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私と本棚

2021.07.14 更新 ツイート

#12

“裸”の見せ方が少しずつうまくなっているみたい りょかち

「自撮り女子」として名を馳せたりょかちさんは、“見られる自分”というものに敏感な世代のおひとりでしょう。最近、大手IT企業を辞め、独立。本棚はそんな彼女の何を映しているのでしょうか?

嘘偽りないわたしがいる場所

あらゆるものの中で、”一番見られると恥ずかしいもの”と思っていたのが本棚だった。

 

実家に住んでいるときには、鍵のついた本棚を使っていた。今でも、はじめて自分の家に恋人を招く時、いかに自分の本棚を隠すかに頭を捻っていたことを覚えている。

実家の鍵のついた本棚

なぜ人は自分の家や自邸にある本棚を他人にやすやすと見せることができるのだろう、わからない。だって、本棚には、自分の本当の姿がぎっしりと詰まっているじゃないか。しかも、そこにある自分の要素は、一生懸命取り繕った見せかけではない、自分の脳みその中身だったり、思考回路の一部分だったりするわけである。

本音と建前が性分の京都人の私にとっては、到底理解できない。自分の心の声や思考回路を、他人に対して無防備に露出しているようなものだ。物理的な裸を見られるよりもずっと恥ずかしい。そんなふうに思っていた。

 

本棚は、嘘偽りない本当の自分の姿。

見せかけばかり気にする私は、本棚に向き合うたびにそう思う。

高校生の頃は、誰とも趣味を共有せずに好きだったロックバンドのインタビュー雑誌がびっしりと詰まっていたし、大学で経営学部に入学すると、目新しい経営学の本が並んだ。それから、神戸のおしゃれな同級生たちに追いつくための雑誌も。

IT企業にWEBディレクターとして採用されたときには、はじめて技術本を本棚に並べることになった。カーネギーからオライリーへ。最初は本棚の中であまりにも異質に見えた技術にまつわる本も、趣味のエッセイ本などと一緒に並べているうちに、今やそのちぐはぐさが自分らしいと思えるようになっている。

仕事用の本を並べているうちに、システムだとか開発手法というよりも、デザインとかUXとかストーリーテリングの本がどんどん増えて、並べている本から逆に興味領域を教えてもらうこともあった。本棚は私にいろんなことを教えてくれる。メンタルフルネスの本やどこか遠い国に旅に出るエッセイが増えてきたら、メンタルに不調がきたしている、とか。自分はもう、少し前まで夢中になっていた領域の知識に、実は全く興味がなくなっている、とか。

本棚に並ぶ本の並びを見れば、悩みを書き出してみるよりも、今の自分の姿がわかる

そこに、本当の自分がいる。そう思えるのが、本棚という場所だった。

 

とはいえ、本棚を見せないために、他人を全く家に入れないというのは、20数年生きていると非常に難しいことである。歳を重ねるごとに、他人と交わるごとに、私と本棚の付き合いも、どんどんずる賢いものになっていった

あまりにも人に見せるのがはばかられるもの――といっても特に卑猥だったり特殊だったりするわけではないのだけど、自分のコンプレックスに添いすぎているものだとか、あるいはあまりにヲタク趣味なものだとか、そういう本は電子書籍で買うようになった。

電子書籍の一部

反対に、自分を簡潔に表している本は、常に見えやすい場所に置いたりもするようになった。

もちろん、そういったくだらない工夫だけ上達したわけではない。外出中にもたびたび参照するような本は、スマホで書籍内をキーワード検索できるように電子書籍で買うようになったし、学習用の本は必ず紙で買ったほうが良いと学んだ。金銭的に余裕が出てきて、大好きな本はいつでも見れるように紙と電子両方で買うほうが結果的に満足度が高いという結論にもたどり着いた。電子書籍が出てきたことで、本との付き合い方もより自分の暮らしに適したものにできるようになったのである。

本を使って勉強したり、本を使って仕事をしたり、本を使って休息をとったり、時には他人に本を貸したり。本と、そして他人と暮らす中で、自分と本棚の付き合いも、徐々に柔軟になっている。

 

そして、ついにこの本棚を見せるエッセイの依頼が来た時、「はい、おねがいします」と言ってしまった。

特に抵抗する気持ちもなかった。ただ素直に「書いてみたいテーマだ」と思ったのである。

他人の前で丸裸になるよりも恥ずかしかった本棚を、不特定多数に公開できるようになったのはどうしてだろう

本当だろうと見せかけだろうと、自分を他人に勝手に解釈されることへの諦めだろうか。それとも、誰かにどう思われようと、本当に大切な友人たちとの関係は揺るがないだろうという信頼だろうか。

本棚はたしかに自分の今の姿を如実に表しているけれど、本棚から出してしまった本も数多くある今、本棚に映し出される自分は自分のごく一部分だと感じるようになったからかもしれない。

なんにせよ、他人の前で上手に裸になるすべを身に着けたのだろう、と思う。そしてそういった姿勢もまた、本棚に現れているのかもしれないと思った。恋人と暮らすようになった部屋に置いてある本棚は、今も嘘はなく自分自身を映す鏡のようだが、昔ほど他人を強固に拒むようなラインナップにはなっていない。むしろ、自分を見せることで、自分の本心で誰かとつながれることを楽しめるような本の並びになっているように思う。

本棚は今や、自分自身の構成要素を見せてくれるものであり、他人との交わり方を見せてくれる場所にもなっている。これからも、部屋の片隅で、丸裸の自分を育てながら、社会との向き合い方も成熟させていきたい。

東京の自邸の本棚

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私と本棚

コロナ禍で明けた2021年。生活が変わり続けるなかで頼りにしたい私と本と本棚の話。

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りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題になる。新卒でIT企業に入社し、WEBサービスの企画開発・マーケティングに従事した後、独立。コラムのみならず、エッセイ・脚本・コピー制作も行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎刊)。その他、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで連載。

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