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移住サバイバル

2019.11.04 更新 ツイート

海の幸トレイルランニング(後編)

論理でなく感情で動ける人間になれ山本圭一

1人で林野を開拓してコース整備

トレイルランニングとは野山を走るスポーツだ。僕が移住した地域は標高300~500mの山に囲まれたいわゆる里山で、トレランをするにはちょうどよい地形だ。しかし、走るための道はほとんどない。

第1回~3回大会までは、既存のハイキングコースを使ったのだが、地元から少し離れてしまう。僕としては地元完結のコースにしたかったので、2012年から現地調査と山道開拓を黙々と続け、2016年の第5回大会からは地元完結のコースで開催できるようになった。

開拓作業は1人で行った。もちろんこれまで林野を切り開いた経験などなく、誰かが教えてくれるわけでもないので、試行錯誤しながら、ゼロから自分で進めていった。直径50㎝以上の倒木を切り、500m以上の笹藪を開拓し、ときにはスズメバチに刺されながら、総距離25㎞のコースを完成させた。結果的に4年近くかかった。

 

かなり過酷ではあったが、この経験を通じて、生きていくのに必要なことは何でも自分でできるという相当な自信がついた。僕の考える移住サバイバルの醍醐味は、誰かに手取り足取り教えてもらうのではなく、自分でゼロから築き上げることにある。それはこのときの経験に依るところが大きい。

お金を地元に落とす

「海の幸トレイルランニング」の主たる収入源は、参加費とスポンサー収入だった。通常の大会なら、経費は走ること回りに集中的に使えばいい。だが、「海の幸トレイルランニング」は、前夜祭で地元海産物をふんだんに味わってもらうこともメインテーマだったので、レースそのものより、前夜祭で振る舞う地元食材や地元の料理人、関係者に多くの経費を使うことにした。

大きな声では言えないが、スポーツイベントの多くは、無償のボランティアで成り立ち、それが当たり前みたいになってしまっている。そのような善意のスタッフ頼みのイベントを見ていると、毎回スタッフが入れ替わり、足りないスタッフは、役場職員が休日出勤して穴埋めしたりする。何回開催してもイベントは地元に定着せず、非常に疑問が多い。

また、マラソン大会など、地元産物を給水所で振る舞うというパターンのイベントでは、産物の購入費を税金で賄うものもある(地域振興名目で助成金をとるのだ)。これをどう見るか、考え方は人それぞれだろうが、マッチポンプ的な助成金ビジネスとも言えないだろうか。

もちろん僕の大会も、外から応援に来てくれるボランティアの方々の協力なしには成り立たなかった。だが、少なくとも地元関係者には有償で仕事をお願いしたし、助成金は一切使わないようにしてきた。

今後、地方の財政状況はますます逼迫し、地域振興系の助成金は減っていくだろう。助成金頼みのイベント開催は難しくなっていくと思う。だが、独立採算でできない、惰性で続けるようなイベントはつぶれた方がいい。イベントも生き残りをかけて知恵を絞る時代なのだ。

論理で動く人、情緒で動く人

僕は血縁も地縁もない場所で、しかも地元の人はトレランなどというスポーツに知識も興味も一切ないという状況のなか、多くの方々に支えられてイベントを行うことができた。2013年から2018年までに計7回開催し、のべ2500人以上が参加した。毎回80人以上もの関係者、スタッフに支えられ、大きな事故もなく有終の美を飾ることができた(と思っている)。

これを、自分の熱意が人を動かした! などというつもりは一切ない。ひとえに、地元の方々や、外から応援に駆けつけてくれた関係者が、いい人たちだったおかげだと思っている。

人間には2種類いると思う。何かを分析し評価してから行動する人と、評価ではなく気持ちで動く人。論理的か情緒的かと言ってもいいかもしれない。

都会に住んでいた頃は、経営者や成功者たちとの付き合いが多かった影響で、人は論理的、合理的に行動すべきと信じていた。世間的な成功欲求に駆られる人々は、「論理的に考え合理的に行動せよ」というビジネスマインドで生きているような気がする。

だが、僕が移住した先では、どちらかと言えば情緒的に生きている人が多いように思う。物事を理屈で測る前に、受け入れられるかどうかを感情で決める。だからこそ、僕のような得体の知れない人物に対しても、その行動を見て、その話に耳を傾け、協力してくれたのだと思う。論理思考の人なら、事業計画とか過去の実績とか、まずは数字で評価しようとするから、協力は得られなかっただろう。

もちろん、感情的ということは、少しでもボタンをかけ間違えれば、拒絶されてしまうということだ。関係者との対話、コミュニケーションはかなりに密にする必要がある。このような進め方は時間がかかるので、合理的に行動したい人は無駄が多いと感じるだろう。しかし、ローカルイベントにおいては、この無駄をどれだけ受け入れられるかが、非常に重要な成功ポイントになる。

人と人との断絶はなぜ起きるのか

こんなことがあった。ある団体から協力をもらっていたのだが、あるときから責任者とのコミュニケーションがうまくとれなくなり、協力関係が築けなくなってしまった。何度か謝罪に行ったが、お前は何も分かっていないと言いがかりをつけられ、聞く耳を持ってもらえず、結果的にその団体との交流はゼロになった。自分にどのような落ち度があったのか、いまだに分からない。聞くところによると、その責任者は他のイベントスタッフや役所などとも問題を起こしているようだった。地元関係者に相談したときも、もう近づかない方がいいと言われた。

まさに、田舎の陰の部分と言うべき経験だが、これは情緒的な生き方をする人々のマイナスの側面だろう。自分の気持ちを言語化できないから、不満感情だけが溜まって、周囲に当たり散らす。周囲もその人を説得するでも、問題を解決するでもなく、「臭いものには蓋をしろ」とばかりに、関係をシャットアウトするだけ。

日本の地方のいたるところで、このようなことは、過去、無数に繰り返されたことだろう。その度に人と人、人と地域との関係性が絶たれていったと想像できる。誤解を恐れず言うなら、理論的に生きている人よりも、情緒的な人の方が、結果的に人と積極的に関わることを避けるようになってしまうのではないだろうか。

心の赴くままに生きていくために必要なこと

都会から田舎に移住し、それなりのサバイバル状況を潜り抜けてきたが、ひとつ真理として掴んだことがある。

「人は論理的に理解して動くのではなく、情緒的に共感して動く生き物である」

これが最初に言った新しい視座だ。

人が何かに心を寄せるとき、その根底には快不快の判断がある。いくら数字で説明しても、その計画に感情的に納得できなければ、行動に移すのは難しい。論理よりも、感情的に心の赴くままに生きていくのが一番しっくりくるということは、誰より僕自身が、この移住サバイバル生活で体得したことだった。

今、田舎から日本を俯瞰していると、数字で理詰めに説明しようとする人はどんどん増えているけれど、いろいろな問題は全く解決していない。人々の感情的な分断も深まっていくばかりに見える。「心の赴くままに生きていくのがいいなんて言えるのはあなただからですよ」という言葉も聞こえてくるが、短い人生、自分の好きなように生きなかったら後悔するのは目に見えている。

これからの時代をサバイバルするには、感情レベルで納得し、好きなように生きていくために、全てを自己責任で引き受ける精神力と感情を言語化できる知性が必須なのだと思う。

惜しまれながらもイベントを終わらせた理由

2018年の初旬には、防災集団高台移転も完了し、仮設住宅で暮らしていた住人が街に戻ってきた。漁業はすでに復興している。そのプロセスを現地で暮らしながら見てきた僕は、海の幸トレイルランニングの役割は終わったと感じた。

今年で海の幸トレイルランニングは終わりにしますと打ち明けると、多くの関係者、参加者からもっと続けてほしいと言われた。自分のやってきたことが間違いではなかったと嬉しく思う反面、津波被害から復興したこの街で、僕のような外部の人間がイベントを続けることは、僕自身がまさに感情的に受け入れられなかった。

ここから先は、地元の人が、自分たちの手で自分の街を取り戻していくフェーズなのだ。インフラ整備はまだ十分ではないところもあるが、生活や仕事はすでに問題なく回っている。この街をPRしたいなら、自分たちの手で外に発信していかなければならない。他力本願ではダメなのだ。

そして昨年、第7回大会を無事に終え、海の幸トレイルランニングは完全に終了となった。この瞬間をもって、僕は次のステージへと進むことにした。

ただ生命として生きながらえる保守的なサバイバルから、誰かのために生きたいと願う積極的なサバイバルへ。

そのために僕が選んだのは、知的障碍者の経済的なサポートをビジネスとして成立させるという道だった。それについての詳細は次回に書きたい。

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関連書籍

山本ケイイチ『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』

いま体を鍛えるビジネスマンが急増中。経営者や金融マン、クリエイターなど、常に成果を求められる人ほど、トレーニングに時間とお金を投資している。筋肉を鍛え維持することは、もはや英語やITにも匹敵するビジネススキルなのだ。本書では「直感力・集中力が高まる」「精神がタフになる」など、筋トレがメンタル面に大きな変化をもたらすメカニズムを解説。続けるための工夫、効果を高める食事・睡眠、ジムの活用法など、独自のノウハウも満載した画期的トレーニング論。

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移住サバイバル

東日本大震災を機に宮城県石巻市に移住した山本圭一さん。家なし、知り合いなし、文字通りゼロから始まったサバイバル生活の記録。

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山本圭一

()プロテイン工房代表。中学生時代に独学で筋トレを始め、高校で本格的な筋トレと禅に取り組む。 高校卒業後はトレーニングを極めるべく自衛隊に入隊。初級偵察教育では隊長賞を受賞。 その後フィットネス業界に転身し、パーソナルトレーナーとして独立。独自のトレーニングメソッドがビジネスマンや経営者に支持され、予約のとれないトレーナーになる。2008  5 月に『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』を出版。13 万部を超えるベストセラーに(その他著書多数)。 また企業フィットネスのアドバイスやジム経営、フィットネス通販事業なども手掛ける。2011 年からは、鍛錬家を名乗り活動を開始。 トレーニングを「心を磨く」行為として捉え、体づくりと社会貢献についてセミナーなども行う(個人活動として勧善道場を主催)。同年、東日本大震災の直後から、宮城県石巻市雄勝町にて炊き出しや学習支援を行ったことをきっかけに移住。漁業をしながら新しい街づくりに奔走する。地域PRのために主催してきた「三陸・雄勝 海の幸トレイルランニング」(20112018)を業界でも有数の大会に成長させた。2018年に小ロット対応のプロテインOEMメーカー「プロテイン工房」を設立し、フィットネス消費よる社会貢献の拡充を目指す。

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