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カニカマ人生論

2021.03.24 更新 ツイート

からし蓮根 清水ミチコ

突然、社会科の先生からこんなユニークな注意を受けました。高校時代の、修学旅行の前日のことです。「北九州をぐるっと回るらしいけど、君たちはただ景色や土地なんかを見るんじゃないぞ。よーく人間を見て観察してこい、海側に住んでいる人間ってものを。海の人間の器はどっか広いからな。タマ(魂)が違うんだ。俺たち山に住んでる者は、どうしてもせこい。せこせこせこせこ生きてるからな」。

 

ちっとも知らなかった。すごい言葉だなあ、と思いました。面白い先生でしたが、言われてみると確かに、海がすぐそこに見えるという場所は、それだけで閉塞感が少なそう。なんとかなるさ、と救われるような気持ちになるような気がします。今なら問題発言になったりするのかもしれませんが、その言葉には妙に説得力がありました。ま、さすがに私たちも、修学旅行で出会った人から心の広さまで感じとることはできませんでしたが。

ちなみに、到着した熊本でのお昼ごはんは、もっと忘れられません。最初にマイクを持ったお店の店長からまずは「おわび」がありました。何かの手違いがあったらしく、今回の私たちのお昼に、メイン料理が出せなくなったとのこと。そしてなんと、からし蓮根がメインのおかずの定食になってしまったとのこと。からし蓮根はとてもめずらしかったのですが、おかずにするにはもう一つパンチに欠けるというか、逆にパンチしかない味なので、私たちはソースをかけたり、ケチャップを足したりして、それでもクスクス笑いながら、お皿の上に転がっているからし蓮根の、新しい味を追求しました。ごはんが進まないもどかしさよ。漬物で少しずつ前進したりして。今でもからし蓮根を食べると、その時のおかしさがこみあげてきます。なんだか笑えてしょうがなかったんですよね。不満を共有すると、人ってちょっと笑うんですかね。ともかく、おいしい時より印象や思い出に残りやすいのか、大阪からフェリーに乗っておよそ1週間弱ほどの旅だったというのに、食事の思い出は、そのからし蓮根の味しか残っていません。

ところで、おいしいと感じた時の人間は、ドラマのように笑顔にはならず、意外と神妙な顔つきになってるもんですよね。(おいしい!)という気持ちを表現するのは、本当はとても難しいことなのかもしれません。いつか糸井重里さんが「テレビを観てたら、レポーターの方が『この味、本当においしくて、わ! 見てください、鳥肌が立ってます!』と、腕をカメラに近づけ、おいしいという気持ちを“論より証拠”とばかりに表現していた」と書かれていました。私も、ずいぶん昔に行った地方のロケで、一緒だった女優さんのリアクションがすごくって、驚いた事があります。老舗の名店でうな重を食べるのですが、その女優さんは一口頬張ったあと、「うわっ、おいしい!」と言い、「もう……おいしすぎて」と、なんと悶絶しながら涙をぬぐってるではありませんか。やりすぎぃ! 泣くほど、という感動に持っていきたいらしく、しばらくはすすり泣き。始めた以上はすぐにはやめられないものらしく、メイクさんが涙のあとを直したりと、あの時はめっちゃシラけました。

そこへ行くと「孤独のグルメ」の松重豊さんのお芝居は、本当に上手いですよね。(おいしい)と思った時に、ほんのちょっと眉や手の動きが止まったりする。呆気に取られたような、惚れ惚れとしてる表情に、おいしさがしみじみ伝わってきます。「本物は物足らないように感じ、偽物は常にどこか過剰」という言葉を思い出しました。

いつのまにかすっかり話が食の方にころがってしまいました。海側に住む人間性の話です。これは大人になって聞いた話ですが、土地の先端に住む人間、つまりは岬や半島に住む人間ほど、アンテナが鋭くなっているのだとか。また世界中に島国はたくさんありますが、その中でも日本列島はとても変わっていて、ギザギザがとても多い形状になっていると。つまりは先端だらけなので、民族全体としても鋭いアンテナを持っているそうです。山奥の人間が鈍い、とまでは言いませんが、海寄りに住めば、生きていく感覚が研ぎ澄まされるのも自然な話かもしれませんね。都会と田舎で分けるより、海側と山側での人間の違いを感じるのは面白いと思いました。よく考えてみると、北海道の真ん中あたりは、実は距離でいうとどの方面の海からもほど遠いはずですが、北海道というイメージで、そうは思わせませんね。比べるとむしろ、私の生まれた高山市の方が海は近くなる距離ですが、「飛騨高山」というイメージが(そんなはずはない)と思わせます。人のイメージって、強固なもんですね。

私が高校の時、新し物好きな父が、渋谷で食べた茹で上げスパゲッティに感激し、その後すぐに直談判して、「壁の穴」というお店の高山支店として営業を始めました。飛騨高山で食べる、海の幸、海鮮のスパゲッティ。その頃はまだ気がついてなかったのです。観光客が飛騨高山に来て食べたいものは、海鮮ではなく、素朴な山の味覚であることを。お店はほぼ20年ほどで閉店となりましたが、逆によくそんなに続いたものでした。

 

【シミチコNEWS】若い頃バイトしていた玉川田園調布「パテ屋」の隣、「カフェ・グルマンディーズ」のサラダ。ここでパテ屋のパテも食べられます。

関連書籍

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ユーミンのコンサートには男性同士のカップルが多い。「アナ雪」に見る、「姫」観の変遷。モノマネとは、文章の世界で言うなら「評論」。香川照之さんと立川談春さん、歌舞伎と落語のにらみ合い。冬季オリンピックの女子フィギュアは、女の人生の一里塚。「話芸」の達人と「文芸」の達人が、「芸能」のあれこれを縦横無尽に掘る、掛け合いエッセイ。

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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