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50代を迎え討つ!

2026.07.31 公開 ポスト

マッチングアプリとじょふう佐藤友美(ヘアライター・エディター)

ボーッと生きてんじゃねえよ

「いまどき『出会いがないから恋人ができない』とか、言えない時代だよね」

かれこれ、5年ほど前の話だ。
会員制レストランの個室で行われた女子会は、マッチングアプリの話で盛り上がっていた。

「Aちゃんも、夫さんとマチアプで出会ったんだよね?」
「うん、50人以上会ったよー」
「すごっ! 誰が誰だかわからなくならない?」
「そこは、スプシで管理した!」
「さすがAちゃん、しごでき!」

そんな会話が続いている。私はひとり、「そうか、マッチングアプリのこと、若い人たちはマチアプって言うんだ」なんて、ぼーっと考えていた。

 

その日のメンバーは私よりも10歳以上若い女性経営者5人だった。
みんな30代前半くらい。私45歳。

どういう流れで集まることになったのかは忘れたけれど、1人をのぞいて全員初対面。メディアで取り上げられている人も多く、みなパワフルで美しい。
明らかに私ひとり、浮いている。会話にもうまく入っていけないので、もくもくと料理を頬張りながら、話に耳を傾けていた。

そのうちの1人が、アプリでこれだけ出会える時代に「出会いがない」なんて嘆くのは努力不足だと持論を展開したのが、冒頭の発言だった。
たしかに、私の周りでも同世代の人たちがどんどんアプリで結婚(再婚)しているなあ、などとぼんやり思っていたら、急に話しかけられた。

「さとゆみさんはマチアプ、何、やってるんですか?」

当時の私は、シングルマザーになって1年たった頃。
半年前に友人にすすめられてアプリをインストールし、写真も選んでもらって登録したはいいものの、何回マッチしても誰かと会うまでには至らなかった。

みんなが「えええ、どうして?」と聞いてくる。

どうしてだろう。私、あの、メッセのやりとりが非常に苦手なのだ。自己紹介とか、どこ住み? とか、趣味は? とか、ネコは好きですか? とか。

「ライターなのに?」
と言われた。むしろ、ライターだからかもしれない。
「このメッセージにどれだけ返信したとしても、1円にもならないんだよなー。だったら原稿書いたほうがいいなあって思っちゃう」
と答えたら、みんなに爆笑された。

「でも……」と、一番年下の女性が私のほうに顔を向け、キリっと言い放った。

「さとゆみさん、ライターだし、エッセイも書くんですよね? いまどき4人に1人はマチアプで結婚するんですよ。その実態を知らなくていいんですか?」

ぐ。
ぐぐぐぐぐ。
ぐうの音も出ねえ。

チコちゃんに「ボーッと生きてんじゃねえよ!」と言われたみたいだ。
たしかにそうかもしれねえ。オレはボーっと生きていたのかもしれない。

次にまたいつ結婚しちゃうかわからないし(しねえよ)、だとしたら、独身の今がチャンスか? チャンスなのか?

この日、さとゆみ45歳(当時)は、決めた。

「マチアプで異性と出会ってみせようぞ!」

なんか、たのしい

過去に登録したアプリは放置しすぎてパスワードもわからなくなっていた。なので、みんながおすすめしてくれた「マッチしたらすぐにデートの日にちとレストランが決まる」アプリに転向。

これがよかった。
「会う?」「会わない?」の面倒な探り合いが全然なくて、食事できる場所と日程の調整だけでいい。
これなら私でも、いけるかも!!

記念すべき1人目は、14歳年下の会社員と会うことにした。
「なんでこの人は、14歳も年上の女とマッチしたのだろう」と興味を持ったからだ。パパ活の逆バージョン的なことかと思ったけれど、「男性側がおごる」のボタンが押されている。

店を決めたあと「当日なにかあった時のためにLINEを教えて」と言われ、IDを教えた。
素性がバレるのが嫌だったので、LINEの名前を「さとゆみ」から「ゆみ」に変えた。そして、子どもとの手つなぎ写真だったアイコンを、お花のアイコンに変えた。

LINEで連絡をとっている友人はほとんどいないのだけれど、その中の一人から「ゆみ、アイコン変えた? 何かあった?」と連絡があった。
それではじめてわかった。
急にLINEのアイコンが変わる人って、こういう事情なんだな……。

<閑話休題>

当日店に現れた青年は、礼儀正しいハンサムさんで、とても感じがよかった。どうして45歳とマッチしたりするの? と聞いたら「10代の頃からずっと年上好きで」と言う。なるほど、おぬし、筋金入りか。
なにかと老化を感じるお年頃。年上が好きなどと言われると、だいぶ自己肯定感が上がるなと思う。この好青年をいっぱいコピーして野に放ったらいくつかの社会課題が解決するのではないか。

途中、「ゆみさんて、どんな字を書くの?」と聞かれた。
うっかりガードが下がっていた私は、「友美」だよ。佐藤友美。読み方は珍しいけれど、よくある名前だよねなんて、話をしてトイレに立った。

個室に入って、思う。

ふつうに、たのしい。

なるほど、みんなこんなふうに出会っているのか。洗面台で手を洗うと、鏡の中の顔が赤い。ちょっとほてってきた顔を冷えた手で包む。

なんか、たのしい。

取材というか、時代の空気感を知るために来たつもりだけれど、ほんのり気分が浮ついてきた。
その日は子どもが元夫の家に行っていた。これ、終電まで飲めちゃうなあなどと考えながら席に戻ったら。

あれ……? さっきと空気が変わった……?

それまで親しげに話していた彼が、ちょっと居ずまいをただしている。「ゆみさんて、有名人じゃん!」と言って、ケータイを差し出してきた。私が席を外した隙に検索していたらしい。ケータイ画面には私のウィキペディアが開かれていた。

身・バ・レ・し・たーーーー!!!

みんなの「きち」を知ってるかい?

まあね、独身だからね。別にやましいところはないのだけれど、でもまあバレちゃったし、ウィキペディアには離婚歴2回って書かれているし、「ごめん。ちょっとアプリがどんな感じか知りたくて使ってみた。今すぐ誰かと付き合いたいとかは、ない」と、正直に話した。

そのあとは、好きな漫画の話とか映画の話とかして、清廉潔白解散した。
もう二度と会うこともないんだろうなと思ったら、ちょっともったいないような気がしてくるから現金だ。
なんだかんだで、久しぶりに女子扱いされたのが嬉しかったからかな。いい人だったなあ、などと考えながら帰路についた。

その彼とは、なぜか現在、飲み友達である。

時々ふらっと会って、生ビールをぐいーっと飲みながら、付き合っている女の子の話を聞いたり、仕事の話を聞いたりしている。
先日などは、フリーランスになりたいという彼の友人と3人で飲んで、確定申告の仕組みなどを教えてあげた。
毎回、律儀にご馳走してくれる。どこで調べたのか、私のビジネスパーソン向けのライティング講座の動画を買ってくれ、「めっちゃ勉強になった。仕事に役立ちそう!」と連絡をくれた。

不思議な感じだ。

結局、マチアプは削除した。なので、出会ったのは、その14歳年下の彼だけということになる。
楽しい飲み友達が一人できただけでも、試した甲斐があった。取材には……なったのか?

時は流れて、まあまあ最近のこと。
再び、似たような女子会があった。またしても初対面の人がほとんどで、私は最年長である。

その日も何かのタイミングでみんなのプライベートな話になった。とくに胸をはって披露できるような逸話のない私は、肉とワインをもくもくと自腹に流し込み、みんなの話を聞いていた。

だいぶ酔いが回ってきた頃、会話の中に「きち」という言葉が出てきた。

「最近、きち、チェックしてる?」
「いや、最近は全然」
「私もしばらく行ってないなあ」
「きちだったら、私、おすすめいるけど」
「え、教えて教えて」

私以外のみんなは「きち」が何かをわかって会話しているようだ。こういう時、知らないことを知らないままにできないのがライターの性(さが)だと思う。

「あの~」

私は取材の時に質問をする時のように、ゆっくりすーっと手をあげる。全員の視線が私に集まった。

「きち、って何?」

尋ねた私に、隣の女の子が教えてくれる。
「あ、すみません、じょふうです」

じょふう???
除風?
助風?
JO-FU?

ぽかんとしている私に、彼女は言った。
「さとゆみさん、もしかして、じょふう知らないですか?」

じょふうとは「女性用風俗」の略で、「きち」とは、その草分け的な存在である「東京秘密基地」のことだと、ケータイを開きながら教えてくれた。
サイトには、セラピストという肩書きのメンズがずらり並んでいる。本日の出勤人数は109人。みんな勝手知ったるふうで、◯◯くんのプロフィールが面白いとか、△△くんもいいよねなどと話している。

「さとゆみさん、ライターだし、エッセイも書くんですよね? 性のことは女性にとって重要な問題だし、女風、知っといたほうがいいんじゃないですか?」
と言われ、ハッとなった。

なんか……デジャヴ感ある。
私、また、チコちゃんに怒られてる……?

女風、そんなにメジャーなのか。
私はそれを、知っておいたほうがいいのか。いやむしろ、物書きとして知らないほうがまずい……のか? 法的にはどんな扱いなのだろう。

またひとつ、宿題が増えた。

さとゆみの明日は、どっちだ!?

続く(かもしれない)

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50代を迎え討つ!

美容ライター&コラムニストの佐藤友美(さとゆみ)が、きたるべき50代を、なるべく明るく楽しく最小限の痛手で迎え入れるために、尊敬する先輩や頼もしい識者の方々に話を伺いながら右往左往するコラム。

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佐藤友美 ヘアライター・エディター

ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門の美容ライターとして活動したのち、インタビューライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に『女の運命は髪で変わる』、『書く仕事がしたい』、『ママはキミと一緒にオトナになる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。中学生の息子を持つシングルマザー。

 

 

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