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私と本棚

2022.10.05 公開 ポスト

「埋もれた女性たち」を描くために…資料と除籍本で限界を超えた本棚平山亜佐子(文筆業、挿話蒐集家)

時代の道徳観にとらわれず自由を求め、破天荒に生きた実在の女たちを描き続ける文筆家の平山亜佐子さん。教科書に載らない、歴史に埋もれた人物を対象とするだけに、その調べものを支える本棚はどうなっているのでしょうか――?

希望は資料はすべてデータ化、すべて検索

本棚は人を表わすというが、わたしの本棚は四つの形態を経た自分史そのものである。

 
私室の本棚全景

第一形態 絵本、児童書

文字が読めるようになった頃から10歳くらいまでが人生で一番本を読んだ。

愛読書は当時の定番、『こねこのぴっち』、『ノンちゃん雲に乗る』、『長靴下のピッピ』、『メアリーポピンズ』シリーズ、ムーミンシリーズなど。だが、原物はほとんど残っていない。家になるべく本を置きたくないというのが実家の(というより母の)方針だった。祖父が大学教員で家中に本が溢れていた、その反動らしい。10歳で兵庫県から東京に引っ越したときに相当手放した。

社会人になって一人暮らしをして最初にしたことは、絵本や児童書を買い直すことだった。今思えば居場所をつくるような気持ちだったのかもしれない。ほかにも気になる子どもの本があればどんどん買った。社会人1、2年目でもそこそこの給料をもらえる好景気の時代だった。

第二形態 ヴィジュアルブック、アートブック、雑誌

新卒でデザイン事務所に就職し、十数年をエディトリアル・デザイナーとして過ごした。現在使用している大きい本棚もその頃に買った。90年代に東急ハンズで取り扱っていたLB1000シリーズという組立式のもので、頑丈でどんどん増やせるのが気に入った。会社では色違いの黒を使用していた。

デザイナー時代に買っていたのは画集、写真集、海外ファッション誌などのビジュアルブック。読んでいたのはおもに海外文学だった。ブックオフに足繁く通って角川文庫の赤いチェック柄の少女小説シリーズや、映画のノベライズを揃えた。高校時代にパルコブックセンターで立ち読みしていたアートブックも買った。アメリカのオークションサイトで60年代の雑誌や写真集も買った。気になったものは値段も見ずに買っていたような気がする。

第三形態 資料

13年前にひょんなことから本を出した。

きっかけははてなダイアリーに書いた女性の評伝に関するエントリ。それを膨らませてエキサイトのブックエッセイ欄「ニュースな本棚」に書かないかと言われた。当時エキサイトに勤務していてはてなダイアリーユーザーでもあった堀越英美さんからのお誘いだった。そして掲載された記事を見た書籍編集者にお声掛けいただいて20世紀を生きた国内外の女性20人の抄伝集を書いた。偶然が偶然を呼んだのだった。

それから今まで気付けば5冊書いていた。どれも調べて書くタイプのノンフィクションで資料が飛躍的に増えた。テーマはおもに明治から太平洋戦争前のいわゆる近代期。資料のほとんどが古本である。アマゾンやオークションサイト、日本の古本屋などを巡って探す。

コレクターではないので読むのに支障がなければ少々傷みがあっても構わない。多くのものに当たりたいので図書館も駆使する。それでも手元にないと書けないものもあってどんどん増殖した。自室の本棚には入り切らず、仕事部屋に無理やり本棚を増やして入れた。それでも入らずデスクに並べた。大量の複写物も登場した。これは百円均一のプラスティックケースに入れてラベルを付けて本棚の上に並べている。

正直これが正解かわからない。本当はすべてデータ化して自由に検索できるようにしたい。「女給」と入れるだけで女給に関するすべての資料が出てきたらこんなに便利なことはない。しかし時間的にも技術的にも実現にはほど遠い。

第四形態 除籍本

6年前から大学図書館に勤務し始めた。一番の理由は、資料が借りられるためだ。公共図書館には学術書の類いは置いていない。都立図書館や国会図書館は閲覧のみ。購入と閲覧の間にあるのが貸出である。

大学図書館は貸出はもちろん、目録や辞典の参照もできる。新聞のデータベースも見られるし、他機関から複写も取り寄せられる。さらに資料調査のスキルも身に付けられる。いいことづくめだが、ひとつ盲点があった。除籍本をたくさんもらえる点だ。いや、別にもらわなければいけないわけではない。当然ながら好きでもらっているのである。

しかしこれが困る。際限なく増殖する。今すぐ必要なものもなかにはあるが、自分のテーマに被るか被らないかくらいのものが多い。買うほどではないし借りて読む時間はないが、家にあったらいざというとき便利。この「いざというとき」というのが曲者である。永遠に来ない可能性が高い。

残りの寿命もせいぜい30年くらいなのだ。でも考えようによっては残り少ないからこそ、備えておきたいとも言える。資料探索の時間も馬鹿にならないからだ。しかしここでとうとう本棚の限界を超えた。自室の本棚にも仕事部屋の本棚にも入らない(写真では少し整理している)。仕方なく椅子に積んでいる。実は職場のロッカーの中も満杯で紙袋に入れて上に積んである。こちらも限界に近い。除籍は半期に一度やってくる。もはやどうしたらいいのかわからない。

 

そういうわけで、わたしの本棚には絵本と画集と戦前の本と図書館ラベルに×がついた除籍本が混在している。さしあたって必要な資料は仕事部屋に移動する。本を書き終ったら入れ替える。その方法でなんとかやり過ごしているが、本当は引っ越したい。そして前後二段に本を入れるのではなく、きれいに一段ですべてが見えるほど大きな本棚が欲しい……などと欲望は尽きない。

とはいえ、脈絡のない今の本棚も、自分史の顕在化と思えば案外嫌いじゃないとも思う今日この頃である。

 私室の本棚。絵本と画集と資料の混在。前後二段に入れているので後ろは前の本を出さないと見えない。
私室の本棚。今まで集めた資料は百均のプラケースに入れてラベルを付けて棚の上に並べている。
パソコンの脇。同じく近代文学、新聞史、女子労働、下層社会研究の本が並ぶ。
仕事部屋の本棚。現在は「夫人小説」に関する連載と婦人記者に関する書き下ろしをしている関係で、近代文学、新聞史関連の資料が多い。

*   *   *

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私と本棚

コロナ禍で明けた2021年。生活が変わり続けるなかで頼りにしたい私と本と本棚の話。

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平山亜佐子 文筆業、挿話蒐集家

戦前文化、教科書に載らない女性の調査が得意。既刊に『20世紀破天荒セレブ ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝 莫蓮女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)がある。『純粋個人雑誌 趣味と実益』発行。唄のユニット2525稼業所属。大学図書館勤務。

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