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僧侶、家出する。

2019.07.20 更新 ツイート

第6回

目前のダンスフロアで踊りまくっちゃえ稲田ズイキ

京都のお寺の副住職で、コラムニスト・編集者としても活躍中の稲田ズイキさん。そんな僧侶が、なんと「家出する」と宣言。この連載は、「僧侶」に虚無を、「寺」に閉塞感をおぼえた27歳の若い僧侶が、お寺を飛び出し、他人の家をわたり歩き、人から助けられる生活の中で、一人の人間として修行していく様子をほぼリアルタイムに記録していくというものです。気になった人はどうか、稲田さんをお家に泊めてあげてください。

*   *   *

 

家出生活、57日目。今は東京の品川区にいます。とある方がDMで「事務所の一室空いてるから好きなだけ泊まっていいよ」と言ってくださり、滞在させてもらって3日目。

ガーリーな仕事をされている方なので、ティッシュケースからトイレまで、すべてピンクのハートで統一されたお部屋。そんな空間に27歳の浮浪僧侶は明らかに浮いていて「あ~、僧侶ももっと可愛くなれればいいのに~」と束の間の乙女心に浸っています。

 

 

さて、家出生活を始めて、そろそろ二ヶ月になるというこのタイミング。

この修行連載を見守ってくれている編集担当のYさん曰く「すごい勢いで思考が変化している」らしいのです。ウンウン、なんとなくそれは自分でもわかります。

 

だって、そりゃほぼ毎日、泊まる先をバイブスに任せる生活を続けていると、ネジの10本や11本は外れますよ~~!

「人生ってかけがえのない一瞬一瞬の連続なんだ」って、そんなJPOPの歌詞みたいなこともシラフで言えちゃうんだって!

 

でも、思い返してみればこの修行は「人の痛み」を知るためのものでした。

世間の苦しみ僧侶知らずな状況に対して、僧侶をフリー素材として解放するとどうなるか? 悩みとか苦しみは僧侶のもとにキュレーションされるんじゃないかって、そんな社会実験でもあったのですが……

 

フタを開けてみれば、コレですよ。

なぜか「博多のブロードウェイ」みたいな舞台に出ていました。急に人生が時空を超えてきて笑います。

 

一体九州で何が起こったのか?

これから歩む仏道に大きな気づきを与えてくれた、スペシャルな夜でした。

 

奥田民生になりたい僧侶、さすらいをする。

拝啓、「奥田民生になりたいボーイ」を地で行っていた17歳の僕へ。

「さすらいもしないで このまま死なねえぞ」の歌詞に、心をヒリつかせていたあなたは、10年後誰もが認める完全な「さすらい」になるでしょう。だから安心して受験勉強に励んでください。

 

7月2日。「九州」とだけ書かれたスケジュールに導かれて、何の計画のないまま、僕は博多に向かっていた。

 

原付でもなくヒッチハイクでもなく新幹線なのがたまに傷だが、天気予報を見る限りちょうど九州地方に大型の梅雨前線が接近することを知り、「家出に嵐はつきものじゃん」と疑いもなくさすらいティーにお熱なのであった。

 

すると、九州に向かうことを報告した自分のツイートにとあるリプライが。

 

「落語茶屋しますけん、よかったらおいでませー」

 

一度も会ったことがないし、DMどころかリプライさえ交わしたことのない方からのお誘いに心惹かれた。野生の博多弁だ。こりゃもう行くしかない。ご縁が呼んでいる。

 

ああん、さすらいのマイヒーロー、民生よ。僕は今さすらっているだろうか。

そしてマイアイドル、ブッダ。僕は今、あなたがやったように遊行できていますでしょうか?

博多に来て痛風亭本物(リアル)さんの落語を拝聴した。どうやらこの頃から時空が歪み始めていた。

 

ラブが肉に変わっていくシステム

落語会にて、誘ってくれたクロキさんとラブポーズ(腹部にも次元の歪みが発生している)

次の日、クロキさんとそのお友達に再び呼び出され、夜の博多の街へ繰り出した。

すると、なんと僕の人生初九州を最高な体験にしようじゃないかと、「しおり」を作っていただいたのである。そこには定番観光から美味いもの、エンタメまで、選りすぐりの福岡情報がたくさん……!

 

なんでこの人達は、家のない見知らぬ僧侶のためにこんなに尽くしてくれるのだろうか?

 

エンドレス疑問だ。もし僕が逆側だったらやるのだろうか。

家を失ってSNSを駆使して家を渡り歩いている僧侶なんて僕以外に見たことなかったので、考えたところで答えは出なさそうだ。

 

あれ、でも、これって僕が誰かに利他をするための修行だったはずなのに、ただただめちゃくちゃもてなされている旅になってない……?

 

気づいてしまった。思えば、出会う先々でもてなされ続け、体重は家出前から5キロも増えていた。みんなの慈悲が僕のお腹の肉として蓄積されていくシステム。僕も肉(ラブ)を配りたい。

 

あんみつ姫に遺伝子レベルで感動~!

しおりの中から僕がチョイスしたのは「あんみつ姫

オゲレツなエンタメが好きな僕にとって、まぁ~~これが最高だったのだ!

見てください。このド派手な衣装、ド派手なステージ!

言うならば、宝塚歌劇と吉本新喜劇をミックスさせたような、悪魔的な(褒めてる)ショーだった。

 

思えば、子供の頃から僕はこういうキラキラした舞台が大好きだった。

宝塚歌劇にハマったときもあるし、本気でモーニング娘。に入りたかった時もある。

ステージの上で描かれるのはもちろん虚構だけど、彼ら彼女らは自分をもっと遠く、物語の向こう側へ連れていってくれた。ひとしきりの感動の後にすっぽり空いてしまった心の穴が、誰かを愛することの素晴らしさを教えてくれたんじゃないかとさえ思う。

そんな偶然出会った大好物「あんみつ姫」のショーに遺伝子レベルの感動を覚えていた矢先、事件は起きた。

急にステージに連行されたのだ。

 

 

ご覧ください。これが家出した僧侶の姿です。

 

どうやら毎回ステージに一人お客さんを連れていくシステムだったところ、見事僕が選ばれたよう。

マイクを渡されて「家出している僧侶だ」と素性を話すと「寺を家出したのに、こんな場所に居ていいの~~?」と心配された。たしかにそうだけど。

 

え~。父さん、母さん。僕は元気に修行しています。だから、心配しないでください。あと、あんみつ姫の公式サイトに僕の写真が近いうちに掲載されるみたいなので絶対に見ないでくれよな~~

 

はてさて、ステージから客席に戻り、エンディングへ。

MCの方の言葉が、歪みそうだった時空を一気に紡ぎ直してくれた。

 

「あんみつ姫は結婚式でも営業をやっているのですが、まだお葬式はやったことはありません~~~もうイマドキ死ぬ時もハッピーに逝きたくない? ぜひあんみつ姫をお葬式に呼んでください~~~」

 

驚いたのは、ちょうどショーが始まる直前に、一緒にこの博多ツアーを同行しているクロキさんのお友達と「このご時世、もっと楽しげな葬式もあったらいいのにね~」という話をしていたからだ。

 

この修行中の出来事は、点と点が線になる体験ばかりだ。

 

自分は出会うべくして誰かに出会い、自分ではない何かに導かれるままに生きている

 

ふだん一般的な僧侶が言ってそうな言葉。

「意味不明~~」と言い捨てて引き出しにしまっていたこの言葉が、ゆっくりと今自分の身体に降りてきた感覚がした。

 

僕らは、バイブスという名の見えないパワーに動かされて生きている。

だとしたら、目の前のダンスフロアで踊っちゃうのが、一番イケなんじゃない??

 

「みずき」と「ずいき」2つの名前とともに生きる

話は少し回想に入るけど、僕には2つの名前がある。

俗名「みずき」と、僧名「ずいき」だ。

 

同じ「瑞規」という漢字を書くが、戸籍上登録されているのが「みずき」で、得度(僧侶となることを決意する儀式)を受けてから「ずいき」という名前を持つようになった。

また、フリーランスで仕事をするようになってから僧名「ズイキ」をペンネームとして使っている。

 

もちろん、僕はずっと「みずき」として生きてきた。

ただ家が寺だというだけで、一休さんのように聡明なわけでもなく、特別壮絶な経験をしたわけでもない。それこそ、モーニング娘。と宝塚歌劇と奥田民生が好きな、ごく普通の人間だったのだ

 

そんな「みずき」が4年前、修行期間を経て僧侶となり、突然「ずいき」として社会に存在し始めた。

それ以来、「フリースタイルな僧侶たち」というフリーマガジンで紹介される先輩僧侶に刺激を受け、若い世代の一人として仏教と距離が離れていく空気を吸いながら、ずっと「自分は僧侶として何ができるのか」ということばかりを考えてきた。

 

この家出だって、そんな問いから生まれたものだ。

でも、この家出の旅の中で出会うべくして出会っている人たちは、別に「僧侶」を求めてなんかいない。一人の「人間」としての僕と対話しているのである。

だから、思い描いていた僧侶のイメージのように、悩み相談するみたいな展開にもならなければ、悲しみにくれる人が目の前に現れるわけでもない。

現実はこれだ。「オイサー! オイサー!」である。

 

一体いつからだろう。

「みずき」という名前をずいぶん前に道に落としてきた気がする。千と千尋の神隠しのように、人はいつしか自分の名前を忘れてしまうのかも。

 

最近の僕はちょっぴり頭でっかちだった。特に家出を始めた最初の頃。

「僧侶として~」とか「仏教がこの世に~」とか、難しいことばかり考えてしまって、自分自身を見つめる心を忘れてしまっていたのかもしれない。

 

僕は「ずいき」であると同時に「みずき」だ。

過去があるからこそ、今があるのであれば「ずいき」が歩む仏道の始まりには必ず「みずき」が存在するはずなのだ。

 

まずは疲弊した「みずき」の心に水をあげること。

「ずいき」の仏道はそこから始まる。今は精一杯「オイサー! オイサー!」と叫んでおこう。

 

僕にできることには限りがある。僕が出会える人には限りがある。

「みずき」を忘れなければ、心のバイブレーションが必ずご縁を導いてくれるはずだ。

福岡で遊んでいただいたみなさんと。とっても大事なことに気付かされた夜になりました。

*   *   *

 

とうとうあんみつ姫デビューまでキメてしまった稲田さん。修行はこれからどのような道をたどるのでしょうか。もし稲田さんを泊めてあげてもいいと思った方は、稲田さんのTwitterにDMを送信してみてくださいね。お布施もなにとぞ、よろしくお願いいたします。

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僧侶、家出する。

若手僧侶がお寺や僧侶のあり方に疑問を持ち、「家出」した!

さまざまな人に出会うこと、それ自体が修行となると信じ、今日も彼は街をさまよう。

(アイコン写真撮影:オガワリナ)

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稲田ズイキ 僧侶

僧侶。1992年京都のお寺生まれで現・副住職(※家出中)。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、仏教を楽しむコラム連載など文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。

Twitter:@andymizuki

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