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山田マチの山だの街だの

2019.12.25 公開 ツイート

第55回 山形の旅 その3 - 蔵王・ジンギスカン・牛肉どまん中 - 山田マチ

わたくし山田と友人カッパ、女ふたり、一泊二日の山形旅。
初日は米沢にて、小野川温泉の無人露天風呂につかり、白布温泉の歴史ある宿に泊まりました。2日目は朝からレンタカーを借りて、寄り道しながら蔵王温泉を目指す予定。
宿の車で米沢駅まで送ってもらい、予約していたレンタカー屋に向かいます。まもなくレンタカー屋に到着する寸前の横断歩道で、私の脳と声帯が同時にふるえました。「あーっ!」。突然の奇声におののくカッパ。
「どうしたの!?」
「免許証がない!!」
国内に一泊するだけだから身軽でいっかと油断して、ポケットに、小銭入れとクレジットカードだけ入れてきました。カッパはそもそも免許を持っていません。

 

そのままレンタカー屋に入り、カウンターのお姉さんに事情を話してお詫び。「……で、私たち、これからどうすればいいと思います?」。苦笑いで優しく対応してくれたお姉さん、ありがとう。
車がないと、予定していた高畠ワイナリーも、こんにゃくオンリーの懐石料理も行けないけれど、蔵王温泉はあきらめたくない。

レンタカー屋を出た私たちは、歩みを止めることなく駅の観光協会に直行し、公共交通機関で蔵王にいく手段を質問。かたわらでカッパは、スマホ検索。すぐさま切符を購入し、改札を入ったら目の前にすべりこんできた新幹線に乗車。発車後、山形駅のバス乗り場やコインロッカーの位置をスマホで確認し、荷物をまとめる。山形駅に到着。コインロッカーに直行して荷物を預け、バスのチケットを買い、ターミナルに入ってきた蔵王行きバスにすかさず乗車。トラベルミステリーばりに1分1秒のロスもなく移動することができました。
ここ数年、ふたりで山だの街だのに出かけ身につけてきたスキルが一気に役立ちました。ネット&人に聞く、という合わせ技。いつも各地の観光協会にはお世話になっています。ありがとうございます。

蔵王は、バスをおりるやいなや、硫黄の香りがぷーん。旅館やお店がつらなる通りをぷらぷら歩きます。
200円で入れる公衆浴場もいくつかあるのですが、私たちが目指すのは、渓流を眺めながら200人も入れるという「蔵王温泉大露天風呂」。にぎやかな通りを抜け、うらさびしいホテルの裏道を歩き、坂道をひたすら登ります。ああ、車さえあれば。ごめんよカッパ。

うねうねと坂を登りつづけ、ようやく大露天風呂の駐車場にたどり着きました。
そこから渓谷を見下ろします。長い長い下り階段の先に見えるのは、露天風呂と、おじさんの白いおしり。丸見え! 山形、おおらか。えっ、まさか混浴!? 一瞬焦ったものの、若いカップルが階段をあがってきたので、そんなわけないよねと受付にいってみたら、男女に分かれていました。ほっ。

料金を払った先は、脱衣場、即、温泉。はいはいこのパターンね。洗い場とかカランとかシャワーとか洗面台とかトイレとか、なんにもないのね。了解。そういえば山形に来てから、カランやシャワーは一度も拝んでおりません。

長い階段を自力で上り下りできる者だけが辿り着ける大露天風呂は、「バリアフリー? は? なにそれ」とつっぱねるダイナミックなつくり。源泉がジャージャー流れる川の横っちょをせきとめて、石を積んだらたまたまこうなったのでしょうか。男湯は丸見えですが、女湯は上流にあって駐車場からうまいこと見えないようになっており、何にもじゃまされずに山を眺めることができます。
アクセサリーが変色し衣類も痛むという濃い温泉につかり、カッパ、ごきげん。このまま川に流されていっても悔いはなさそうです。

温泉で朝からのドタバタ劇の疲れをとった後、階段をのぼり、山道をくだり、バスターミナル付近まで戻りました。バスの出発時刻まで約30分。おなかがすいています。蔵王は、ジンギスカン発祥の地、なんですって。そうなんですって。
あいていたお店に「あんまり時間がないんですけれど食べられますか?」と聞いてみると、「テーブルで焼くからあなたたち次第」という返答。「ジンギスカン定食と瓶ビールください!」。大急ぎで飲んで、焼いて、食べて、大満腹。
バスに間に合い、ぐっすり眠りながら、山形駅に戻りました。

山形駅からは、市内をめぐるバスに乗り、昭和のモダンな建物がのこるオシャレな界隈を散策。
民芸品の「尚美堂」では、郷土玩具をじっくり拝見しました。旅の最大の目当てであった相良人形「猫に蛸」は残念ながら今回は手に入りませんでしたが、山形にはほかにも、笹野一刀彫り、山形張り子、山形系こけし、肘折系こけし、蔵王系こけしなど、郷土玩具が豊富です。
こけしとのビビビな出会いはなかったものの、山形ならではの自分用土産を買うことができました。「王将」の将棋の駒の裏に「山田」と刻まれたキーホルダー。山田、どんな手が打てるのでしょうか。歩兵のひとつもどかなそう。

帰りの新幹線に乗り込む前に、駅ビルで宴の準備です。
ハタハタの唐揚げ、平田牧場の一口サラミ、燻製卵。そしてついに、東京駅の駅弁屋で人気ナンバーワンだった米沢名物「牛肉どまん中」を手に入れました。
駅構内の売店で見つけたのは、こぶりのプラスチックカップに、丸い氷がごろんとひとつ入っている一品。これ、素晴らしいです。細かいジャラジャラした氷はすぐに溶けて水っぽくなってしまうけれど、大きな丸い1個はお酒を適度に冷やながら、長持ち。レジで紙のカップもつけてくれたので、重ねれば手もテーブルも濡れません。山形市マルコ製氷さんのカップアイス、ぜひ日本じゅうの駅に広まってほしい。

旅の途中に買った地酒を丸い氷で冷やして飲みながら、静かな宴を楽しんで、充実の山形旅は終了。
牛肉どまん中、さすがの駅弁王者でした。

*  *  *

これをもちまして、山田マチの連載は、いったんお休みいたします。お読みいただき、ありがとうございました。2020年が良いお年になりますように。ごきげんよう。

*きょうの昭和*
山形の民芸店で買った自分用土産。「王将」の反対側に「山田」。表裏の強弱が激しい。
*きょうのごはん*
山形旅の〆は、米沢名物「牛肉どまん中」。ど迫力の牛肉量。

関連書籍

山田マチ『ひとり暮しの手帖』

実家をはなれて、およそ20年。 これまでも、きっとこれからも、ひとり暮し。 ここには、ひとり暮しのいろいろなことを書きつけます。 このなかのどれかひとつくらいは、あなたの心に届くかもしれない。 いや、ぜんぜん届かないかもしれない。 そんなふうな、 これは、ひとり暮しの山田の手帖です。

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