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カニカマ人生論

2025.02.10 公開 ポスト

「よりぬき カニカマ人生論」-「清水一郎」の回より

【再掲】〈感謝されることも期待しないかわりに、手抜き育児でむしろ大丈夫〉清水ミチコ

清水ミチコさんのエッセイ『カニカマ人生論』が文庫化されました!
“人生論”だけに、清水ミチコさんが背中を押してもらった「名言・迷言」の数々がちりばめられています。「背中を押すどころか、むしろヒクような話もたくさん」と清水さんは冒頭で書かれていますが……文庫化を記念して「よりぬき カニカマ人生論」を再びお届けします。

*   *   *

自分だけの両親でいて欲しい、一人っ子がいい、と思ってた私の人生に、ついに弟が生まれてしまいました。出産の翌日(ああ、やだな~。弟なんか欲しくなかったのになあ~)と思いながら、気持ちも足取りも重く、しぶしぶ病院の部屋の扉を開けると、そこにはすやすやと静かに眠ってる赤ちゃんが。私はビックリしました。(あれ? なんて可愛いのだ。え? これウチにもらえるの?)

そうです。私の母性本能もまたその日に爆発し、誕生したのでした。弟が生まれたのは1971年の12月25日で、クリスマスの夜に生まれるなんて、この子はついてるぞ、運がいいぞ、と思ってましたが、じっさい、弟は運がいいところもありながら、性格も明るく、すくすくと育ちました。

ちなみにこの頃は、なぜか父が姓名判断にこだわり始めた時期でもありました。すぐ熱中する性格で、どうやら字画と運命は密接に関係するらしいぞ、と言う喫茶店のお客さんからの影響を大きく受け、ニュースで犯人の名前が出れば、すぐ画数を数え始め、「〇画かー。ああこれは悪いわ」などと一人で計算、納得し、ご近所の方の名前なども占いの本を片手に、勝手に見てあげてました。

そしてもちろん、ウチに生まれてきたこの新生児の名前の画数もよーく数えていました。「これがいい。一郎。清水一郎」イチロー? 平凡すぎ。没個性。私は一文字の名前(学とか誠とか)が流行りでもあり、カッコよく見えてたので反対でしたが、母もそれを聞いて「私も一郎って名前は好き。普通が一番いい」と言って、二人で一郎という名前にあっさり決めてしまいました。私は一郎だなんて、銀行の記入例に書いてありそうな名前みたいでかわいそう! と思ってましたが(失礼だろ)、実は本人も気に入ってると、あとになって知りました。

それにしても変な話、名前というものは、だんだんその本人がイメージに寄せて来るものなんでしょうか。成長するに従って清水一郎、という名前が弟にしっくり&ピッタリ似合ってくるようでした。むしろ姓名判断よりもこっちが不思議です。まるで、(名前をそうつけられたなら、一郎っぽく生きることにしましょうか)と、当人がそのセンで行くのを決めていくかのようで、今では(この人にそれ以外の名前なんかなかったんじゃないか)と思えるほどです。ザ・清水一郎。

そんなわけで、私は友達と遊ぶ時も母に頼んでおんぶして出て行くほど、この子を可愛がったものでした。母は「おんぶなんてみっともないからやめて」と言ってましたが、やめませんでした。ついでに書くと、親の前では、歌やモノマネなど恥ずかしくてできないものでしたが、弟の前なら平気。なので長年にわたり、「聞け」とばかりにしょっちゅう好き放題、歌ったりしゃべったりしていました。しかもだんだん大きくなってくると、10秒ルールみたいに、「あそこのティッシュの箱取ってきて。では10、9、8……」と、カウントダウンを始めると、慌てて取ってくる弟。使いやすい。洗脳とはこのことでしょうか。可愛がった、というのは名ばかりで、どこかの相撲部屋の「可愛がり」に似ていたかもしれませんね。そういえば、姉のいる環境に生まれた男性は、結婚が長く続く。女性に対しての期待値が低く、もともとあきらめがついてるから。と聞いたことがあります。失礼しちゃうわね~。

ところで、そんなに可愛く思ってきた弟もすっかり大人になってしまった今では、時々フッと寂しく感じることもあります。というのは、勝手なもので、あのヨチヨチしてた男の子の姿がもうすっかりないからです。もう会えないんだなあ。いったい、いついなくなったんだろう? 成長する弟の背後で、そーっと少しずつ消えていったかのようで、どう考えても変な感じ。早く大きく成長するように願ったはずなのに、いざ大人になると、もう抱っこもおんぶもできないし、私を見つけても、走ってきたりはしゃいだりしない。なんか言うと論破され、軽蔑されるという始末。

今、これをお読みくださってるお母さん方が、育児で悲鳴をあげている最中だとしたら、私はこう言ってあげたいです。ずうっと世話しなくちゃ、と思ってるかもしれないけど、その子、すぐいなくなっちゃうんだよ~!! っフワッと消えちゃうんだよ~!! って。育児の時間は、想像よりもあっという間に終わってしまうものなのです。しかも、むこうはこちらの(これだけ一生懸命やった)というさまざまなことなど、1ミリたりとも記憶にありません。人間はそのように生まれてきているらしいのです。なので感謝されることも期待しないかわりに、手抜き育児でむしろ大丈夫。悩むほど一人で抱え込まないようにね。と、これは自分のコドモの育児の時にも思ったことであります。

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

清水ミチコ/酒井順子『「芸」と「能」』

ユーミンのコンサートには男性同士のカップルが多い。「アナ雪」に見る、「姫」観の変遷。モノマネとは、文章の世界で言うなら「評論」。香川照之さんと立川談春さん、歌舞伎と落語のにらみ合い。冬季オリンピックの女子フィギュアは、女の人生の一里塚。「話芸」の達人と「文芸」の達人が、「芸能」のあれこれを縦横無尽に掘る、掛け合いエッセイ。

清水ミチコ『主婦と演芸』

シャンプー時に立つか、座るか。何度会っても「初めまして!」と言う氷川きよし君。面白タクシードライバーさんに10円の恩返し。5000円札を喜ぶ黒柳徹子さん。マルベル堂でプロマイド撮影。「孤独死」報道に一言。矢野顕子さんと一緒にツアー。「重箱のスミ」でキラリと光るものを独自の目線でキャッチした、愉快で軽快な日記エッセイ。

清水ミチコ/森真奈美『知識ゼロからの大人のピアノ超入門』

今からでも遅くない! 気ままな友達、ピアノとの大人な付き合い方。 最近、大人になってからピアノを始める人が多い。 大人からのスタートのいいところは、誰からもガミガミ言われないこと、無理強いされないこと。 子ども時代よりも、ずっと自由に弾ける、友達のようなもの。 ワクワクしたら弾けばいいし、うんざりするならやめてもいい。 大人になってからのピアノは、そんな自由さがあなたを解放してくれるはず。 音楽家の森真奈美さんと、かれこれ半世紀ほどピアノを弾いているという清水ミチコさんによる、大人のためのピアノ入門書。

清水ミチコ『私の10年日記』

「フカダキョーコに似てますね」になぜか逆ギレ。欽ちゃんのおでこをペチと叩いてみる。誰も知らないホーミーのモノマネにトライ。三谷幸喜さんの誕生会で激しく乱れる。ナンシー関さんや渋谷ジァンジァンとの別れに涙。…テレビの世界を自由自在に遊泳するタレントが10年にわたって書き続けた、きっぱりすっきり面白い、日記エッセイ。

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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