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2021.10.09 更新 ツイート

「えらぶ」に住む少女が抱く 日本復帰運動への違和感 -『神の島のこどもたち』中脇初枝 KIKI

太平洋戦争の戦中・戦後の歴史について、恥ずかしながら詳しいとは言えず、その時代を舞台にした小説を手にすると初めて知ることも多い。本土より南の島のこととなればなおさらだ。

本書の舞台は鹿児島県の沖永良部島。敗戦後、沖縄がアメリカに接収され、1972年まで日本に返還されなかったこと、そしてその事実が現在の基地問題につながることは多くの人が知っているだろう。しかし、沖永良部を含めた奄美群島もアメリカに接収されたことを、わたしは知らなかった。1952年に本土が独立を回復した後も、えらぶ(島言葉で沖永良部のこと)は沖縄と同じくアメリカ統治下に置かれたままだった。その頃から日本への復帰運動は行われていたが、奄美大島とは切り離され、えらぶの復帰が見送られると発表されると、島をあげて奄美群島の全島同時復帰が盛んにうたわれることになった。

 

主人公のカミは島で生まれ育った少女。戦後の貧しい状況では限られた人しか通うことのできない高校の生徒だ。しかし、復帰運動が始まってからは、毎日、放課後に、全校生徒職員でのデモ行進が度々行われていく。カミは「南部二島分離絶対反対」と声を上げる行進に参加するも、どうしても皆と同じように反対の声をあげられなかった。

運動はデモ行進だけでなく、日々の生活にも浸透していく。えらぶは米軍が統治する「沖縄」ではなく、「日本」の一部であることを主張するために、島言葉を話してはいけない、着物の帯は前でなく背中で結ばなくてはならない。復帰をアピールするために沖縄式を排除して日本式に統一していこうと主張する島の人々のなかで、カミは疑問をふくらませていく。

「この島は日本になっていいんだろうか。アメリカの統治のままでいいわけはないけれど、親島の沖縄と袂を分かって、日本になっていいんだろうか」

そもそも「南部」というけれど、それは奄美大島から、鹿児島から、そして日本から見て南であって、カミはそのことにも違和感を抱いていた。この本文の冒頭に、「本土より南の島の──」とわたしは書いたが、それこそ本土が中心であることが当たり前のような言い草である。

カミは飲み込みが遅くのんびり屋さんのように描かれるが、実際は何事にも納得し、理解してからでないと、行動に出られない性格なのだ。疑問を抱いて、その違和感を大切にして、一歩一歩ゆっくりだけれど着実に進んでいく。だからこそ読者であるわたしたちは、彼女と一緒に歩むことで、島の置かれた状況を明快に理解していくことができる。やわらかな島言葉や、豊かな島の自然を交えながら、カミを代表とした島のこどもたちの目線を通じて、沖永良部島というひとつの島の歴史が、体の中に染み込んできた。

「小説幻冬」2020年4月号

中脇初枝『神の島のこどもたち』(講談社)

終戦から7年経ってもアメリカの統治下に置かれていた沖永良部島。そこに暮らす少女・カミの目を通して、自然豊かな島の歴史を、戦争の悲惨さを綴る。

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KIKI モデル

東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。山好きとして知られ、著書に美しい山を旅して』(平凡社)などがある。(photo: ohta yoko)

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