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アルテイシアの59番目の結婚生活

2019.11.18 更新 ツイート

俺の弟はこんなにヤバい奴やったんかアルテイシア

先日、死んだ父の遺品をまとめて燃えるゴミに出した。一年以上処分しなかったのは、面倒くさかったからである。

特にあのごっつい紙製のアルバムは処分に困る。デジタル化万歳だ。
父の昔の写真が入ったアルバムは全部捨てて、私と弟の子ども時代の写真が入ったアルバムだけ残すことにした。

セピア色の写真の中の私と弟は、おそろいのファミリアの服を着て、ウルトラマンポーズをキメている。
「昭和感がすげえわ」とアラサーの女友達に話すと「月光仮面とかも人気だったんですよね!」と言われたが、それはもうちょい上の世代である。

私と弟は双子なので、入学式や七五三の写真は全部一緒に映っている。それらの写真を見ながら特に何も思わなかったが、そのあと昼寝したら、夢の中で私は泣いていた。

するといろんな種類の猫が現われて「特別にだっこを許可する」と順番に抱かせてくれた。
私は幸福感に包まれつつ「この猫、骨と皮なのにずっしり重いな、なんて名前だっけ、えーとあれあれ……」とJJ(熟女)ぶりを発揮して「……スフィンクス!!」と叫んだ瞬間、目が覚めた。

そして腹の上を見ると、体重10キロの超大型猫ラーメンマンが眠っていた。

悲しみはすっかり消えていて「睡眠中に慰めてくれるなんて、やはり猫は神」と感動した。同時に「よし、弟のことをコラムに書こう」と思った。おキャット様の導きである。

去年、父が飛び降り自殺した後、いろいろあって弟と縁を切った。その顛末を綴った「毒親の送り方シリーズ」を読んだ友人知人から「弟さん、大丈夫ですか?」とたまに聞かれることがあった。

彼女らは「弟さん、心を病んでるんじゃないかなって……」と親身に心配してくれて、そのたびに「まともな良心のある人はそう思うよね」と思った。
まともな良心のある人は、自分が絶対しないような行動を目にすると「心の病気なのでは?」と思うものだ。

彼女らは私と弟の詳しい事情を知らないし、そう思うのは自然なことで、むしろその優しさや気づかいに感謝していた。これは本当に正直な気持ちだ。

けれども、同時に声が聞こえるのだ。「弟もきっとつらいのに、そんな弟を捨てたおまえはひどい人間だ」という声が。
もちろんこれは彼女らの声じゃなく、私の心の声である。私自身が自分を責めているのだ。

私は彼女らに「大丈夫ですよ! 弟のFacebook情報によると、彼はあのあと就職して元気そうに暮らしてます。今は筋トレにハマってるらしく、ムキムキの写真をアップしてました(笑)」と返しつつ、胸の痛みを感じていた。

敵は己の罪悪感!!

どれだけそう言い聞かせても、どれだけひどい目に遭わされても、毒家族育ちは消えない罪悪感を抱えている。

世の中には「血のつながった家族を捨てるなんてひどい人間だ」という呪いが溢れていて、我々はその呪いとずっと戦っているのだ。

18歳の時、私は死ぬ思いで毒親から離れて、必死で生き延びてきた。という話をすると「強いですね」と言われるけど「いや私めちゃめちゃ傷ついてますよ?」と思う。

めちゃめちゃ傷ついているから、「お母さんも大変だったんじゃない?」「きっとつらかったと思うよ」といった言葉が、胸をグサグサとえぐるのだ。

「それなのに、家族を見捨てたおまえはひどい人間だ」という声が聞こえて「やっぱりわかってもらえない」「あなたもあっちの味方をするの?」と思ってしまう。

相手にそんな気はないと頭ではわかっているが、心が勝手にそう感じる。これはトラウマ反応で、自分ではコントロールできないものだから。

「毒親の送り方シリーズ」に書いたが、父が自殺した日の夜、弟は私の連絡を無視した。「本当に心配してるから連絡がほしい」と何度LINEしても未読スルーで、私は一睡もできなかった。

その後、朝になって「今は気力がありません。そっとしておいてください」とLINEがきて「そっとしといてもらえる奴はええよなあ! キエーッ!!」と猿叫した私。

結局、遺体の引き取りや葬儀やあれやこれやは全部私1人でやった。親が死ぬと手間も金もかかる。葬儀に62万円、アパートの処分に68万円かかった。

全てが済んだ後、弟に報告のLINEをしても無視されて、何度か電話もかけたが出なかった。

そうやって全て丸投げされても、私は「弟は心を病んでいるのかも」と心配して、彼の住むエリアに良い心療内科がないか調べたりしていた。弟も自殺してしまうんじゃないか、という恐怖があったからだ。

家族全員が遺体で発見された女、なんて中二の好む設定すぎるし、何よりその時はまだ信じていたのだ。「俺の弟がこんなにヤバいわけがない」と。

弟は私に悪いことをしたと思って、合わせる顔がないんだ。謝りたいけど、気まずくて連絡できないんだ。だからしばらくそっとしておこう……そう思っていた私は、なんてお人よしなんだろう。

自分のマヌケさに涙が出てくる。なぜ我が泣かねばならんのか、ああ弟よ、君が泣け。

その後、相続放棄の手続きの最中、家庭裁判所から「弟と連絡がとれなくなった」と電話が入った。私はイヤな予感がして「本当に心配してるから連絡がほしい」と何度もLINEしたが、またもや未読スルーだった。

仕事も何も手につかないまま夜になり、「これ以上連絡がつかなければ警察に連絡します」とLINEを送ってみた。すると秒で返事が返ってきた。

「問題なく暮らしてます。心配しないでください」

その時ようやく、誕生から42年の付き合いにしてようやく気づいたのだ。「俺の弟はこんなにヤバい奴やったんか」と。

あのコラムを読んだ人は、私が二度目の無視にバチギレて縁を切ったと思ったかもしれない。でも実際は、オセロがひっくり返ったような感覚だったのだ。

弟は私に悪いことをしたなんて思ってない。自分の利害しか考えてなくて、私の気持ちなんか興味なくて、ただ警察を呼ばれると面倒だから返事をした。そういう良心をもたない人間なのだと。

オセロがひっくり返って、ようやく目が覚めた。すると過去のいろんなことがハッキリと見えてきた。

私は弟に何度も金を貸して、その総額は200万以上になっていた。「商売がうまくいかず、バイトをかけ持ちしてたら体を壊した」みたいな話を聞くと、弟が可哀想になって、自分が支えてあげなきゃと思ったから。

でも私も余裕があるわけじゃないし、毎回「もう商売はやめて就職したら?」と言っていた。父の死の半年前、またもや借金を頼むメールがきて「メールで?!!」と憤慨した私は、生まれて初めて弟に怒った。

「これだけ人に迷惑かけて、まだ商売を続ける気なの?!」
「僕はこれしかやりたいことがないから」
「それは人に迷惑をかけてまですることなの?!」
「僕はこれしかやりたいことがないから」

ペッパーくんの方がまだ語彙力あるぞ? とびっくりしながら、同じ言葉を繰り返す彼に不気味さも感じた。私は「もう二度と金は貸さん、本当にこれが最後だ!」と電話を切って、弟の口座に30万円を振り込んだ。

その時に「もうこいつから金はとれない」と判断したのだろう。つまり私が弟を切ったんじゃなく、弟が私を切ったのだ。私に利用価値がなくなったから。

覚醒した私はペッシになって叫んだ。「ヒモに貢ぐ女性の気持ちが!『言葉』でなく『心』で理解できたッ!!」

「家族」に対する認知の歪みはヤバい。私は彼氏に金を貸したことは一度もないが、弟にだけは正常な判断ができなかった。

もし私が「友達が借金頼む時だけ電話してきて、総額200万貸してるんだよねー」と言ったら「それは友達じゃない、カモだ! 今すぐ縁を切れ!」とみんな言うだろう。
その前に自分が「こいつはヤベえッー! 搾取のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!」と、吐き気をもよおす邪悪認定するだろう。

でも私は、弟に搾取されているとは思わなかった。私にとって弟は「毒親育ちの可哀想な被害者」で「自分が守らなきゃいけない存在」だったから。

彼はそんな姉心につけこんだのだろう。「弟が困ってて可哀想」「そんな弟を助けないなんてひどい人間だ」という同情心と罪悪感から、私はズルズルと金を貸し続けた。

名著『良心をもたない人たち』によると、25人に1人いる「良心のない人間」は「一見魅力的だが、嘘をついて人を操り、空涙を流して同情をひき、追いつめられると逆ギレする」という特徴があるそうだ。

彼らは「驚くほど見分けるのが難しい」が、その共通点は「同情心を利用して、思い通りに人を動かす」ことらしい。『相手がくり返しあなたの同情を買おうとしたら、警戒を要する』と書くこの本を

私、6年前に読んでいたのになあ……(涙目)

それなのに「これ進研ゼミで見たやつ!」とはならなかった。「まんまうちの毒父やな」と思ったが、弟のことは浮かばなかった。父と弟はやってることが同じだと、頭ではわかっていたのに。

父と弟はやってることが同じだった。私から何度も金を借りて、1円も返したことがないどころか、返すそぶりすら見せたことがない。

彼らと食事に行くたびに、いつも私が全額払っていた。え、なんで???? と今は疑問に思うが、当時はそれが当たり前だと思っていた。

父は大学時代にキャバレーのボーイをしていたそうだが、弟は歌舞伎町でホストをしていた。「僕は女性を騙したり嘘をついたりできないから、全然売れないんだよね」と弟は話していたが、私、ひょっとして太客だった……??

なんということでしょう。劇的ビフォーアフター風に、ビフォーの我の認知のヤバさにドン引きしている。弟の「自分は可哀想な被害者だ」と信じ込ませる匠の技に、すっかり洗脳されていた。

こうして書くと弟はかなり危険な匂いのする激ヤバ男子だし、乙女ゲーにそんなキャラがいても選ばないが(ホスト系よりマタギ系が好みだし)、当時はヤバさにまったく気づかなかった。それどころか、真面目で優しい好青年だと思っていた。

私、一応恋愛コラムニストなのになあ……(涙目)。「男は言葉じゃなく行動で判断せよ」とか偉そうに書いてすみません。

弟に関しては、全ての判断が狂っていた。それぐらい、仲良しきょうだいに憧れていたのだ

父母ともに毒毒モンスターペアレンツで、弟まで毒なんてあんまりじゃないか。親子ガチャはハズレでも、せめて弟だけはアタリだと信じたい。そんな思いが強すぎて、弟のことを好きでいたかった。どうしても嫌いになりたくなかったのだ。

さらに恐ろしいことに、この期に及んでまだ「いやそこまで悪い奴じゃないのかも?」「悪い奴と決めつけて、切り捨てる私がひどいのかも?」という思いがある。

キエーッ!! こんな自分が怖い!! 助けてー!!!!

と猿叫すると、今の私には助けてくれる友がいる。私が主催する「アルテイシアの大人の女子校」には毒家族フレンズがいっぱいいて「大丈夫、弟さんは毒ですよ!」と太鼓判を押してくれる。

そして「私も猛毒の姉にひどい目に遭わされたのに、今もたまに会うと『そんなに悪い人じゃないかも?』と引き戻されそうになります」「だから姉の過去の行動をスマホに記録して、それを見返して自分を戒めてます」とライフハックを教えてくれる。

私も定期的にこのコラムを見返そうと思う。「弟を切り捨てた自分はひどい人間じゃないか」と罪悪感にかられるたびに。

毒家族フレンズを見ているとわかる。彼女らは「自分はひどい人間じゃないか、冷たい人間じゃないか」と悩むが、むしろめちゃめちゃ優しいから悩むのだ。人を思いやる温かい心があるから、苦しむのだ。

そんな愛すべきフレンズに「悪人は善人の良心につけこむ」「同情したらまたカモられるで!」と伝えたい。

私も人並みに良心のある人間なので「親御さんもつらかったんじゃない?」と言われるたび「親御さんもつらかったんだろうな」「もっと自分にできることがあったかもな」とつい考えてしまう。

でも、私はそんなこと考えなくていいのだ。私はそんなこと考えなくていい(二回言う)

傷つけられた人間が、傷つけた人間に同情なんかしなくていい。その優しさや愛情は、自分を大切にしてくれる人たちに向ければいい。

仲良しきょうだいに憧れていた私は、トトロを観るのがつらかった。
でも今の私には、頼れる姉のような友人がいる。可愛い妹のような友人もいる。ちなみに読者の皆さんのことは勝手に姉妹みたいに思っている。だからもういいや、自分は十分幸せだ、と思えるようになった。

血のつながりは人の認知を歪ませる。「血は水より濃い」という言葉は「ドロドロした血より、水の方がサラッとしててイイネ!」という意味だろう。

私は血のつながらないフレンズを大切にして生きていく。そんな思いを新たにしたので、夢に出てきた猫さんたちよ、ありがとう。

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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