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アルテイシアの59番目の結婚生活

2019.09.18 更新 ツイート

夫の一番好きなところと、クソなところアルテイシア

基本、結婚生活に事件は起こらないので、コラムに書くネタがない。そこで担当女子にネタを求めたところ「夫さんの一番好きなところは?」との質問をいただいた。

我が夫の好きなところ。ぱっと三万個ほど浮かぶが、一番好きなところは「弱い立場の人間や動物に優しいところ」だろう。

 

昔、2人で近所の小さなペットショップに行ったら、よぼよぼの老マルチーズがケージに入れられていた。
「この子はどうしたの?」と店主に聞くと「高齢の飼い主さんが入院してしまって、引き取り手がないからうちで預かってるんです」。

それを聞いた瞬間、夫が「うちで飼おうよ」と言った。その言葉に「そういうとこやぞ」と私は思った。

もちろん、夫に対する不満も三万個ほどある。でもとっさに「引き取り手のない老犬を飼おう」と言える優しさがあるから、この人と結婚してよかったと思うのだ。

ちなみにその飼い主さんは奇跡の復活をとげて、老犬は無事自宅に戻った。また同じような境遇の犬猫に出会ったら、夫は飼おうと言うだろう。

「いっそ会社を辞めて、ペット向けの老人ホームでも作ったら?」と言うと「それはいいな。犬猫だけじゃなく、鳥や爬虫類も預かりたい」とのこと。

夫はお金の計算とか全然できないので、本気でやる際は私が経営面をサポートしようと思う。

夫はお金の計算どころか、分数の割り算もできないことに驚いたが、一応会社員をしている。会社のパソコンの画面をコーランにしていたら「テロリスト」とあだ名がついたらしい。

結婚前に「俺は絶対に出世しない」と宣言されて「そうやろな、べつに出世なんかしなくていいよ」と返したが、現在の夫は一応管理職をしている。

彼がマネジメントする部署は「療養所」と呼ばれているそうだ。激務やパワハラが原因で休職した社員たちが「夫の部署に異動したい」と転属してくるからだという。

夫は上司のパワハラから部下を守るため、会社の上層部には嫌われているが、部下からは愛されている。

「鬱で休職してたナントカくんも今は元気そうでよかった。週末、釣りに誘われたから行ってくる」と出かける夫を見ては「ええおっさんやな」と思う。

ちなみに「釣った魚の内臓を抜いてたら、ナントカくんに『怖い』としがみつかれた」と聞いて「おっさんずラブか?」と萌える妻である。

弱い立場の人間や動物に優しい人は、結婚生活でも「病める時ベース」で支えてくれる。

私が子宮全摘手術で入院した時も、夫は毎日病院に来てくれて、私が寂しくないようにと猫の画像を送ってくれた。

また手術前に封筒を渡されて「ラブレター……?」とトゥクンとしたら、妻の手術成功を祈願した般若心経の写経だった。

入院中、若い女医さんに内診されつつ「結婚っていいものですか?」「やっぱ妥協しなきゃダメですかね?」と聞かれて、「誰と結婚するかだよ。結婚は単なる箱で、中身は50年の共同生活だから」「妥協じゃなく、何は譲れて何は譲れないかを明確にすることが大事」と答えた。

膣にカメラを突っ込まれていても、言うことはいつも同じだ。ちなみにこの女医さんは、病室に問診にきた時もサッと近づいて「恋愛相談、いいですか?」と聞いてきた。

どこでも相談されがちな私の前世は、やはり薫尼(くんに)という名の尼だったのかもしれない。

拙僧はいつも申しているが、出会った当時、夫に対して恋愛感情はなかった。「こいつとシックスナインとかできねえな」ぐらいに思っていた。

「男として」ではなく、「人類として」好きだったから、友情結婚のような形で結婚した。予想外の展開だったが、年月を重ねるほどに「好き」が増えているので、私にはそれが合っていたのだろう。

私は昔から「恋愛より友情の方が尊い」と思っていた。恋愛は冷めたり終わったりするし、なにより恋愛とは脳がバカになっている状態である。

私は脳がバカになりやすく、クソみたいな男にバカみたいに惚れては、ゴミみたいな扱いを受けてきた。そんな漆黒の歴史を重ねたからこそ、だめんず沼にハマる女子の気持ちがよーくわかる。

35歳の女友達Eちゃんも元・沼の住人である。彼女はいつもクソ男に尽くしてボロボロになっていたが、1年ほど前に結婚。
先日、ひさびさに会ったら「いやーやっぱ好きな人と結婚してよかったです!」と最高の笑顔だった。

彼女は痩せ形の男性が好みで「デブだけは無理なんです!」と断言していたが、夫氏は大変にデブである。

彼とは婚活アプリで知り合い、遠距離に住んでいたため、リアルで会う前に何度も電話で話したという。
「その時点でめっちゃ話が合って、好きになってたんですよね。リアルで会ったら写真の8倍はデブだったけど、それすらカワイイ! と思えて」

8倍デブでもカワイイと思える、「好き」のパワーは強い。

彼女は「人と住むってストレスあるじゃないですか。でも、好きだから許せるんですよね」と話していたが、まったくその通りである。

私も夫に対して「このクソが」としょっちゅう思う。洗面所はビシャビシャにするし、牛乳をこぼして雑巾じゃなくタオルで拭くし、何度言ってもコンビニでスプーンや割り箸をもらってくるし、「ウスターソース持ってきて」と言うと必ずとんかつソースを持ってくる。

全身毛ダルマだから部屋中に毛がちらばるし、枕はクサくて黄色いし、皿を洗っても汚れが落ちてなくて「そのぶっとい腕は飾りか?」と思うし……と三万個は挙げられるが、好きだから許せる。「カワイイから、まあいっか」と思えるのである。

そしてこれは恋愛的な「好き」じゃなく、人類愛的な「好き」である。

「わかります!」とEちゃんは同意して、こんな新婚エピソードを話してくれた。

E「新婚旅行に行った時、夫が『素敵なホテルだねー!』とはしゃいでベッドに座った瞬間、ウンコを漏らしたんですよ」
アル「マジか、ウレションみたいな感じ?」
E「その時も『カワイイから、まあいっか』と思いました」

好きな相手なら、ウンコを漏らしてもカワイイ……のか??

まあ私も猫だったらそう思う。夫の場合は「チャーミング♡」「おてんばさん♡」とは思わないし、「自分で始末しなさいよ」とは言うけど、べつに許せる。
もしこれが好きじゃない男なら、一筋のウンコも許せないだろう。

Eちゃんは婚活中、「30過ぎて夢を見るな、現実を見ろ」「安定した生活ができれば十分じゃないか」と周りに言われて、悩んでいた。

「好きな人と結婚したいって、夢を見すぎですか?」と聞いてきた彼女に「好きでもない男と50年暮らす方が地獄だよ」「私は毎日夫が家に帰ってくると嬉しい、それが一番幸せだと思う」と返した。

その2年後、だめんず沼を卒業した彼女は「過去の私はセックスを重視してたけど、今は夫とセックスしなくても全然いいんですよ。自分でもびっくりです」と笑っていた。

この幸せそうな笑顔を冥途の土産にしよう、と合掌した私。なんでも冥途の土産にしたがるのもJJあるあるだ。

夫がウンコを漏らしたら? に話が戻るが、そう言えば漏らしている。
私の眼前で漏らしたわけじゃないが、「キミが留守の時に、ゲームしてたらウンコしたくなって『でももう少しでクリアできる……!』と我慢してたら漏れた」と報告された。

その話を女友達にしたら「えっ、うちの6歳の息子でもゲームを中断してトイレに行ってるよ?」と驚かれた。

私も驚いたが、夫が「ちゃんと自分で始末した」と言っていたので「まあいっか」と思った。こう書くと包容力のある優しい妻のようだが、拙僧はそんな人格者ではござらぬ。

本来、私はいろんなことが許せない人間だ。堪忍袋の緒が短くて、些細なことでイライラしてキレる自分が嫌いだった。

毒親育ちでメンが不安定な自分も嫌いだったし、だからこそ、人から否定されると感情が爆発してキレてしまう。それで男に振られることもよくあった。

そんな私が平和な結婚生活を送っているのは、夫が私を否定しないからだ。

過去13年間を振り返っても、夫にダメ出しされたことは一度もないし、家事や生活態度に文句を言われたこともない。しいて言えば「お風呂は毎日入った方がいいよ」ぐらいか。

「妻や女はこうあるべき」と押しつけられたこともないし、行動を束縛されたこともない。彼はドメンヘラだった私に「べつに変わらなくていいんじゃないか」と言ってくれた。

つまり夫のアナルがガバガバだから、ウンコが漏れる。じゃなくて、私も大らかでいられるのだ。

「欠点だらけの人間だけど、まあいっか」と自分を許せるようになると、他人も許せるようになる。
お互い欠点だらけでデコボコだけど、割れ鍋に綴じ蓋でピッタリ合えばオッケーでござる。そう思えるようになった。

私は夫のお陰で変われたが、無論それは夫婦や恋人じゃなくてもいい。自分を受け入れて、肯定してくれる存在がいれば大丈夫なのだ。

ちなみに交際当時、夫に「私のどこを好きになったの?」と質問したら「世間に向かってツバを吐いてるところ」と予想外の答えが返ってきた。

当時の私は男尊女卑やゴミ政治やクソゲー社会に「許せねえ」とキレていた(今も変わらずキレている)。

「ぶっ殺す!」とブッコロ助になる私に「そんなにイライラしないで」「女の子は笑顔が一番」とか言うてくる男が多くて余計キレていたが、夫はそんな私を好きになってくれたという。

まことに人の好みはさまざまである。また当時はバカ恋愛をしすぎて、精神が応仁の乱レベルに荒廃していた。

そのため、男に対して「どうせヤリたいだけだろ」と思っていたが、夫は私を「女」じゃなく「人」として扱ってくれたから、信じることができたのだ。

夫は今でも私を「妻」じゃなく「人」として見てくれて、なんの役割も押しつけてこない。

昔「夫の給料明細を見たことがない」とコラムに書いたら「家計管理は妻の役目ですよ、奥さん失格ですね」とクソリプがついて「うるせえな、てめえの合格なんかいらねえ」と無視した。

こういう奴が結婚式で「お袋・給料袋・堪忍袋」と地獄のスピーチをするのだろう。金玉袋をむしってぶん投げてやりたい。

夫の会社はいまだに給料明細を紙で渡すシステムだが、先日、夫がそれを作業服のポケットに入れたまま洗濯機に投入して、洗濯物が紙屑まみれになった。

「何度言うたらわかるんや、このクソが」とぷりぷりしながら寝室に行くと、猫を抱いて眠る夫が可愛かったので、「まあいっか」と頭を撫でた。

そんな初老の夫婦のノロケでござる、完。

アルテイシア『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』

若さを失うのは確かに寂しい。でも断然生き やすくなるのがJJ(=熟女)というお年 頃! おしゃれ、セックス、趣味、仕事等に まつわるゆるくて愉快なJJライフがぎっし り。一方、女の人生をハードモードにする男 尊女卑や容姿差別を笑いと共にぶった斬る。「年を取るのが楽しみになった」「読むと元気 になれる」爆笑エンパワメントエッセイ集。
・解説 カレー沢薫

 

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アルテイシアの59番目の結婚生活

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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