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明け方の若者たち

2020.07.01 更新 ツイート

【書評】極めて刺激的で鮮烈な文学世界だ!内田剛

2010年代を青々しく描いた、カツセマサヒコさんのデビュー作『明け方の若者たち』。

ブックジャーナリストの内田剛さんに書評をお寄せいただきました。

*   *   *

何という密度の濃さ! これは極めて刺激的で鮮烈な文学世界だ! この時代、この世代、この場所が書かせた物語……人間の心の底から沸々と湧き上がる赤裸々な思いの丈は鳥肌の連続。身震いするくらい激しく魂が揺さぶられ、息も詰まるほど胸が締めつけられた。名シーンや名セリフも豊富で読みどころ満載。

『明け方の若者たち』は小説家として「明け方」を迎えたカツセマサヒコの名前とともに記憶に刻むべき物語である。

 

作品の文学性の高さと著者の視線の確かさは特筆ものだ。目次からすでにそれは伝わる。「産声」から始まり「選ばれなかった僕らのための歌」までの十章の標題。すでに物語は始まっている。「下北沢は湿ったアスファルトの上で静かに光る」「甘いミルクティーの氷は溶けて」といった言葉選びも秀逸だ。

とにかく淡くて繊細でどこまでも透明。光の粒子まで見えるような空気感。体温や匂いまでも感じさせるヒリヒリとした描写は切れば血が流れるような印象を与える。心情そのままを吐露した率直過ぎる文章の数々。紡がれた表現のすべてが押し寄せる波のように全身を包みこみ、若さだけではない勢いだけでもない「青春」という名の説明できない感情を呼び覚ますのだ。

 

人は誰でも出会いと別れを繰り返しながら、理想を思い描き現実との折り合いを見つけながら生きている。手に届かない憧れがあるから背伸びをしていたあの頃の記憶。悶々と過ごして何者でもなかった自分を認識し、そうした時代がいまに繋がっていると気づいた時に、人ははじめて成長したと呼べるのかもしれない。

この物語は過ぎ去った日々を完全凝縮させている。まるで自分宛のタイムカプセルをその場で掘り出したかのような生々しさもまた魅力のひとつなのである。

 

読みながらあの時の自分や仲間たちに再会できた。無様だったけれども一番自分に正直に生きていた時代。作品中の「僕」と一緒になって天国も地獄も体験できた。

人生は綺麗事ばかりじゃない。美しさと残酷さは隣り合っているという怖さもある。得体のしれない何かに怯えながらも無邪気だった。臆病なくせに怖いもの知らずだった。身体中に電流を感じる時もある。自分を見失うくらい取り乱した感情の中から、人を愛する尊さを再認識できた。深い闇があるから後悔があるからこそ、希望の光も眩しく輝くことを思い出した。そして自分にもかけがえのない過去があるから、今この瞬間を生きていられるのだということも。

 

抑え切れない感情の吐露。目映いまでの青春の蹉跌。喜びも悲しみも、希望も絶望もここにある。2010年代をありのままに描き切った『明け方の若者たち』は、これからを生きる悩める僕たちすべての足元を照らすバイブルだ。不安に満ちた今の時代だからこそ伝える価値がある!

読んで欲しいのは今の若者たちだけじゃない。かつて若者だったすべての人間に勧めたい。そして体感してもらいたい。まさに次の世代に読み継がれるべき作品。本当に素晴らしい!

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カツセマサヒコ『明け方の若者たち』

明大前で開かれた退屈な飲み会。そこで出会った彼女に、一瞬で恋をした。本多劇場で観た舞台。「写ルンです」で撮った江の島。IKEAで買ったセミダブルベッド。フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり。世界が彼女で満たされる一方で、社会人になった僕は、"こんなハズじゃなかった人生"に打ちのめされていく。息の詰まる満員電車。夢見た未来とは異なる現在。深夜の高円寺の公園と親友だけが、救いだったあの頃。

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