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カニカマ人生論

2021.04.07 更新 ツイート

音楽大学 清水ミチコ

高校時代のある日、担任から「おまえは音大に行ったらどうだ」と言われました。ピアノも好きだし、習ってもいた私は、(それもいいな~、楽しそうだな~)と、漠然とドイツ語のロゴの楽譜を胸に、廊下を歩いている優雅なキャンパスライフを想像しました。

 

じゃあ、その受験のためには、どこをどう目指せばいいんだ、と思い、とりあえず本屋さんで大学進学のガイドブックを購入し、パラパラめくっていると、思いもしなかった、驚きの事実が判明しました。私はガクゼンとし、目はページに釘づけのまま、固まりました。というのは、著名な大学も、名前を聞いたことのない短大ですら、「〇〇音大」と、音楽大学という名前がついたとたん、学費が極端にポーンとはねあがっているからなのです。びっくりしました。音大って、あんなにお金がかかるもんなんですね。いっそ「音代」と書いた方がよさそうです。

でも、変じゃないですか? だってクラリネットだのバイオリンだの、そりゃあ、個人の楽器代はそれなりにかかるかもしれないけど、でもそれらは個人の持ち物になるのだろうし、ピアノだって、学校にはそれこそたくさん設置されてるはず。何の料金がどうなって、授業料があんなに高く膨れ上がってるんでしょう。え、おかしいでしょ? と、通ってないのにムキになったりして。とりあえず、ビンボー症な私は、その額面を見ただけで(親に悪い)、とすぐに本を閉じ、結局は一校も受験することなく、終わってしまいました。同時に(好きな事が、毎日の義務となるというのは荷が重そうだな、音楽が嫌いになっちゃわないかなあ)、ともうっすら想像しました。まあ受けたとしても、合格してなかったでしょうが。

ところで音大といえば、大人になってから知り合った、音楽の専門学校の講師がいるのですが、いつだったか、彼女がこんな話をしてくれました。毎年毎年、当然ながら新入生が入ってくるワケですよね。で、その生徒さんたちを見ていると、一番前に座ってきちんとマジメに一生懸命ノートをとる生徒がいる。そして反対に、後ろの席の方でいつまでもダラダラしゃべったりふざけてばっかりいる、しょーもない生徒がいるのだと。だいたいこの二つに分かれるんだそうです。ところがです。そんな生徒さんたちが卒業する頃は、なぜかそのダラダラ派の方が、結果的にいいところに就職できてたり、のちに音楽業界で活躍したりしている、と言うんですね。これもまた毎年、同じようなカンジだと。なんて不平等なんだ! な話ですが。

おそらく、ダラダラ派というものは、(黒板に書いてある記号を覚えたって意味がない)ということを、どこかでわかってるんじゃないでしょうか。そして、マジメなタイプはきっちり勉強、暗記などしてしまうことで、かえって音の遊びみたいなことができなくなるんじゃないか、と思われます。「音楽」というものを「学問」と捉えるのか、「遊びの延長」と捉えるのかと考えてみると、やっぱり後者の方が、業界には向いてそうです。大事なポイントは、知識なんかより、やっぱりその人の音楽的な発明や冒険、オキテ破りなどにありそうです。

それと似たような話を、お笑いの学校に通う生徒の態度でも、聞いたことがあります。やはりどこかで笑いの基礎ができてるタイプ、身体に備わってる人間というのは、(大事なことはここじゃ学べない)、とどこかで嗅ぎとっているらしく、決して品行方正ではないと。ではなぜ来たかと言うと、とりあえず学校へでも行くしかない、と何となく思っただけなんでしょう。高校卒業直後なんてそんなものです。音楽もお笑いも、遊びの延長だと思うと、学校で学ぶことなど本当はものすごく少ないのかもしれませんが、それでもしばらくそこにいて過ごすことは、やっぱり意味がありそうです。なにより自分と同じ価値観を持つ仲間がすぐ隣にいるということは、日々刺激になるだろうし、切磋琢磨してるうちに、自分のことを客観的に見ることができるのでしょう。だいたい同じ夢を持つ者同士で集まれる空間なんて、人生でそんな時しかありえないんじゃないでしょうか。そう考えると、モノマネ大学があってもよさそうです(インチキ臭強烈)。

学問といえば、ここ最近、ひろゆきさんという方が「古文・漢文は、センター試験以降、全く使わない人が多数なので、『お金の貯め方』『生活保護、失業保険等の社会保障の取り方』『宗教』『PCスキル』の教育と入れ替えたほうがいい」という発言をし、話題になってました。なーるほど。確かに古文や漢文は、音楽やお笑いと一緒で、はるかな夢を見せてくれるようなロマンがある。けれどもその一方で、これから経済的にも厳しくなりそうなこの国で、子どもたちに(しっかり生きるんだぞ)、と本気で大人が応援するのなら、まずは授業も現実から見せるべき時なのかもしれません。「自立して生活していけるように、勉強しなさい。」ということですな。まるで戦後の話みたいです。まさかこんな世知辛い時代になるなんて。でも、日本人は「備えあれば憂いなし」という諺が大好きな民族ですし、教育も時代と共に変えるべきなのかもしれません。ちなみに、結局私は短大の家政科に通うことにし、教師の免状を取得。花より実を選ぶビンボー症をまっとうしました。

 

【シミチコNEWS】雑誌「婦人公論」で連載中の鼎談ページをまとめた書籍第2弾『三人三昧―無礼講で気ままなおしゃべり』(中央公論新社 税込1760円)が、4月8日(木)に発売されます。

関連書籍

清水ミチコ/酒井順子『「芸」と「能」』

ユーミンのコンサートには男性同士のカップルが多い。「アナ雪」に見る、「姫」観の変遷。モノマネとは、文章の世界で言うなら「評論」。香川照之さんと立川談春さん、歌舞伎と落語のにらみ合い。冬季オリンピックの女子フィギュアは、女の人生の一里塚。「話芸」の達人と「文芸」の達人が、「芸能」のあれこれを縦横無尽に掘る、掛け合いエッセイ。

清水ミチコ『主婦と演芸』

シャンプー時に立つか、座るか。何度会っても「初めまして! 」と言う氷川きよし君。面白タクシードライバーさんに10円の恩返し。5000円札を喜ぶ黒柳徹子さん。マルベル堂でプロマイド撮影。「孤独死」報道に一言。矢野顕子さんと一緒にツアー。「重箱のスミ」でキラリと光るものを独自の目線でキャッチした、愉快で軽快な日記エッセイ。

清水ミチコ/森真奈美『知識ゼロからの大人のピアノ超入門』

今からでも遅くない! 気ままな友達、ピアノとの大人な付き合い方。 最近、大人になってからピアノを始める人が多い。 大人からのスタートのいいところは、誰からもガミガミ言われないこと、無理強いされないこと。 子ども時代よりも、ずっと自由に弾ける、友達のようなもの。 ワクワクしたら弾けばいいし、うんざりするならやめてもいい。 大人になってからのピアノは、そんな自由さがあなたを解放してくれるはず。 音楽家の森真奈美さんと、かれこれ半世紀ほどピアノを弾いているという清水ミチコさんによる、大人のためのピアノ入門書。

清水ミチコ『私の10年日記』

「フカダキョーコに似てますね」になぜか逆ギレ。欽ちゃんのおでこをペチと叩いてみる。誰も知らないホーミーのモノマネにトライ。三谷幸喜さんの誕生会で激しく乱れる。ナンシー関さんや渋谷ジァンジァンとの別れに涙。…テレビの世界を自由自在に遊泳するタレントが10年にわたって書き続けた、きっぱりすっきり面白い、日記エッセイ。

三谷幸喜/清水ミチコ『いらつく二人』

「僕の名前は、三十画で、田中角栄さんと一緒なんですけど」(三谷)「あ、何か聞いたことある。浮き沈みが激しいって」(清水)。「流しカレー」に「醍醐あじ」から「うつぶせと腹ばいの違い」に「キング・コング実話問題」まで。「不思議」で出来てる脚本家と、「毒電波」で出来てるタレントの、痛快無比な会話のバトルに、笑いが止まらない。

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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