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これはただの買い物じゃない

2026.10.11 公開 ポスト

ものに込められた歴史、ものに込める歴史富永京子

最近はファッションやアート系の企業やプロジェクトとの協業も多い。ファッションもアートも好きだし、やはり好きだともっと知りたいと思うので、勉強したい分野が勉強できているのでとてもありがたい。いま楽しみにしているのが、「エスパス ルイ・ヴィトン 東京」でのプログラム「InSitu2 – Ibasho (居場所)」におけるレクチャーである。

 
ウィーンのルイ・ヴィトンの外観。クラシックな外観に比して、店内は近未来的

そこで……というか、もちろんプログラムとは直接関係ないのだが、こうしたイベントがあると、関連の深いブランドにも興味が湧くのが常である。そのため、イベント用の仕事着を購入しようと思って、ウィーンのルイ・ヴィトンに行ってみた。クラシカルでありながらも近未来的なインテリアが印象的で、すこしアミューズメントパークのようでもある。

服のマテリアルもシルエットもとにかく多様、多彩だ。オペラにも着ていけそうなクラシックなワンピースから、村上隆とのコラボレーションに代表されるようなサブカル好きが気に入りそうなものまで、ここに入ったら必ず何か欲しいものが見つかるだろう、という多種多様な表情を見せる品々がとにかく印象的だった。

クラシックとポップ、エレガントとストリート、日常と非日常を縦横無尽に行き来するから、試着するだけでも違う自分と何人も出会える気がするし、それがおしゃれの面白さ、という気もする。ただ、試着室のピカピカもいいが、私が楽しみになったのは、むしろそれが自分の手や足に馴染んで行く過程だ。

ウィーンに限らず、ヨーロッパを歩いていると「いい感じに馴染んでいる」ヴィトンの茶色いトートバッグ(いわゆるネヴァーフル)を持っている人とよく遭遇する。

特にいいなぁと思うのはアイコンバッグのスピーディで、ベージュのレザーハンドルや、ブラウンのモノグラム・キャンバスも持ち主の手に数多く触れて柔らかい表情を見せている。本当にその人と同化しているため、それがヴィトンなのか一見しただけではわからない、という印象も受ける。

私が関心を持ったのはむしろ、アミューズメントパークと見紛うようなピカピカと、どのブランドであるかに関心を持たなくなるほどその人に馴染むということがひとつのブランドのアイテムにあるということで、これほどの個性や独自性が持ち主の生活と調和する過程を楽しんでみたいと思ったのだ。

思えば私とルイ・ヴィトンの出会いはこれが初めてでなく、2016年に東京都千代田区紀尾井町で行われた「空へ、海へ、彼方へ──旅するルイ・ヴィトン展」を見てからである。たまたま私の滞在していたホテルから近く、立ち寄ってみたところ「板垣退助の使っていたヴィトンのトランク」をはじめとする数々の品があり、その歴史と生活への「馴染み方」になんともいえない格調を感じてしまった。

トランクはひとつひとつオーダーメイドであり、本をたくさん入れる人もいれば、食器の持ち運びに使われるものもある。ものによっては本棚やチェストなどの機能を兼ねるものがある。持ち運びの可能なトランクと家具の間を行き来する道具、というのも面白い。もちろんオーダーメイドのものだから作った時点でその人向けのものではあるのだろうが、使い手の生活になじんでいく過程が未来から見られるのは贅沢な経験だった。

2016年展示の写真。よほど印象深かったのか、今でもカメラロールに保管していた。

服でも鞄でもトランクでも建築でも、使えば古びるが、それはその環境に「馴染む」ということでもある。風や陽の光にさらされ、建物や身体と接触すれば、もとのままではいられない。その「変質」をどう作り手が先取りして読み込み、一つ一つの作品に織り込んできたかということでもあるのだろう。そう考えると、作り手は使い手に使われる未来におけるものの変質を想定し、現在のものづくりに込めている。使い手は作り手の想定した未来通りには生きない(使わない)かもしれないが、長く使えば使うほど、自分なりのものとの生き方を考案したり、工夫したりする。その中で「馴染む」「その人のものになる」という過程が生まれてくるのだろう。

私は銀座並木通りのルイ・ヴィトンの外観が好きで、前をよく通るのだが、ヴィトンのイメージは、見る角度によって、気候によって、全く違う表情を見せるあのファサード(※建物の正面)にもよく似ている気がする。一見ピカピカで、非日常的かつ個性的な外観に驚くのだが、私たちの日々過ごす街の風や陽の光、歩く姿を受け止めながら、街を使う人と一緒に生きているようにも思う。

さて、私がウィーンのルイ・ヴィトンで購入したアイテムについて最後に書きたいと思う。鞄もトランクもだが、今の私にとって、「馴染んだ」姿をなるべく想定できないものがいいと思ったので、自分にとってすこし非日常感のあるジャージー素材のドレスにしてみた。そのほうが、自分ならではの馴染み方を確認することができると思ったからだ。

さっそく今月末のレクチャーで着るつもりであるが、自分の身体や環境とどう相互作用を起こしながらどう「自分のもの」――それはある種の居場所と言い換えてもしれないがーーになっていくのか、これから楽しみである。

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「買って応援」「買わずに拒否」の先にある、消費と社会の関係とは何か。気鋭の社会学者が自らの財布をはたいて「買い物」を解体する論考エッセイ。

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富永京子

1986年生まれ。立命館大学産業社会学部准教授・ウィーン大学客員研究員。専攻は社会運動論。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了。著書に『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房)、『みんなの「わがまま」入門』(左右社)『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史』(晶文社)、『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論』(講談社現代新書)など。新聞、ニュース番組、ファッション誌、カルチャーメディアなど幅広い媒体で発信を行いながら、社会変革と文化の接点を探り続けている。

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