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本の山

2024.02.13 公開 ツイート

現実世界にも通じる奮闘を応援せずにいられない -『グレイス・イヤー』キム・リゲット・著/堀江里美・訳 KIKI

たとえば、夜、寝る前に本を読む。そんな習慣を続けられていたらいいが、4歳、1歳の娘と生活をしていると、夜9時の寝かしつけとともに寝てしまうこと度々。それでなくても普段から集中力が欠けており、日々の読書時間が以前と比べて減っている。仕事机に本が積み重なっていき、まさに「本の山」。でも、読みたい欲は減らないため、眠気に負けず、集中力を展開力で持続させてくれるジャンル、つまりミステリーに最近はよく手が伸びるようになった。

 

本書の主人公は16歳の少女ティアニー。彼女は家族とともに、一見平穏に見えるが、実際は身も心も柵に囲われた町に暮らしている。男たちが常に主導権を握り、女たちが規律を破っていないかと皆が目を光らせているのだ。それは、女たちには男を誘惑し理性を失わせる「魔力」があり、その力から自分たちを守るための権力とされる。女たちは自由に発言できないばかりでなく、夢を見ること、歌を口ずさむことすらも禁じられており、破れば厳しい処罰が与えられる。さらに、魔力が最大限に強くなるといわれている16歳を迎える年に、少女たちは町から追放される。「グレイス・イヤー」とは、その魔力を手放すために過ごす一年のことだ。隔絶された場所に16歳の少女だけで籠り、自給自足の生活を送る。グレイス・イヤーについて話すことは禁じられているために、その間に何が起きているのかは想像するしかない。しかし、一年間を終えて町に戻ってくることができた子たちの姿を見れば、過酷な時間であったことは想像にたやすい。彼女たちは皆、痩せこけて、疲れきって……壊れているのだ。

導入部分だけで、グレイス・イヤーが、そしてティアニーはじめ少女たちの運命が否応なく気になり、ページを捲る手が止まらなくなる。ティアニーは、女たちが持つとされる魔力について、またグレイス・イヤーの存在意義について、決して口に出すことはないが疑問を持っている。だからこそ、一年間のキャンプで、サバイバルの時を過ごしながら、極限の状態でも自らを見失わずに、真実を追い求める。他の少女たちを導こうと奮闘する姿を、応援せずにはいられない。それは私自身、ティアニーとおなじ「女」であり、現実世界でも生じるジェンダー・ギャップに対する闘いが垣間見えるからだろう。

ティアニーが生きる世界はディストピアでありながら、性差別だけでなく、随所に私たちの住む現実世界の問題がちりばめられている。本書の世界は閉ざされているからこそ、それらが可視化され違和感を持つことができるが、現実世界は一応は閉ざされていないために、問題が見えづらい。あるいは、見えないふりをしていないだろうか。寝る間を惜しんでほぼ一気読みだったのだが、集中力を欠く身でそれができたのは、そんな内容に身震いの連続だったからだ。

「小説幻冬」2023年2月号

キム・リゲット・著 堀江里美・訳『グレイス・イヤー』

一気読み必至のディストピア小説。著者は40代で小説を書き始め、5作目の本書がベストセラーとなり、「チャーリーズ・エンジェル」のバンクス監督による映画化も予定されている。

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KIKI モデル

東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。山好きとして知られ、著書に美しい山を旅して』(平凡社)などがある。(photo: ohta yoko)

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