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《京都ガイド本大賞・リピーター賞》受賞!京都の路地裏

2015.10.10 更新 ツイート

第1回

はじめに 脇見、或いは道草のススメ柏井壽

柏井壽さんの『京都の路地裏』が京都ガイド本大賞・リピーター賞を受賞しました。「私は京都好き」と言いたいあなたのために、本当は内緒にしておきたい(←編集者の本心!)、とっておきの名所・名店を紹介します。

脇見、道草……。京都の街の奥深さを知りたいなら、そうした「無駄歩き」が必須。路地裏細道を辿ることは、京都を知るための遠回りのようで、いちばんの近道です。

*  *  *


 たとえそれが初めての京都であったとしても、よしんば飽きるほどに訪ねた京都であっても、是非ともここを観て欲しい。ここで食べて欲しい。ここを歩いて欲しい。そう思う場所は、不思議なほど路地裏や細道にある。

 京都を紹介する本や雑誌は星の数ほどある。かく言う僕も何冊も書いてきたし、頼まれれば雑誌の京都特集にも微力を注いで来た。

 手を替え品を替え、新たな切り口を探して、これまでにない京都を見せ、それを綴る。

 まるで、果てなどないように、それがいつまでも続くというのは、まことに以て不思議な話であり、それがしかし、京都という街の、底無し沼のような奥深さというか、汲めども尽きぬ泉のごとく、言うに言われぬ魅力なのだろうと思う。

 だが残念なことに、いくつかの本や雑誌は、これまでに書き尽くされたことを、ただなぞっているだけに過ぎず、それもあまりに皮相的なので、がっかりしてしまう。

 きっとそれは、本の作り手が無駄歩きをしていないせいだと思う。取材という目的を持って歩くのと、ただ闇雲に思うがままに歩き回るのとでは、根本的に違う。

 前者になくて後者にあるもの。それは脇見である。或(ある)いは道草。

 当初の目当てに入っていなかったものに目を向け、やがてそれが本筋になってしまう。それこそが街歩きの醍醐味なのだが。

 誰もが認めるような名所は大抵表通りにある。道に迷うこともない。人の流れに乗り、多くの背中に付いて行けば、間違いなく名所に辿たどり着ける。

 そこにあるのは予想していた通り、教科書通りの名所だ。

 これがこうして、あれがこうなって、今ここに名所になった。そんな説明を聴かされ、耳に届いても、心には響かない。心は既に次なる名所へ。もしくは京の美味へ。

 せっかく京都まで来て、既存の知識の確認作業に終わったのでは、あまりにもったいない。未知の世界に飛び込んで、自分だけの京都を見つけて欲しいと願う。

 京都に生まれ育って、暦がひと回りを越えて二年が経った。元々が歩くことの大好きな人間だから、これまで京都の街中をいやというほど歩き回って来た。時に地下鉄やバスを乗り継ぎ、ある時は自転車を漕(こ)いで、街中を走り回った。よく喩たとえられる例に倣えば、きっと地球を何周か出来るほどだろうと思う。たとえそれが通い慣れた道だったとしても、ふと路地の奥を覗けば、そこに未知の世界が待ち受けている。幾度と無くそんな経験を重ねて来た。

 路地裏細道。そこにあるのは長い時間である。今そこで実際に目の当たりにするものとは別に、その場所に秘められた人々の思い、辿って来た道筋、時間によって積み重ねられて来た歴史。語り継がれている物語。

 本書ではそれらを含めて書き綴った。ただの観光ガイドではないと自負している。

 神社の鳥居や、お寺の仏像。それはたしかに今ここに存在しているけれど、それがここに至るまでには、様々な物語があった。そこを知ることで、より一層、京都旅が愉しくなるに違いない。

 京都は時代都市である。その時代時代によって、顔を変える。顔だけではない。心根も変わってしまう。そこに思いを致さないと、目の前にあるもの以外、何も見えて来ない。

 つまりはイマジネーション。京都を旅するにあたって、最も大切なのは想像力である。そしてそれを働かせるには、表通りではなく、路地裏細道の空気を味わうことから始めればいい。

 誰も居ない路地。寝そべる猫だけが唯一の生き物。だが、そこには無数の魂が蠢(うごめ)いている。遠い過去。つい最近のこと。悠久の時の様々が路地裏には流れている。

 それらをつぶさに辿ることが、一見、遠回りのようだが、京都を知る、一番の早道だろうと思う。どうぞ存分にお愉しみあれ。

 

京都の路地裏/目次

はじめに──本書の取り扱い説明書。脇見、或いは道草のススメ

第一章 京都の路地ろーじ
●ろじ ではなく ろーじ
●路を曲げさせることができた人々
●京の路地は良くも悪くも秀吉のおかげ
●天使突抜──秀吉の専横に対抗した都人の思い
●撞木図子──街の艶を残す、通称“ビストロ図子”
●衣棚通──秀吉による区画施策「天正の地割」が残したもの
●了頓図子──天下人と茶人の交わりの跡
●路地の愉しみ方歩き方
●路地にある店には、縁を結ぶ神さまが住む

第二章 路地裏細道の神さま仏さま
●地図に載らない京都の寺社
●京の街角のあちこちにいる地蔵さま
●幸神社──都の鬼門を守る
●御金神社──財運、金運祈願の参拝者が絶えない
●武信稲荷神社──境内のエノキの大木は何を見てきたのか
●菅大臣神社 北菅大臣神社──「飛梅伝説」に思いを馳せて
●三嶋神社──知る人ぞ知る霊験あらたかな子授けの社
●達磨寺──知る人ぞ知る紅葉の名所
●梅林寺と稲住神社──陰陽師ゆかりのパワースポット
●粟嶋堂宗徳寺──女性の守り神として古来より慕われた
●瑞泉寺──繁華街の真ん中で、戦国の非情さを湛える

第三章 路地裏細道の不思議発見
●都伝説、奇妙・奇怪な逸話の数々
●宗旦稲荷──白狐の伝説が今なお残る
●おかめ塚──八百年、都を災禍から守り続けてきた“お亀”とは
●首振り地蔵──地蔵さまの頭をぐるりと一回転させて願掛け
●鐵輪の井──女が夜な夜な怨みを抱いて通った所
●神田明神──平将門の首が晒された場所
●鵺池──人々を怖がらせたモノノケとは
●蜘蛛塚──上品蓮台寺と北野天満宮、いずれにも伝わる蜘蛛伝説
●猫の恩返し──西陣のど真ん中にある猫寺
●迷子の道しるべ──新京極通りの縁結びの寺の謂れは

第四章 路地裏細道の名店案内
●「そこでしか買えない」貴重な店は細道にある
●『大黒屋鎌餅本舗』──古式ゆかしい佇まいの菓子屋
●『野呂本店』──この店一軒でしか買えない漬物を
●『ギャラリー遊形』──京都の老舗旅館の名残りをお土産に!
●『裏具』──人知れない細道にある小さな和の文具店
●『名月堂』──他に類を見ない、儚く、艶っぽい《にっき餅》を
●『欧風堂』──京都で古株の洋菓子店で、昔ながらのワッフルを百五十円で
●『幸楽屋』──普段使いのお値段で、茶席で通用する上品かつ見事な和菓子
●『松屋常盤』──一子相伝で伝えられてきた名品《味噌松風》とは
●『大國屋』──ここにしかない《ぶぶうなぎ》セットのために錦市場へ
●『菱屋』──二週間も手間をかけて作るおかきの繊細さ
●『あじき路地』──昔のままの小さな路地に、小さな店が並ぶ

第五章 路地裏細道の美味しい店
●なぜ路地裏細道のお店は美味しいのか
●京都で“江戸”!?
●『鮨よし田』──京都で食べる極上の江戸前は、格別 ※こちらのお店は移転しました。
●『鮨まつもと』──鮨は江戸前なれど、店内ははんなり
●『点邑』──名旅館「俵屋」の客も通う天麩羅屋
●京都の和食でぜいたく
●『桜田』──厳選された素材の“ありのまま”を大切にした日本料理の名店 ※こちらのお店は閉店しました。
●『燕en』──正統派の和食店だが、その範疇にとどまらない、お気に入り店
●『千ひろ』──この椀を味わうためだけにここを訪れたくなる、京割烹店
●『上賀茂秋山』──市街から外れた鄙の地で舌鼓が打てる、唯一無二の店
●『祇園丸山』──真っ当な日本料理の伝統を継ぐ、意工夫に満ちた第一級店
●『近又』──「日本旅館で食事」も、京都人の愉しみ方
●京都は洋食天国
●『モリタ屋木屋町店』──鴨川の川床で食べるすき焼きは、格別の味
●『洋食の店みしな』──正しく継承された“花街の洋食”で、本当の京都らしさを
●『グリル富久屋』──舞妓さん好みの洋食をお気軽に
●『ビフテキのスケロク』──懐かしのビフテキをおまかせコースで
●『はふう』──京都で肩肘張らずに美味しいステーキを食べる
●『キッチン・ゴン』──西陣の職人たちの胃袋を支えてきた洋食店
●『キッチンパパ』──米を美味しく食べるために出来た、お米屋さんの洋食店
●『洋食のらくろ』──京都の学生にも人気のトルコライスが食べられる店
●『板前洋食彌生』──よほどの京都通でなければ知らない、美味お約束の隠れ家
●京都で質の高いイタリアン、フレンチも
●『宮川町さか』──京町家らしい割烹スタイルで、ワインとイタリアン・フレンチ
●『リストランテ・オルト』──「菜園」を店名に冠した店で、京鴨のハンバーグ
●『リストランテ・美郷』──“京町家で本当に美味しいものを食べられる”稀少な店
●地元民に愛される店で、京都通
●『大弥食堂』──京都の出汁の旨さを愉しめる「のっぺいうどん」がおすすめ ※こちらのお店は閉店しました。
●『食堂殿田』──オバアちゃんが丁寧に作る、素朴なうどんの味とは
●『上七軒ふた葉』──最近食べられる店が減りつつある「茶そば」を京都らしく
●『めん房やまもと』──地元民のオアシスで、手軽な京都の味を
●『おやじ』──“京都が香ってくるソース焼きそば”には、ある逸話が
●『本家尾張屋』──京都の老舗中の老舗で、そば料理に舌鼓
●『六波羅飯店』──京都人の好きなカレーラーメン
●『満寿形屋』──普段使いの商店街のうどん屋。名物は、なぜか鯖寿司
●『とんかつ一番』──これほど京都らしい店はない!路地裏細道の意外な模範店
●京都の鰻も見逃せない
●『西陣梅乃井』──西陣で食べる、ふんわり焼きあがった鰻
●『西陣江戸川』──大正時代に建てられた町家で食べる鰻
●『かね正』──きんし玉子がたっぷり載った関西風地焼き鰻の人気店
●『う桶や「う」』──桶に入って出て来る、名物《う桶》で心ゆくまで鰻を
●京都で呑む
●『釜めし月村』──「居酒屋以上、割烹未満」の酒飲みの楽園
●『まんざら亭烏丸佛光寺店』──京都人が日頃から愛する居酒屋的料理店
●京都はラーメンも有名
●『新福菜館三条店』──黒いスープのラーメンが後を引く ※こちらのお店は閉店しました。
●『京都北山元町らーめん』──幻のラーメンが復活!昔ながらの味を
●京都で喫茶はひと味違う
●『フランソア喫茶室』──イタリアンバロックの、“喫茶店”でなく“喫茶室”
●『アッサム』──哲学の道の近くで、鉄瓶で丁寧に淹れた紅茶を

おわりに──ブームでない、真の京都の姿を追う
MAP
巻末付録 掲載スポット・掲載店リスト

*  *  *

次回「路地にある店には、縁を結ぶ神様が住む」は10月15日(木)に公開します。お楽しみに!

関連書籍

柏井壽『京都の路地裏 生粋の京都人が教えるひそかな愉しみ』

観光地化された京都には、京都っぽいものが溢れており、本当の京都はないと著者は憂う。古き良き京都らしさが残っているのは、地元民の生活感が漂う、大通りから一本入った路地裏の細道。そこを歩けば、地元民が参拝に通う小さな寺社や、昔からの言い伝えが残る不思議スポット、多店舗展開しない漬物の老舗、一子相伝の和菓子屋、舞妓さんが通う洋食屋、京風料理ではなく本当の京料理を出す和食店……に出会える。京都に生まれ育ち、歩き尽くした京都のカリスマが、「本当は教えたくない」とっておき情報を紹介。

柏井壽『京都の定番』

近年、穴場的な「隠れ名所」が注目されがちな京都。だが、京都を愉しむなら、まず「定番」を押さえたい。誰もが知る名所・名店・祭事でも、その成り立ちや、今に至る歴史の流れまで知る人は少ない。名刹の背後にある物語、「京都風」でない真の京料理を守り続ける料理人の心意気、都人の春夏秋冬の愛で方、花街のルールなどについて知ると、京都の奥ゆかしさや美しさの理由が分かる。この街で生まれ育った著者でさえ、定番を改めて辿ってその奥深さに驚愕した。数多の情報に振り回されず、本当の京都を知るための究極のガイド。

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《京都ガイド本大賞・リピーター賞》受賞!京都の路地裏

 「私は京都好き」と言いたいあなたのために、本当は内緒にしておきたい(←編集者の本心!)、とっておきの名所・名店を紹介します。

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柏井壽

一九五二年京都市生まれ。大阪歯科大学卒業。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都の魅力を伝えるエッセイや、日本各地の旅行記などを執筆。『おひとり京都の愉しみ』『極みの京都』『日本百名宿』(以上、光文社新書)、『京都の路地裏』(幻冬舎新書)、『日本ゴラク湯八十八宿』(だいわ文庫)、『おひとり京都の春めぐり』(光文社知恵の森文庫)、『泣ける日本の絶景』(エイ出版社)ほか多数。
自分の足で稼ぐ取材力と、確かな目と舌に定評があり、「Discover Japan」「ノジュール」「dancyu」「歴史街道」など、雑誌からも引っ張りだこ。京都や旅をテーマにしたテレビ番組の監修も多数行う。
柏木圭一郎名義で、京都を舞台にしたミステリー小説も多数執筆する一方、柏井壽本名で執筆した小説『鴨川食堂』(小学館文庫)が好評で、テレビドラマ化も。
二〇一三年「日本 味の宿」プロジェクトを立ち上げ、発起人として話題を集める。
二〇一五年、京都をテーマに発足したガイドブックシリーズ「京都しあわせ倶楽部」の編集主幹としても。
プロフィール写真撮影:宮地工

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