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ハイスペック女子のため息 season2

2021.09.09 更新 ツイート

眞子さまと小室圭さんの門出を祝い、思うは米国弁護士生活 山口真由

内親王眞子さまと小室圭さんが、年内にご結婚されるというニュースを読売新聞がスクープした。

眞子さまがアメリカに渡る可能性が高いという。その背景には、おそらく、小室さんの就職が既に内定しており、経済的な基盤が整うという算段があるのだろう。

アメリカの弁護士の初年度の平均年収が1,800万円とも報道される。確かにそれなら、安定した経済基盤にもなる。ところで、この報道の源になったと思われる記事を確認したところ(https://www.nalp.org/0521research)、回答者に占める大規模事務所の割合が高いように見える。小規模から中規模、大規模へと拡大するに従って報酬も上る傾向にあり、その意味で、平均1,800万円をはじき出した統計は上澄みをすくいあげて、実態よりも上振れ傾向と思われる。

 
(写真:iStock.com/FoxyGraphic)

さらに目を引くのは、2015年に1,000万円超であった小規模事務所での年収は減少の一途をたどり、今は1,000万円に届かないのに対して、大規模事務所では逆に増加し続けていることだ。つまり、格差が拡大し続けているアメリカの法曹界で、どういう就職をできるかということが、ますます重要になる。どういう条件が整えば、“いい就職”ができるのか。

1. 就職と司法試験

日本の司法試験は狭き門である。一方、ニューヨーク州の司法試験の合格率は、70%程度と日本に比べて格段に高い。かの地の司法試験は、医学部を卒業した後の医師国家試験とか、司法修習を終えた後の二回試験に近いところがある。特に、小室さんのように、J.D.と呼ばれる3年制のアメリカのロースクールを卒業した人にとって、司法試験は振り落とすものというよりは、運転免許のように、公道を走るための腕があることを確認する要素が強い。

だから、アメリカでは司法試験に合格する前提で就職が決まっている。7月末に司法試験を受けた後、人生最後の長期休暇をとって一服し、9月か10月には内定をもらった法律事務所で働きはじめるのが普通だ。司法試験の合格発表は10月末か11月か、そのときによっても異なるが、内定先での勤務は合格前から開始しているのだ。もしここで司法試験に落ちていた場合、事務所の中で居心地の悪い思いをしながら、翌2月に再び行われる試験をもう一度受けることになる。

(写真:iStock.com/bakal)

私が就職した頃の日本の法律事務所は、司法試験にさえ合格していれば引く手あまただった。 “事務所訪問”と称して面接を受ける体で、豪勢な食事を何度もご馳走になったものである。それは若くして司法試験に受かった者たちの特権でもある。

司法試験に受かる前に就職が決まるアメリカは、若い合格者の市場価値が高い日本の状況とは異なる。では、なにによって、アメリカの事務所では内定を出すのだろう。

2. 就職とロースクール

アメリカのロースクールは、毎年、格付けされる。1987年のランキング開始以来の不動の格付け1位は、イェール・ロースクールである。スタンフォードとハーバードがそこに続く。この3校の頭文字をとって、HYSと呼ばれるのがSクラスだろう。

そこからさらに、コロンビア、シカゴ大学とニューヨーク大学。NYUとも略されるニューヨーク大学は、“ゴシップ・ガール”の登場人物が通ったことでも有名になった。この3校、頭文字をとってCCNが、それに続く準Sクラスか。

(写真:iStock.com/Angel_1978)

それらを含めて、ランキング14位までのロースクールを、トップ14という意味でT14と呼ぶ。なんとも中途半端な区切りではあるが、多少の入れ替えがニュースになるほど、14位までは1990年代からほとんど変わっていないという。このT14 のロースクールの出身であることは、Aクラス以上の出身であることを意味し、大手法律事務所に就職するための条件とも言われる。

もちろん、それ以外のロースクールから就職する例だってたくさんあるだろう。ただ、日本よりもなお学歴社会のアメリカで、Aクラスというロースクールの下駄を履けないのならば、本人の中身が厳しく問われるだろう。小室さんの出身校であるフォーダム大学のロースクールは、最新のランキングでは35位である。

3. 就職と成績

人物本位の判断をするとして、その基準はなにかというと、ロースクールの1年次の成績である。

9月はじまりなアメリカのロースクールでは、秋学期と春学期と呼ばれる2つの学期がある。そして、春学期が終わると数か月に及ぶ長い夏休みに入る。春学期の期末試験を終えて、解放感にあふれる1年生たちは、背伸びをし続けた疲れをいやすために、故郷へと旅立つ。

その直前に、名だたる法律事務所が、ロースクールのキャンパスや近くのホテルを貸し切って、インターン面接をするのだ。そのときの基準は1年次の成績で、そこで優秀さを証明したロースクール生は、有名なローファームからオファーをもらえる。そして、このインターンこそが、将来のステイタスを保証してくれる。1年次でインターン先を見つけた彼らは、2年生の夏休みにそこで研修し、ほとんどの場合そこから正式な内定をもらえるのだという。とはいえ、実際には、名門ロースクールで優秀な成績を修めた学生は引く手あまたで、インターンとは名ばかりの、ランチ、ディナーの接待漬けで、給料までもらえる場合もある模様。

日本では若くして司法試験に合格することが売り手優位の市場に躍り出ることだった。一方のアメリカでは、名門ロースクールの1年生の成績こそが、将来の“チャンスの扉”を開くためのチケットともいえる。ある意味、法律事務所は、日本よりもさらに青田買いをしており、どこも欲しがる優秀な人材を、なるべく早くに囲ってしまいたいのだ。

4. 1年生というプレッシャー

こういう事情があるから、ロースクールの中では、1年生の教室が一番ピリピリとしている。1973年の『ペーパーチェイス』という映画は、ロースクールでの熾烈な競争を描いたものとして知られるが、その舞台が1年次の生活だ。

1年生の教室はまさに競争社会の縮図だ。例えば、教授の投げかけた質問に、我先に答えようと、耳の後ろにピンと挙がった生徒の手は、それぞれの必死な自己主張をあらわしていて涙ぐましい。また、突然、教授から指名されて、圧迫面接並みに強めの質問攻めに遭うコールドコールで、その揺さぶりに反して、なんとか自分の論理を維持した学生は、教授から「名前は?」と尋ねられたりする。それはまさに教授に認められた瞬間であり、学生の顔には勝者の笑みが浮かぶ。

深夜の図書館で血走った目をしているのは、だいたいがこの緊張のさなかを生きる1年生である。あまりに苛烈なプレッシャーに、ときに将来を約束されたはずの若い学生が自ら死を選ぶ悲劇すらあったという。その反省から、ロースクールの成績は、A,B,C,D判定ではなくて、合格/不合格方式に転じられたというのに、状況はさほど大きく変わらない。

なぜ、法律事務所が1年生の成績を重視するかといえば、それはそこだけが比較可能だからだ。2年次、3年次とほとんど選択式で自由に授業を組み合わせるロースクール生は、1年生のときだけはほぼ必修で、全員が同じ教室に座る。これは、評価する側からすれば一列に並んだ可能性のタマゴたちということだ。

(写真:iStock.com/maximmmmmum)

が、これを評価される側からしても同じである。最も濃密な時間を、机を並べて生き抜いた戦友たちの絆は、数十年経ってもなお、彼らを強固に結びつける。アメリカの大統領候補も、最高裁判事候補も、必ず同級生の評価にさらされる。「彼は優秀で、そしていい奴だった」と言われるか、「頭はいいけど、最低のパリピで、自分がエリートだって鼻にかけて、酔わせた女の子たちにひどいことしてた」という証言が飛び出るか。数十年のときを経て、彼らはまたあの1年生の教室に向き合うことになるのだ。

そして、学生時代に公私を共有した者たちだけが持つ鉄の結束が、アメリカのエリートサークルを排他的なものにしている。どれだけ能力が高くとも、移民がここに食い込むことは困難だろう。

5. 小室さんの場合

さて、小室さんの場合には、いくつかの特殊性がある。まず、彼の場合には、LL.M.という外国人用の1年制のコースに進学して、そこからJ.D.という3年制のアメリカ人用のコースに編入した。これは異例のことだ。私が、この事情をアメリカのロースクールの友人に説明したところ、彼女は「まさか!」と鼻で笑った。

そして、ここで問題になるのは、彼の場合には、一番大事な1年生の経験が、他の人とは異なりうるということだ。つまり、J.D.の1年生と同じ教室に座って、あの汗と涙の洗礼を一緒にかいくぐったという実績が仮になければ、アメリカのエリートサークルを構築する同窓生の鉄の団結の外にいる可能性がある。

さらに、昨年からコロナの影響でインターンがほとんど実施できていないらしい。ICU卒業後に、当時の三菱東京UFJ銀行で法人営業部という“エリート部署”に配属された小室さんは、おそらく、面接での評価が抜群に高かったのだろう。そのアピール力が彼の類まれな才能だとした場合、直接相まみえることが難しい、このコロナという災いは、彼の就職にどのように影響したのだろうか。

ただ、彼のロースクール生活が本来のものとは違ったとした場合、その多くは、日本のマスコミに由来し、そして、そのマスコミの向こうには私を含む日本からの好奇の目が存在する。それを反省しつつ、異国の地で門出を迎える若いカップルを、今後はもっと温かい目で見守りたいと思う。

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ハイスペ女子は自分で自分が面倒に思うこともある。社会に邪険に扱われ、「なぬ?」と思うこともけっこうある。今日もぶつかる壁や疑問を吐露する社会派エッセイ。

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山口真由

1983年、札幌市生まれ。東京大学法学部卒。財務省、法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。2017年にニューヨーク州弁護士登録。帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に入学し、2020年に修了。博士(法学)。現在は信州大学特任准教授。「超」勉強力』(プレジデント社、共著)いいエリート、わるいエリート(新潮社)、『高学歴エリート女はダメですか』(幻冬舎)など著書多数。最新刊は『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)。 
山口真由オフィシャルTwitter

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