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カニカマ人生論

2022.09.03 公開 ツイート

「よりぬき カニカマ人生論」-「笑っていいとも!」の回より

〈いつも機嫌よくそこにいる、ということは、一番大切なマナーですよね〉 清水ミチコ

先日、ムスメの結婚式がありました。コロナ禍でもあり、時間も短縮された、ささやかな式でしたが、自分の時よりもずーんと深く感じ入るものがありました。感激してしまったんですね。

というか思い返せば、結婚式当日の花嫁ってぶっちゃけ、やることはいっぱいあるのに、幸せそうな顔をしなきゃいけないという、謎の大芝居をすることになるので、案外頭の中はてんてこまいなんですよね。想像と違いました。まわりへの気遣いもマックスになるし、実は感激してるヒマなんて1秒とてありえないのです。(Aさんがまだ席についてないぞ。また遅刻か、あ! すっぽかしたのかも)(あれだけ説明してた料理がこれ? ショボすぎなんだけど!)(親が来た。ニヤニヤするのやめて欲しい)(親戚よ、なんでこんな歌を選曲したんだ?)など、思いはぐるぐるめぐり、とても「これから幸せに」などとしっとり思うヒマはありませんでした。

 

しかしそれに比べると、ムスメの式はぜんぜん違います。親なので気持ちにだんぜん余裕ができるらしく、(ああ、これが家族の句読点なんだなあ~)という時間と感慨に、とっぷりひたれました。そしてさすが今の若者で、費用が安いっていうのもカッコよかった。牧師さんの息子さんと結婚したのですが、お父さまが中央に立って誓いの言葉の問いかけをしてくださったのも、失礼ながらイケメンでもあられるので、まるでドラマの1シーンを観てるようでした。私はしみじみ思いました。コロナ禍という時期を経てからの結婚式場のあり方というものは、こんな風にシンプルで肩の凝らないものにどんどん変わって行くだろうなあと。短いという親切、気さくというサービスのプライスレスよ。

さて、ムスメでなく私の結婚前後、さかのぼること34年前の話をさせてください。フジテレビの「冗談画報」という番組に出たあと、「笑っていいとも!」のレギュラーのオファーがありました。あのタモリさんの横に、毎週座れるかもしれないなんて! タモリさんのライブで感激して以来、尊敬し続けてきた私にとって、どれだけ意味がデカいことかわかりません。あんまり感激が表情に出ない私ですが、ついに、という感じがしました。「本当ですか?」と言いながら、目がつりあがってたと思います。そのくらい気迫があったという。

ところが私は結婚1年を過ぎ、妊娠してました。当時、いいとものプロデューサーだったサトちゃんこと、佐藤義和さんに告げると、「妊婦のレギュラーなんて聞いたことないから、かえって面白いじゃない」と、笑っておられました。とんとん拍子に話は決まり、どんどんおなかも大きくなる中、とりあえず番組の中では、タモリさんと清水の名前を取って「おタモしみラジオショー」というコーナーを企画してくださいました。ラジオブースのようなセットの中で、タモリさんと向き合って話す私は、ずいぶん落ち着いて見えたようで、よく「ベテランのアナウンサーが出てきたかと思った」と言われました。

直接お会いするタモリさんは想像以上に明るくて気さくで、また気配りのある方でした。一番ビックリしたことは、振り返ればいつもどんな時も毎日ニコニコしてらっしゃったということです。想像より人格者というか、日々誰にだっていろいろあるのが人生なのだし、タモリさんにだって(今日はオレちょっと不機嫌なんだよな)という時があってもよさそうなものなのに、そういった顔を現場で一度も見せたことがありません。いつも機嫌よくそこにいる、ということは、一番大切なマナーですよね。社会で、家庭の中で、いや一人でいる時ですら、自分に対して上機嫌でいることができる人がいたら、それは人生の成功者、本物の上級国民です(使い方が違う)。一番大切なことができておられたんだなと、今さらですがつくづく感じます。

そのうちに、私の所属事務所をどこにするか、決めなくてはいけなくなりました。色んなところからオファーも受け、早く決めなきゃと迷っていると、プロデューサーのサトちゃんが「そんなのさあー、旦那さん(ラジオ番組のディレクター)が事務所作っちゃいなよ。だってさ、芸風も個人芸みたいなもんじゃない?」と、言いました。今までになかった発想。確かに大手の事務所に所属すると、仕事はなくならず、困らないかもしれませんが、かわりに自由は束縛されるという。大きな事務所の華やかさ、安定感に魅力を感じながらも、未来に気楽さという光が見え、個人での事務所に決めました。まわりの方に「事務所はどこにしたんですか?」と聞かれ、「自分たちでやってみようと思いまして」などと答えると、ものすごく驚かれました。大胆な新人妊婦現る。

オットに頼みこんで、数名のスタッフとともに、今でも個人事務所を継続できているのは、あの時のサトちゃんの言葉のおかげです。それなのに「ジョン・レノンに似てるって言われるんだよねー」と自分で言ってたサトちゃんを、真顔で完全否定してごめん。

一年のあいだに結婚、妊娠、いいとも出演と書くと、いかにも忙しそうに見えるかもしれませんが、ただただ面白すぎる毎日でした。そして、小さな生命を授かったと同時に、小さなテングも私の中に誕生してたということは、あとでわかることになります。

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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