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明け方の若者たち

2020.06.27 更新 ツイート

【書評】「24秒の文学」の外へ──WEBテクストと文芸を横断するカツセマサヒコ大滝瓶太

カツセマサヒコさんのデビュー作『明け方の若者たち』。

カツセさんとも親交のある作家の大滝瓶太さんから、書評をお寄せいただきました。

*   *   *

デジタル化されたプラットフォームでは、ニュースもオーディエンスの関心や議論も24秒ごとに移り変わります。
──ケヴィン・マッデン

 

インターネットの誕生と、とりわけソーシャルメディアの誕生は、「物語」が置かれる文脈を劇的に変化させた。その大きな原因は、聴衆の数がケタ違いに大きくなったことだ。ソーシャルメディアに情報を発信する者はみな、しばしば無意識のうちに擬態を行い、他者の行動やイメージを真似て新しいアイデアやコンセプトやミームをつくる。
──オリバー・ラケット/マイケル・ケーシー
ソーシャルメディアの生態系』(東洋経済新報社)

目次

  • 1986年生まれのインターネット
  • 代替可能な「何者でもない僕」の物語
  • 「インターネットの人」としてのカツセマサヒコ
  • 感傷と共感のインフルエンサー小説──燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』との類似と相違
  • その共感はだれのもの?

1986年生まれのインターネット

1986年生まれのぼくが故郷を離れ、大学に通うべく一人暮らしをはじめたのは「Broadcast Yourself」を掲げたYouTubeがサービスを開始した2005年だ。

当時、ひとりの時間を持て余せば大学生協で買ったパソコンをインターネットに繋いで動画から動画へと渡り歩き、大学や地元の友人のmixiの日記を盗み見て、2006年末からサービスを開始したニコニコ動画で「自作の改造マリオ(スーパーマリオワールド)を友人にプレイさせる」、「レッツゴー! 陰陽師」、「あいつこそがテニスの王子様」を際限なく再生し、誰かがどこかで手に入れた「VIPマリオ」をプレイする。2007年には京都府京田辺市で発生した未成年による殺人事件にショックを受けつつも現実感は希薄で、むしろその影響でアニメ「ひぐらしのなく頃に」と「School Days」が放送中止になったことの方に事件性を感じずにはいられず、はてなダイアリーに投稿された考察ブログをひたすら読み漁る。現実を現実として受け入れる理知も意識も薄弱だったあの頃を振り返ると、はたしてじぶんはインターネットと良い関わりができていたかどうか疑わしい気持ちがやはりある。

 

自身の20歳前後の振る舞いを省みれば、とりわけ差し迫った状況とは縁のないアイデンティティを認めるに値しない大学生でしかなかったと痛感する。しかしながらインターネットメディアが加速的に発展を遂げたこの時期が、日々の生活をじぶんの裁量次第でどうとでも過ごせた時期と一致したことについては考える価値があるようにおもえる。ぼく自身がほとんど特筆に値しないような大学生活を送っていたという事実は、じぶんの意思の薄弱さゆえに自身をとりまく環境が及ぼす力学に従順だったからに他ならないだろう。つまり、当時ぼくはインターネットメディアを使用していたのではなく、インターネットメディアに使役されていたモブユーザーに過ぎなかったというわけだ。

 

一方で、メディアという環境がそこに属する集団的振る舞いを決定するというのは不思議なことでもなんでもない。例えば無重力空間に配置された水滴が球形になろうとするのも、放っておけば部屋の温度が均一になるのも仕組みは同じで、自由エネルギーやエントロピーなどといったなんらかの評価指数を最小化/最大カする方向に物事は進む。

mixiやブログは職業的な要請にとらわれず自由に文章を書く敷居を格段に下げた。ぼく自身、のちにWEBライターとして仕事をはじめられたのはこうした土壌があったからこそだ。事実、2010年代前半からは執筆や出版・編集プロダクションの実務経験を持たずして文筆業をはじめる人間が増え出し、アフィリエイトブロガーがインフルエンサーとして台頭しはじめ、WEBライティングの1つの重要な評価軸として「収益性」が認められるようになった。

 

日本のWEBライティング業界をざっと見てみると、成果物を評価する具体的な数字としてPVとコンバージョンがある。「成果物がどれだけの読者を得たか」、「どれだけの契約を取れたか」を示すこれらの数字はまさに収益性に直結するものであり、これらを最大化するための技術が発達した。Googleの検索上位に表示されるためのSEO対策、読了前の離脱を回避するために最適な文字数や改行のタイミング、SNSの運用方法がハウツー化され、WEBビジネスの方法までもが商品化されたことにより、WEB上の書き手とWEBライティング市場の相互依存的な構造はより明確に現れるようになった。

同時に、それは書き手がどこか無意識のレベルでシステムに使役されているかもしれないということでもあるようにおもえ、収益性という絶対的な指標が書き手を不自由にしている側面もある。

 

インターネットは伝達速度を飛躍的に縮め、物理的な距離をゼロにし、そしてそこに自生するメディアは読者の熟考以上に「わかりやすさ」と「インスタントな反応」に特化した文法を獲得した。その環境において「文芸」とは、極めて非効率なものでしかないだろう。

WEBライターとしての活躍し、2020年に小説家としてデビューした1986年生まれのカツセマサヒコが持つバックグラウンドとは、そうしたインターネットテクストの世界である。

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関連書籍

カツセマサヒコ『明け方の若者たち』

明大前で開かれた退屈な飲み会。そこで出会った彼女に、一瞬で恋をした。本多劇場で観た舞台。「写ルンです」で撮った江の島。IKEAで買ったセミダブルベッド。フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり。世界が彼女で満たされる一方で、社会人になった僕は、"こんなハズじゃなかった人生"に打ちのめされていく。息の詰まる満員電車。夢見た未来とは異なる現在。深夜の高円寺の公園と親友だけが、救いだったあの頃。

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明け方の若者たち

6月11日発売、人気ウェブライター・カツセマサヒコさんのデビュー小説、『明け方の若者たち』をご紹介します。

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大滝瓶太

作家。1986年生まれ。2016年よりフリーライターとしてWEBメディアにコラム・エッセイを寄稿をはじめる。2018年に「青は藍より藍より青」で第1回阿波しらさぎ文学賞を受賞。同年「たべるのがおそいvol.6」(書肆侃侃房)で短編「誘い笑い」を発表。著書『コロニアルタイム』(惑星と口笛ブックス)が第39回日本SF大賞エントリー作品として推薦される。

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