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山田マチの山だの街だの

2019.11.13 更新 ツイート

第52回 御徒町 - アキオカ・羊肉・アメ横 -山田マチ

上野と秋葉原のあいだにある「おかちまち」。いつもなんのきなしに読んでいるのに、手書きでメモしようとしたらペンが止まってしまいました。御に徒で、おかちまち。覚えたはいいが、人生でこれを書く機会が再びやってくることはあるでしょうか。

御徒町で友人たちと食事をすることになりまして。
せっかくなのでちょっとその前に、「2k540 Aki-Oka Artisan」に行ってきました。どうですか、読めないし、なんだかわからないでしょう。「ニーケーゴーヨンマル アキ・オカ アルチザン」と読みます。
秋葉原と御徒町のあいだにあるから「アキオカ」。「2k540」は、東京駅からの距離、2.54キロを表しています。「アルチザン」は、フランス語で「職人」という意味。

 

かつて御徒町周辺は、江戸の文化を伝える伝統工芸職人の街だったそう。ここは「ものづくり」をテーマに、JRの高架下のスペースを利用してつくられたショッピングゾーン。
宮殿のような真っ白な柱が何本もそびえたつ空間に、革製品、木工品、ジュエリーなどの職人の店や、ギャラリー、カフェが連なっています。
木工屋さんの店先で大々的に宣伝されているのは、しゃれた木製の「虫コナーズカバー」。岡山のジーンズのお店や、色とりどりのランドセル屋さんも。

伝統工芸の店で見入ってしまったのは、久留米絣のコーナー。私はどうも絣に弱く、なかでもモンペを見ると買ってしまうクセがあります。先祖の農民の血が騒ぐのでしょうか。でももう持っているのです、3枚も。もう買わないぞ、スカートならいいか、いや、いらぬ、と自分を律してお店を出ると、帆布の店が待ちかまえていたりするのが、アキオカのこわいところ。
帆布のカバンなら、犬印、一澤、信三郎、ペネロープと、もう一生ぶん持っています。いかんいかん、かわないぞと、気持ちを強く保っていても、とどめにあるのが「日本百貨店」。

「日本百貨店」は、日本の職人の手によるこだわりのグッズがセレクトされた、和雑貨デパートメント。こけしなどの民芸品や、布モノ、紙モノ、ブリキのおもちゃ、食料品までそろいます。
財布のヒモがほどけていきそうになるのをぐっとこらえていたはずなのに、てぬぐいを買ってしまいました。てぬぐいだって、もう一生ぶん持っているのに。新潟のへぎそば柄にひかれてつい。
こけしを我慢しただけ偉いと自分に言い聞かせ、ニーケーゴーヨンマル アキ・オカ アルチザンをあとにしました。

今宵友人らと食事するのは「羊香味坊」というお店。またしても読めないやつが現れましたよ。正解は、「ヤンシャンアジボウ」。
その名のとおり羊料理のお店で、中国の東北地方、黒竜江省の料理を提供する中華の名店「味坊」の姉妹店だそうです。羊もパクチーも酒も大好きなメンバーが、丸テーブルに7人。お腹がすいているものだから、じゃんじゃん注文しました。

ラム肉の焼き餃子に水餃子に小籠包、ラム肉の黒胡椒炒め、たっぷりクミンが効いたラム串セット、ラム肉と冬瓜の蒸し物、マーラーごまタレかけの羊肉の塩煮。パクチーや山椒醤油など6種類の薬味も50円で追加できるので、テーブルは皿まみれ。
ものすごいスピードで食べるのですが、さすがは中華、店内満席にもかかわらず、それを上回るものすごいスピードで出てきます。我ら7人と厨房のデッドヒート。店員さんの配膳もリズミカル。

ものの数十分で食事が終わってしまいそうな勢いなので、ちょっと箸休めにと、「中国白酒」三種飲み比べを注文しました。中国の蒸留酒が、おちょこのようなかわいいワイングラスに注がれていて、1杯150円。
順番に一口ずつ飲んでみました。うまい。そして、つよい。目と目のあいだの奥にある3つめの目がカッと開き、モヤが晴れたように視界が突然クリアになりました。ギンッ!
「ラムだラムだ、ラムもってこーい!」
もっと元気になってしまい、最後までものすごいスピードのまま、麺もチャーハンも食べつくしました。

腹ごなしに7人そろって、ちょっと散歩。
御徒町駅前広場にある2匹のパンダ像とたわむれてから少し歩くと、シャケの像が宙に浮いていました。大人がまたいで海を渡るレジャーができそうな大きさのシャケは、「吉池」の看板でした。
吉池は、創業もうすぐ100年の、魚介が市場価格で買える鮮魚デパートメント。北海道に自社工場をつくるほどシャケに力を入れているそう。
パンダとシャケで動物園と水族館にいった気分になっているのは、たぶん中国白酒のせい。

そうこうするうちに「アメ横」の看板が見えてきました。アメ横は上野のイメージが強いですが、上野駅から御徒町までの線路脇をのびているんですね。
夜のアメ横を歩くのは初めて。
シャッターの降りた小さな商店がたくさんならぶ2階部分に、神社のような赤い建築物が煌めいています。金持ち社長のおたわむれかしらと思ったら、それは400年以上の歴史をもつ、「摩利支天(まりしてん)徳大寺」という立派なお寺でした。
関東大震災でも第二次世界大戦でも本堂は燃えたけど、本尊である摩利支天像は無事だったという奇跡のおパワースポット。商店の上にあって境内すれすれを電車が走るというカオスなお寺。
西洋人がイメージでつくったアジアみたいな世界観にリアルにほうりこまれ、時空がゆがんだように感じたのは、たぶん中国白酒のせい。

ラム肉を食べすぎたのも、へぎそば柄の手ぬぐいを買ったのも、おかちまちの漢字が書けなかったのも、たぶん中国白酒のせい。
ぜんぶ中国白酒のせいにして、7人の酔っ払いは、上野の大衆酒場にハイボールを飲みにいったのでした。

*きょうの昭和*
昭和36年生まれの、すみれ堂のバタータン。「タン」は短冊の「タン」。これはもしやあれの元祖。
*きょうのごはん*
御徒町「羊香味坊」にて。ラム肉と酒とパクチーと。はやい、うまい、スパイシー。

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山田マチ『ひとり暮しの手帖』

実家をはなれて、およそ20年。 これまでも、きっとこれからも、ひとり暮し。 ここには、ひとり暮しのいろいろなことを書きつけます。 このなかのどれかひとつくらいは、あなたの心に届くかもしれない。 いや、ぜんぜん届かないかもしれない。 そんなふうな、 これは、ひとり暮しの山田の手帖です。

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