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これはただの買い物じゃない

2026.06.11 公開 ポスト

目的外利用の社会学富永京子

こういった仕事をしていると「社会運動に関心はあるが、どう始めればいいかわからない。どのように始めればいいのか」と聞かれることがたびたびある。私が真面目なアクティビストなら、署名をしてみようとか、デモの現場に行ってみようとか言うと思うのだが、おそらく私のような不真面目な人間に聞いてくる人は、そうした答えを求めているのではないかもしれない、とも感じている。それで以下のように答えている。

社会運動に慣れていない人は、いつも使っている商品を、正式な用途と異なるやり方で使ってみてほしい。それだけで、「消費者」としての自分の身体を少しだけ変えられる。それにより、受動的で定型化された受け身の消費者から脱却することができる。

こうしたことを考え始めたのは、アーロン・パーザナウスキー『修理する権利』(翻訳版は青土社より)を読んでからだ。

 

本書は、近年販売される精密機器をはじめとする、保証期間の短さや部品交換が不可能な消費財といった「修理できない」剤が、結果として「買い替え」という行為へと私たちを当然のように駆り立て「修理する権利」から私たちを遠ざけている、という議論から始まる。

自分で購入し、自分自身が所有しているはずの商品にすら、例えばメーカー公認の純正品でなければ保証しない、という「決まり」を守るようにさせられているのは、よく考えたら不思議な話だ。私自身、例えばバッグや靴を修理するときなど購入したブランドにひとまず持ち込むが、これが百貨店や街の修理屋さんではいけない理由が明確に答えられるかといえばそうでもない。

修理や買い替えに限らず、財を購入した私たちは、メーカーやブランドの提示した消費のあり方を「正しい」と考え実行している。その振る舞いが強化しているのは、創意工夫や試行錯誤を忘れ、ただ提供された財を提供側の意図に沿って受容するだけの都合のいい消費者である。

では、能動的な主体であるためにどうすればよいだろうか。壊れたiPhoneやパソコンを自力で修理するのもよいが、それはそれでちょっとハードルが高い、と考えた時、あるヘアメイクさんの仕事ぶりを見て、気づかされたことがあった。

私は時折テレビ番組や雑誌の撮影の仕事をすることがあるが、そのたびにヘアメイクさんの、髪を巻く際の手つきや、細くラインを引く技巧といった職人芸にはいつも唸らされる。

かつ、興味深く感じることのひとつに、活用が難しそうなアイテムを、いつも工夫して使っている点がある。ヘアメイクさんが私と同じハイライトを使っていたんので、このハイライト使い方難しいんですよね、と伝えたら「リキッドファンデに混ぜてみると結構面白いですよ」と仰られており、そんな使い方あるのか、と驚いた。インスタグラムのメイクアカウントやYouTubeで活躍する美容インフルエンサーなどをみても、メーカーやブランドに提示された以外のやり方で商品を使っているのをよく見る。

こうした「目的外利用」は、主体を単なる受動的な消費者にさせない。目的外利用をすることによって、他の商品でも代替可能じゃないかと気づくこともあれば、目的外利用に失敗して初めて「だからこの商品はこの用途で使うことが求められているのか」と分かることもあるだろう。いずれにせよ、私たちが財に対して能動性を取り戻す最初の一歩になりうるプロセスではないかと思う。

私自身の目的外利用でいうと、最近「貸しジュエリー」を始めた。いまは、コスチュームジュエリーを中心に勤務先の大学の卒業生に貸し出している。

なんでこんなことを始めたのか。今月発売中の『SPUR』(2026年7月号)の企画で映像作家の上出遼平さんとお話した。そこで気づいたこととして、ラグジュアリーな服やジュエリーというと消費=所有(独占)が重要であるという前提がおそらく多くの人に強くあるのだろうと感じたからだ。私自身もそう考えていたのだが、実はそれ自体が規定された消費のあり方だったのではないかとも思い、少しその前提から問い直してみたくなった。

ジュエリーというと、高価なものであるためか、個人で購入して個人で所有するという意味合いが強くあるが、滅多に使わないようなものであれば人に貸したほうがよいのではないか、と思うようになった。

もちろん、ジュエリーを減価償却の対象や資産・財産としてみるなら、所有者の意図しない汚れ方や壊れ方をするかもしれないわけで、端的にリスクだろう。しかし、独占的に所有し、金銭に替えられるという意味での資産・財産としての価値以外にももっといろんな楽しみ方、愛で方があっていいと思うので、「貸しジュエリー」を目的外利用の一環として位置付けるようになった。

私のジュエリーは、いわゆる金銭に交換可能な意味での「資産」ではないかもしれない。しかし多くの人の楽しい思い出を経験し、いろいろな人に身につけられた写真を撮られることによって、その分多くの思い入れが付与されるだろう。それはそれで面白そうだ。

私の所有から一時的に解き放たれたコスチュームジュエリーは、いま、勤務大学の卒業生が持っている。ご自身の結婚式に使ってくれるそうだ。

貸し出し中のこちらはMiu Miuのネックレス。

 

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これはただの買い物じゃない

「買って応援」「買わずに拒否」の先にある、消費と社会の関係とは何か。気鋭の社会学者が自らの財布をはたいて「買い物」を解体する論考エッセイ。

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富永京子

1986年生まれ。立命館大学産業社会学部准教授・ウィーン大学客員研究員。専攻は社会運動論。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程・博士課程修了。著書に『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房)、『みんなの「わがまま」入門』(左右社)『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史』(晶文社)、『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論』(講談社現代新書)など。新聞、ニュース番組、ファッション誌、カルチャーメディアなど幅広い媒体で発信を行いながら、社会変革と文化の接点を探り続けている。

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