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アルテイシアの59番目の結婚生活

2019.10.18 更新 ツイート

やっぱり私と夫は全然合わないアルテイシア

来年の話だが、これまで書いた夫婦コラムを集めた新刊が出る。その準備のために過去の原稿を読み返して、「やっぱり私と夫は全然合わないな、趣味が」と再確認した。

我々は共通の趣味が1つもないが、それで困ったことは一度もない。

結婚生活において大切なのは、もっと根本的なことである。話し合いができるか、思いやりを持てるか、病める時ベースで支え合えるか、といった人間性の問題。

 

また何を大切に思うか、何が許せないか、何に嫌悪感を抱くか、といった感覚や価値観。それらが合っていれば「妻の趣味はサンバで、夫の趣味は写経」とかでもうまくいく。

これは女友達も同じだと思う。友人たちは趣味も職業も属性もばらばらだが、感覚や価値観が似ているから、一緒にいて楽しいし居心地がいい。

夫とは趣味は合わないが話が合うので、交際当時からファミレスで何時間でも話せた。そして14年たった現在も、晩ごはんを食べながら飽きずに会話している。

『59番目のプロポーズ』で作家デビューした時に「アルさんもオタクですよね?」とよく聞かれたが、私はオタクにもリア充にもなれない、中途半端な人間である。

漫画やアニメは好きだが詳しくないし、ゲームは全然しないし、オタクとは言えない。かといってウェイが苦手なインドア派でリア充でもない。

若い頃はリア充系の男子と付き合っていたが、フェスやフットサルの試合に同行するたび「家で漫画読みてえ」と思っていた。

ウェイな人々の「やたら乾杯して写真を撮りたがる・ハイタッチしたがる・初対面でタメ口&下の名前呼び」みたいな文化にもなじめなかった。

当時はリア充になれない自分にコンプレックスを感じていたが、結局、人は居心地のいい相手といるのが一番なのだろう。

オタクの夫と付き合って、その居心地のよさに驚いた。家で漫画を読んだりDVDを観たり、クリスマスにガンダムツリーを飾ったりして「なんて楽なんだ、ワナワナ」と震えた。「ワナワナ」「メメタァ」など擬音を口に出すこともできた。

夫とはたまに外でデートするのも楽しかった。USJのジュラシックパークのアトラクションに乗った時、「ヴェロキラプトル!」「ブラキオサウルス!」「プシッタコサウルス!」と全恐竜の名前を連呼して「そしてナレーションは江原征士だ」と結んだ夫に「こいつすげえな」と感心した。

「さすが恐竜オタクだね」と言うと「いや、骨を見せられて『これはアロサウロスの椎骨だ』とわかるぐらいじゃないとオタクじゃない」と返されて「なんと厳しい世界よ、ワナワナ」と震えた。

また、夫に『月刊ムー』のコラボバッグの画像を見せたら「ビッグフット、チュパカブラ、フラットウッズモンスター、モスマン、ネッシー、シーサーペント」とすらすら答えたので「キミすげえな」と感心すると「こんなのは常識だ、SMAPのメンバーの名前を言えるようなものだ」と返された。

「このメンバーの中で最推しは?」と聞くと「そりゃやっぱりフラットウッズモンスターだろう」と言っていたので、UMA界のキムタク的存在なのかもしれない。

そんな夫は20歳の時に『野人発見』というタイトルのム-ビーを撮影している。その古いビデオテープを再生したら、野人役の夫が全裸で木に登ったり砂を食べたりしていた。

私は恐竜やUMAに興味がないし、全裸で砂を食べる趣味もない。だがオタクにもリア充にもなれない者として、そこまで何かに熱中できる夫を尊敬するし、そこに痺れる憧れる。私は「他人がどう思おうが、自分はこれが好き」と言えるものがある人が好きなのだ。

とはいえ、初対面で「刃物と銃と毒物が好きです」と言われたら、そっと席を立っただろう。夫はナイフとエアガンを収集しており、また毒好きが高じて毒物劇物取扱責任者の資格をとっている。

それらの趣味に偏見はないが、知らない異性には「ヤベえ奴かも」「殺されるかも」と危険センサーが働くものだ。

それでも何度か会ううちに「人として信用できる」と思ったから、夫と付き合った。初めて家に遊びに行った時、『KGB殺人術』『傭兵マニュアル』などが並ぶ本棚をみて「家宅捜索されたらヤバそうだな」「全然趣味が違うな」と思った。夫の方もそう思っていたようだ。

でもべつに全然大丈夫だった。自分に理解できなくても、相手の好きなものを尊重する。夫と私はそこの価値観がマッチしたのだと思う。

タラレバ娘のヒロインが「SATCを否定する男とは付き合えない」と言いつつ、相手の好きな映画は否定する場面を読んで「そういうとこやぞ」と思った。

本人は「自分は妥協できない女」「だから結婚できない」と考察するが、「自分の趣味に合わせろ」と押しつけるのはモラハラの発想だし、狗法眼ガルフ様である。

(狗法眼ガルフ様……北斗の拳の登場人物。「この街では犬こそ法律!」と圧政で民を苦しめる犬好きの暴君)

「ワんちゃんよりおキャット様派」という民を不敬罪で捕らえて死刑に処してはならない。二度とカレー沢先生の作品を読めなくなる。
そういう邪知暴虐をする奴は趣味や好みに問題があるんじゃなく、人間性に問題がある。

当コラムの担当女子は、妻は読書が趣味の文系インドア派、夫はスポーツ大好きのアウトドア派だそうだ。「彼は通勤手段が『RUN』なんですよ」という飛脚みたいな夫と暮らす彼女は「でも2人でキャンプに出かけたり、新たな楽しみを知れたのはよかったです」と話していた。

妻は元水泳部でバリバリの体育会系、夫は理系でゴリゴリのオタク、という仲良し夫婦もいる。

結婚前の妻は「漫画を読んだことがない、コマを読む順番がわからない」と100歳の老人みたいな発言をしていたが、夫と付き合って「漫画って面白い!」と開眼して、先日会った時はずっと『鬼滅の刃』の話をしていた。

一方の夫は運動音痴のかなづちだったが、災害や水難事故に備えて、妻とプールに通ってふしうきやバタ足の練習をしているらしい。

このように、いい意味で影響を与え合う夫婦もいる。私も夫婦で共通の趣味があるのはいいなと思うが、うちはお互いの趣味に興味がないし干渉しない派の夫婦である。

もともとうちは別行動派の夫婦だ。私は寂しがりやだけど1人の時間がないと死ぬ人間なので、夫が釣りや道場に出かけてくれる方がありがたい。

また、うちは混ぜない派の夫婦でもある。我々はいわゆる「家族ぐるみの付き合い」を一切しない、気をつかうし面倒くさいから。私は夫の友達に会うヒマがあったら、自分の友達に会いたい。

そこの価値観がマッチしているのもよかった。「夫の友人を招いてホームパーティーをして、妻が料理の腕を振るう」みたいな話を聞くと「面倒くせえな」とゾッとする私。そもそも振るう腕もないし、夫もそんなことは望んでいない。

私が家で女子会をする時は夫は釣りや道場に出かけるし、夫が男友達を呼んでファミコン大会とかする時は、私は女友達と遊びに行く。

私は女友達と遊ぶのが趣味なので、外食や旅行も女子と楽しんでいる。食や旅に興味のない夫は己の趣味にまい進していて、それが我々にとってベストな形なのだ。

夫婦の形に正解はなく、2人に合った形にカスタマイズすればいい。「結婚したら自由がなくなる」と言われるが、我々はお互い自由に好きなことをしている。それは子どもがいないことが大きいが、子どもを持つ・持たないも夫婦2人で決めることだ。

夫婦と趣味問題でいうと、オタク夫婦の妻は「オタクに理解があるのは楽だけど、ジャンルは違う方がいいかもね。同じジャンルだと解釈違いで揉めるから」と話していた。

解釈違いが勃発しても、相撲やチェスで決着をつけられればいいが、そこから離婚裁判とかになるのはまずい。裁判官もオタクだったら「いや私はまた別の解釈だ」とますます泥仕合になる。

そう考えると、夫婦で好きなジャンルが違う方が平和なのかもしれない。

カレー沢先生が『カレー沢薫の廃人日記』に「夫が1本2万以上するスタッドレスタイヤを買うと聞いて、変態じゃないかと思った」「そのタイヤは子安武人の声でしゃべるのか」と書いていた。

私も車に興味ゼロなので共感したが、さらに変態じみた話を聞いた。それは「知人の夫がバスオタクで、バスを買った」という話だ。

バスオタク氏は30人乗りのバスを運転してイオンに行ったり、家族で墓参りに行ったりするそうだ。停車中、たまにバス停と間違えて人が並ぶらしい。

私も夫から「バスを買いたい」と言われたら「そのバスは津田健次郎の声でしゃべるのか?」と聞くだろう。もしそうなら轢かれてもいい。

バスがセクシーボイスで囁かなくても、家計が破たんしてバス暮らしにならなければ問題ない。何を好きになるかは個人の自由なのだから。

夫は自分の好きなことをして機嫌よく生きているし、いつも上機嫌な人と暮らすと、こちらも上機嫌でいられる。

「定年後の父親がものすごくウザくて、ありえないほどウザい」と嘆くJJ(熟女)は多い。

「無趣味だからずっと家にいて、母が出かけると不機嫌になるのよ。この前、母が入院した時は『お父さんの世話、よろしくね』と頼まれて、本当に大変だった……」
「世話ってなに? トイレの砂とか替えるの?」

こういう話を聞くと「お父さん、死んでくれてありがとう」と空に向かって合掌する。無趣味で友達もいない親は、やたら子どもに干渉するカマッテ老人になりがちで、「早く永眠してくれねえかな~」とボヤくJJたち。

そう考えると、やはり趣味がある夫の方がいい。ヒマな老後は夫婦で共通の趣味を楽しむのもいいかもしれない。

夫も「たまには一緒に釣りに行く?」と誘ってくるが、彼の釣りは「テトラポットに直寝して、トイレは海」とか野性味が強すぎて無理である。だが「釣りエサが尽きたから、フナムシを素手で捕まえて半分にちぎってエサにした」みたいな話を聞くとキュンとする。

心臓の誤作動? 不整脈? と心配されそうだが、健康診断で異常はなかった。夫と出会った当初、恋愛感情はなかったものの「蜘蛛はチョコレートの味がする」「イノシシは耳が急所だから石で狙えば倒せる」みたいな発言にはキュンときた。

私の結婚したい男殿堂入り1位は、平賀=キートン・太一先生だからである。マッドがマックスな環境で生き残れる人物に萌える私は、『サバイバルゲーム MAN vs. WILD』のベア・グリルスのファンでもある。

ベア・グリルスはイギリス軍特殊部隊SAS出身の冒険家で、世界中の秘境を巡って「ここでは貴重なタンパク源です」と言いながら、カタツムリを食べては「まるで巨大な鼻クソです」、イモムシを食べては「鼻クソで作ったソーセージのようです」と食レポをしている。

私は食の趣味が合う男よりも、素手でフナムシを捕まえる夫が好きだ。一緒に山登りした時も素手で蛇を捕まえていたし、いざという時は皮をはいで丸焼きにして、料理の腕を振るってもらいたいと思う。

*   *   *

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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