、翻訳ソフトもあるし、なんとかなるだろう。とりあえずチャレンジしてみるべし。

早速「ツイッター翻訳センター」のページに入り、翻訳者としての登録を済ませた。まずは受験問題のような簡単な英文を解く練習があり、これをクリアすると本番の翻訳がはじまった。これまでの翻訳者によって既にほとんどの翻訳は済まされていて、作業できる分野はかなり少なかったが、ツイッターの中で表示される規約や、利用者へのお知らせなどを毎日コツコツ翻訳し続けた。

翻訳はほとんどが短文であまり難しくはなく、専門用語も翻訳ソフトにかけて調べれば予想のつく程度のものだった。翻訳したものは、データとして集約されてフィードバックが繰り返され、やがて採用・不採用が決定されるようだ。そして、自分の手がけたものが採用されると、ポイントが付与されていく。すると、自分は一体なにをしているんだろう、と疑問が浮かぶよりも早く、案外あっさり既定のポイントに達して、私のツイッターアカウントに念願の「翻訳者バッジ」が表示されるようになった。

能力や実力というよりは、「とにかくたくさん翻訳した者勝ち」というような世界だし、なんだか「私、ツイッターの大ファンだから頑張っちゃう!」という感じで大いに利用された感があるが、とにかくバッジをゲットした私は、達成感と満足感でいっぱいだった。

 

バッジを見て「なんか凄い人」と勘違いする人が続出

高校受験程度の英語能力しかない私でも取得できた「翻訳者バッジ」だが、世の中のツイッター熱が高まり、ツイッターをはじめる人々が周囲に増えるにつれ、それは威力を発揮しはじめた。
 

「もくれんさんのツイッターって、青いバッジがついてる。凄い」
 

ほらね。やっぱり特別感があるんだよ。「認証済みバッジ」と勘違いする人もいれば、「なんだかわからないけど特別なバッジ」と受け取る人もいた。バツが悪いので「翻訳センターで翻訳ボランティアをやれば誰でも表示されますよ」と教えたが、「いやいやいや、素人には無理でしょ」と信じてもらえないのだった。またある時は、かなり大勢のフォロワーを持つ知人が、大きな勘違いをして、自分のフォロワー達に私のことを超誇大に紹介してしまうという事件が起きた。

 

『泉美木蘭さんは、ツイッターの公式トランスレーターなんです。つまり、彼女の日々のツイートはツイッター社が公式に英訳して、全世界向けに公式配信されているんですよ!』

 

おおい、待て待てえーい! ぜんぜん、違うからーっ! わざわざ一個人のツイッターを全世界公式配信するようなサービスはツイッターにはない。さらに知人は『彼女はツイッター社に認められた存在!』『全世界に共有される貴重な情報源!』などガンガン誇大広告を重ねてしまう。紹介してくれた手前、それはまずいなあと思い、すぐに訂正のメールを送ったが、「それでも、誰でもとれるマークというわけじゃないはず」と返事が来て、誇大広告の投稿は消されることも訂正されることもなかった。知人にはどうやら「自分は、全世界配信されている人と知り合いです」ということを自慢したい“希望的勘違い”があるようにも見えた。もちろん、私の心の中にもそんな不純な思惑があるから、読み取れた心理なのだが。

誇大広告を見て私のフォロワーも増えたが、“全世界配信されている貴重な情報源”だという当の私のツイッターには、『私の体はワンコインでできているの』だの『歌舞伎町のラブホテルをぎゅうぎゅうに雑巾絞りして、パッと手を放して、反動で中にいるカップルをブルルルッと辺り一面にまき散らしたい』だのまったく意味不明なネタばかりが投稿されているのだった。こんなの誰が公式配信するんだ……。

 

(このあと、“英語化”というますますトンマな迷走街道を爆走する!)

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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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