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カニカマ人生論

2021.11.17 更新 ツイート

夢で逢えたら 清水ミチコ

「夢で逢えたら」という深夜番組が始まりました。軽い気持ちで引き受けた時は、まさか後から自分を落ち込ませる事態になるとは想像もしてませんでした。

ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、野沢直子に私という6人のメンバーで、全員まだ20代という若さでしたが、揃って顔合わせしただけで、ちょっとした居心地の悪さがありました。(あれ?)。自分だけちょっとした違和感。若者のグループにお婆ちゃんがこんにちは~みたいな。年齢の違いもありますが、明るさの空気感が全く違うのでした。

 

そこまではまだよかったのですが、何度か収録していくうちに、コントもトークも咄嗟の返しができなかったり、うまく乗れなかったりで、自分で自分に驚きました。器用な方かと思ってたら……。半年も経つと、みるみる人気番組となって行く中、気持ちだけが下降線をたどりました。収録はとてつもなく面白い。こんな愉快な経験はなかった。なのに、自分だけなぜいつまでも面白さがつかめないのだ。

考えてみれば、デビューも遅く、目上の方との共演ばかりに甘やかされ、コントをするような笑いの現場の経験がなかった、と、気がつく頃には時すでに遅し。私は思いました。お笑いが好きなんてのは口先だけで、本当に恥をかくのは勘弁、と、そんなところがあったし、いったんしゃべるのが怖いと思うと、そこから途端にどんどん下手になっているではないかと。噛む、という言葉はこの番組で初めて知った言葉でしたが、知ったら知ったで、盛大に噛みまくりました。どんどん深まるジレンマ。

そういえば欧米には肩こりという概念がなかったそうでしたが、その言葉が輸入されると、とたんにサロンパス系の商品がよく売れたと聞きます。知らないほうがよかった事は多いもんですね。と、今でこそ呑気に書けてますが、当時は深刻です。ハッキリ言って笑いへの情熱が違った。自分はそれほどでもなかったんだなあと、認めたくない事実を思い知りました。松ちゃんショックと言ってもいいかもしれません。松本人志さんは天才ながら、カメラが回ってなくてもずーっと笑わせてました。もはやプロじゃないほどの無邪気さ。

そんなある日、スタッフがサッとテーブルの下に隠したように見えたハガキがありました。私はあとから(さっき隠したように見えたの、なんだったんだろ?)と、のぞいて見たら「ミッちゃんはやる気あるんですか!?」と、子供の字で書いてあり、電気でも走ったようなショックでした。さすが昭和の人間。今ならもっと強い言葉でのネットのバッシングが待ち受けるのでしょうが、手書きの子供のハガキに立ちすくむ老婆。誰が老婆じゃ。やかましいわ。でも、考えてみると昔ってなんか可愛いですね。宛名書きをして、切手を貼ってくれて抗議、という行為には親切さを感じます。

私は(子供にもバレた、まずいことになった)、と思いつつも、同時に直せる気がしない、と思いました。ここが一番きついところです。努力するとか、改善できる、という気がしなかったのです。それでももがいてるうち、ある日ふいに、不細工なのに上から目線で傍若無人な女性キャラクター・伊集院ミドリが誕生しました。人の気持ちなんか完全に無視してのびのびと生きられるミドリは、当時の私の理想郷。思いっきりやるほど、自分でも気持ちよかったし、人をイラっとさせる喜びすら発動しました。テレビを観てる人たちと、初めて共感できたという感触。怒りと笑いは紙一重なんですね。(ミッちゃんもっともっと私たちをイライラさせて!)という気配が伝わってきました。あのハガキを書いてくれた子も、今なら笑ってくれてるかななどと思いながら、安堵しました。今ならできないキャラかもだけど、ありがとう、あの時のミドリ。キャラクターイベントがあった日は、ミドリが人気投票で一位となり、松ちゃんが「面白くなーい!」と言いながら、顔が一番嬉しそうでした。全員を光らせたいという思いがあるのか、やっとコイツにライトが当たったと、思ってくれてたんじゃないでしょうか。

メンバーの野沢直子ちゃんと仲良くなったのは、番組の後半からでした。今でも続いてます。いつかメンバーでの海外ロケがあったのですが、その夜、2人だけでこの先の将来についてヒソヒソ話したことがありました。「いつかはあの4人(ダウンタウン・ウンナン)みたいに、私らにも司会や冠番組を、って話が来るんだろうけど、そっちに行かないで、もっとちゃらんぽらんした存在のままでいられんもんかな」「いや、そうしようよ」などと変な夢を語りあったりして。若い。メンバーのみんながそれぞれに、だんだんビッグになって行く手前にいる、と言う空気をヒシヒシと感じる時代でしたが、別に私たちにはそんな話など来てないのに、予防線張る2人。今思うとバカみたい。実力はないけど、天下取るのはお断り! みたいな。頼んでないよ、大丈夫ですよ。いもしない敵と戦うのはやめた方がいいですよ。でした。

その後、直子ちゃんはお笑いを一からやり直すように、ニューヨークへ向かいました。こじらせてんじゃねーよ、ですが。向こうで結婚、そして育児もしながら、毎年夏には日本でバラエティ番組に出るため出稼ぎ帰国という、すっかり外タレ扱いになってます。

そんなわけで、この番組のおかげで、自分が知りたくないことも知りましたが、心身ともに成長することができました。大人だったんだけどね。当時のスタッフはじめメンバーの皆さん、あの頃はいろいろごめんね(今ごろ)。快感とショックとの両方を味わえ、今となっては私たちの勲章のようになった番組でしたが、時々思い出すと、その金具が胸に刺さって困るのでした。

 

【シミチコNEWS】伊集院ミドリ。「もう~っ、むっかつくわねえ~!」というセリフが決まり文句でした。

ライブツアー「清水ミチコ大感謝祭~作曲法SPECIAL~」開催中! 2022年1月2日の日本武道館公演のほか、年明けからのツアーも決定しました。詳しくは4325.netまで。

 

 

関連書籍

清水ミチコ/酒井順子『「芸」と「能」』

ユーミンのコンサートには男性同士のカップルが多い。「アナ雪」に見る、「姫」観の変遷。モノマネとは、文章の世界で言うなら「評論」。香川照之さんと立川談春さん、歌舞伎と落語のにらみ合い。冬季オリンピックの女子フィギュアは、女の人生の一里塚。「話芸」の達人と「文芸」の達人が、「芸能」のあれこれを縦横無尽に掘る、掛け合いエッセイ。

清水ミチコ『主婦と演芸』

シャンプー時に立つか、座るか。何度会っても「初めまして! 」と言う氷川きよし君。面白タクシードライバーさんに10円の恩返し。5000円札を喜ぶ黒柳徹子さん。マルベル堂でプロマイド撮影。「孤独死」報道に一言。矢野顕子さんと一緒にツアー。「重箱のスミ」でキラリと光るものを独自の目線でキャッチした、愉快で軽快な日記エッセイ。

清水ミチコ/森真奈美『知識ゼロからの大人のピアノ超入門』

今からでも遅くない! 気ままな友達、ピアノとの大人な付き合い方。 最近、大人になってからピアノを始める人が多い。 大人からのスタートのいいところは、誰からもガミガミ言われないこと、無理強いされないこと。 子ども時代よりも、ずっと自由に弾ける、友達のようなもの。 ワクワクしたら弾けばいいし、うんざりするならやめてもいい。 大人になってからのピアノは、そんな自由さがあなたを解放してくれるはず。 音楽家の森真奈美さんと、かれこれ半世紀ほどピアノを弾いているという清水ミチコさんによる、大人のためのピアノ入門書。

清水ミチコ『私の10年日記』

「フカダキョーコに似てますね」になぜか逆ギレ。欽ちゃんのおでこをペチと叩いてみる。誰も知らないホーミーのモノマネにトライ。三谷幸喜さんの誕生会で激しく乱れる。ナンシー関さんや渋谷ジァンジァンとの別れに涙。…テレビの世界を自由自在に遊泳するタレントが10年にわたって書き続けた、きっぱりすっきり面白い、日記エッセイ。

三谷幸喜/清水ミチコ『いらつく二人』

「僕の名前は、三十画で、田中角栄さんと一緒なんですけど」(三谷)「あ、何か聞いたことある。浮き沈みが激しいって」(清水)。「流しカレー」に「醍醐あじ」から「うつぶせと腹ばいの違い」に「キング・コング実話問題」まで。「不思議」で出来てる脚本家と、「毒電波」で出来てるタレントの、痛快無比な会話のバトルに、笑いが止まらない。

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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