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《京都ガイド本大賞・リピーター賞》受賞!京都の路地裏

2015.10.15 公開 ポスト

第2回:第一章 京都の路地(ろーじ)より

路地にある店には、縁を結ぶ神様が住む柏井壽

柏井壽さんの『京都の路地裏』が京都ガイド本大賞・リピーター賞を受賞しました。「私は京都好き」と言いたいあなたのために、本当は内緒にしておきたい(←編集者の本心!)、とっておきの名所・名店を紹介します。

路地。京都人は、これを「ろーじ」と読みます。これを知っただけでも、「路地」が京都の特別な場所に思えてきます。美味しい店や、縁結びの神様が、路地裏細道に多いのはなぜでしょうか?

*  *  *


 路地裏細道の愉しみ。極めつけは美味しい店に出会うことである。

 第五章で詳述するが、京都の細道には、数え切れないほどたくさんの美味しい店がある。そして、その殆どは小さな店。中には四畳半ほどの広さもない店だってある。隣の客と肩が触れ合うようなカウンター席だから、店中に魅力が溢れているのだ。

 京都切っての繁華街。河原町三条から北に上って、細道を東に入った辺りに、かつて僕がこよなく愛した鮨屋があった。

 鮨屋といっても、客席数はわずか数席。店の奥のトイレに行こうと思えば、椅子から立ち上がって、通路を開けてもらわないと行けないような、至極小さな店だが、当時は、京都では未だ珍しかった正統派の江戸前鮨で、祇園辺りの有名鮨店に比べると、値段もこなれていた。時には家族を連れて、もしくは東京からの客人も連れ立って、何かと言えば暖簾を潜るほどに通い詰めていた。

 そうして繁盛すると、手狭な店では物足りなくなって来るのだろう。程なくして数倍のスペースを持つ大きな店へと移転した。

 移転当初は以前と変わらぬ商いだったのが、大勢の客を迎えるうち、経営方針も転換したようだった。僕の身の丈に合わない店になり、自然と足が遠退き、ついには途絶えてしまった。今も繁盛しているのだろうか、と時折り気にはなるが、風のウワサにも届いて来ない。

 鮨屋が移転して行った後、今度は洋食屋が店を開いた。これも又僕の好みにぴったり合っていて、以前の鮨屋同様、ここにも通い詰め、メディアにも繰り返し紹介した。

 どれくらい経っただろうか。記憶が薄れてしまっているが、この洋食屋も、手狭を嫌って、鮨屋と同じく数倍の広さの店に移転した。

 同じように、僕にとっては、以前のような心地良さは感じられなくなり、まったく足が向かなくなった。ところがここは今も相当繁盛しているようで、メディアへの露出も多い。移転が成功したのだろう。

 これは僕に限ってのことなのかもしれないが、路地裏の小さな店で、カウンターを挟んで遣り取りする魅力が、大きな店になると失われていくように思えてならない。

 目の前の数人には行き届いても、大きな店になると気配りが手薄になるのは、物理的にも仕方がないところ。自然、他の誰かの手を借りねばならず、スタッフ教育にも時間を割かねばならなくなる。料理を作り、すぐ前に居る客の相手をするだけで良かったのが、余分な仕事を抱えてしまう。これが店の有り様を変えてしまうのは、やむを得ないだろうと思う。

 やはり野に置け蓮華草。

 路地裏の銘店で食事を終え、店を出るときに、自然とそうつぶやいてしまう。無論、店を大きくして、更なる繁盛を目指すのは、店の経営という観点から、決して間違ってはいないし、それが大成に繋がることもあるのだろう。だが、客というのはいつもワガママなもので、自分だけの小さな店として、取っておきたい気持ちが何処かしらにあって、その思いが叶わなかったと落胆してしまうことだって少なくないのだ。

 路地裏細道には、きっと縁結びの神さまがいらっしゃる。或る時から僕はそう思うようになった。

 路地裏に入り込んで、そこに寝そべる猫だって、愛おしく感じてしまう。生き物だけではない。格子窓から漏れて来る灯り、小屋根の上の鍾馗さま、琺瑯の看板に至るまで、何もかもを好ましく感じてしまう。

 それはきっと、そんなところにこそ、路地裏の様々と、そこに入り込んだ人との間を取り持つ、縁結びの神さまが居られるからだろうと思う。

 人と動物、人とモノだってそうなのだから、人と人になれば、その結び付きを更に高めてくださるのだろう。

 畢竟、路地裏とはそうしたものなのである。細道だからこその息遣いがあり、それを感じることによって、心は穏やかになり、安らぎを感じることになる。それがすなわち、居心地の良さ、という言葉になる。

 同じ料理人が、同じような料理を作り続けたとしても、路地から離れることで縁が切れてしまうのは、そうした理由に依るのではないかと思っている。

 路地裏や細道には多くの神さま、仏さまがいらっしゃる。不思議に満ちた路地もある。名にし負う店もあれば、美味しい店も幾らでもある。それらが路地裏にある限り、ご縁を結んでくださる神さまがおられる。どうぞ素敵な縁を紡いでいただきたい。

 

*  *  *

次回「地図に載らない京都の寺社と、京の街角のあちこちにいる地蔵さま」は10月18日(日)に公開します。お楽しみに!

関連書籍

柏井壽『京都の路地裏 生粋の京都人が教えるひそかな愉しみ』

観光地化された京都には、京都っぽいものが溢れており、本当の京都はないと著者は憂う。古き良き京都らしさが残っているのは、地元民の生活感が漂う、大通りから一本入った路地裏の細道。そこを歩けば、地元民が参拝に通う小さな寺社や、昔からの言い伝えが残る不思議スポット、多店舗展開しない漬物の老舗、一子相伝の和菓子屋、舞妓さんが通う洋食屋、京風料理ではなく本当の京料理を出す和食店……に出会える。京都に生まれ育ち、歩き尽くした京都のカリスマが、「本当は教えたくない」とっておき情報を紹介。

柏井壽『京都の定番』

近年、穴場的な「隠れ名所」が注目されがちな京都。だが、京都を愉しむなら、まず「定番」を押さえたい。誰もが知る名所・名店・祭事でも、その成り立ちや、今に至る歴史の流れまで知る人は少ない。名刹の背後にある物語、「京都風」でない真の京料理を守り続ける料理人の心意気、都人の春夏秋冬の愛で方、花街のルールなどについて知ると、京都の奥ゆかしさや美しさの理由が分かる。この街で生まれ育った著者でさえ、定番を改めて辿ってその奥深さに驚愕した。数多の情報に振り回されず、本当の京都を知るための究極のガイド。

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柏井壽

一九五二年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都の魅力を伝えるエッセイや、日本各地の旅行記などを執筆。『おひとり京都の愉しみ』『極みの京都』『日本百名宿』(以上、光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『日本ゴラク湯八十八宿』(だいわ文庫)、『おひとり京都の春めぐり』(光文社知恵の森文庫)、『泣ける日本の絶景』(エイ出版社)ほか多数。
自分の足で稼ぐ取材力と、確かな目と舌に定評があり、「Discover Japan」「ノジュール」「dancyu」「歴史街道」など、雑誌からも引っ張りだこ。京都や旅をテーマにしたテレビ番組の監修も多数行う。
柏木圭一郎名義で、京都を舞台にしたミステリー小説も多数執筆する一方、柏井壽本名で執筆した小説『鴨川食堂』(小学館文庫)が好評で、テレビドラマ化も。
二〇一三年「日本 味の宿」プロジェクトを立ち上げ、発起人として話題を集める。
二〇一五年、京都をテーマに発足したガイドブックシリーズ「京都しあわせ倶楽部」の編集主幹としても。
プロフィール写真撮影:宮地工

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