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僧侶、家出する。

2019.08.24 更新 ツイート

第8回

匂いで僕らはつながっている稲田ズイキ

京都のお寺の副住職で、コラムニスト・編集者としても活躍中の稲田ズイキさん。そんな僧侶が、なんと「家出する」と宣言。この連載は、「僧侶」に虚無を、「寺」に閉塞感をおぼえた27歳の若い僧侶が、お寺を飛び出し、他人の家をわたり歩き、人から助けられる生活の中で、一人の人間として修行していく様子をほぼリアルタイムに記録していくというものです。気になった人はどうか、稲田さんをお家に泊めてあげてください。

*   *   *

匂いが好き。

 

と、僕なんかが言ったら変態のかほりが漂ってくるかもしれないけど、決してそういう話をしたいわけじゃない、

視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚と、人間には情報を感じる仕組みはたくさんあるが、マイ推し五感は嗅覚。そういう話だ。

 

例えば、金木犀の香りを嗅ぐと、誰もがあの秋の日を思い出すのではないだろうか。クラスのファッション番長が半袖から長袖に衣替えし始めたあの二学期の登校時間。田んぼの周りをゼェゼェ言いながら走らされてた卓球部の無駄な体力強化。

 

この世で最もエモい野草として知られている金木犀にしては、しょうもない記憶しか思い出せなかったのは悔しいが、このように匂いは記憶と強い結びつきを持ったりもする。推しの五感だ。

 

他人ん家で洗濯してもらった服が好き

お盆で繁忙期の実家のお寺を手伝うため、ここ2週間は一時的に家出生活を中断している。

家出生活をしていると、滞在中に家主に洗濯してもらう機会が多々ある。

コインランドリーを使うから大丈夫ですよと言うと、「いやいや、どうせ回すだけなんだし」と言っていただき、お言葉に甘えさせてもらっている。もう、強い感謝の気持ち。

 

この生活では、TwitterのDMを通じて知り合い、夕方ごろ自宅でお会いし、夜中に洗濯してもらい、次の日の朝に家を出るなんてこともよくある。普通の感覚からしたらなかなかにクレイジーなライフスタイルだろう。また、それは僕の衣服からしても、相当刺激的な毎日を過ごしているに違いない。

だって、毎日違う洗濯機に抱かれ続けているのだ。ワンナイトラブならぬ、ワンナイトウォッシュの日々。知らない洗濯機、知らない匂いの柔軟剤。えっ、やだドラム式?! おしゃれ着洗い?! 私まだユニクロ出身のしょうもない衣類なのに……。

こうしてこの幼気な繊維には数10もの「回しあった夜」が刻まれていったのだ。けしからん、けしからんぞ。

 

そんな他人の家で洗ってもらった衣服を身につけて、この修行の旅路はまた次の家へと続いていく。時には「ああもう正直、定住したい」と挫けそうな時もある。そんな瞬間、ふと衣服に付着したフローラルが舞うのだ。

今まで嗅いだことのない柔軟剤の香り。シトラスの香りだろうか、ジャスミンの香りだろうか。そんな匂いが引き金になって、昨日出会った人、一昨日出会った人の顔が浮かんでくる。24時間テレビのマラソンランナーを応援するワイプのように。

僕は他人ん家で洗濯してもらった服が好きだ。ピンチの時に香るひょんなフローラルに背中を押してもらって、僕はこの生活を続けている。そこには、決して目には見えない、他者とのつながりがある。

 

頭皮から崖の上の龍の匂いがする

不思議なもので、自分の匂いというのはわからない。

間違いなく匂っているはずなのだけど、その匂いが当たり前になっていると、もはや匂いを認識できなくなってくる。

 

中学生の頃、自分の匂いが気になった。

 

「自分は汗臭くないだろうか」

「もしくは、線香臭くないだろうか」

 

実家が線香臭いのはお寺の息子あるあるではあるが、「田舎のおばあちゃんの家の匂いがする」と言われ、一時期気にしていた。

中学生は思春期で、最も自意識が肥大化するセンシティブな年頃だ。自分が他人にどのように思われているか、気になって気になってしょうがない。個のむき出し期である。

 

もう最近では「ごめん。今、屁と間違えてうんこ漏らした」と言えるくらいには、見栄もなければ、プライドもなくなったはずだ。恥も楽しめるようになったし、27歳というのはもうおっさんなんだなとつくづく思っていた。

 

ただ、家出をする3ヶ月前くらい前のある日のこと。友達から「頭の匂いを嗅がせて」と妙なお願いをされた。

曰く、彼は、人の頭の匂いを嗅ぐことで、占いができるらしい。頭の匂いには、人間の情報が一番詰まっているのだと。

 

そんなわけないだろうと思って、指定されたシャンプーハットをかぶり、頭を彼に嗅がせると、彼は「崖の上の龍」と言った。

 

ハァ? ポニョのメガ進化か?」と思ったのも束の間、彼は「自分が希少種だと思い込み、人間に天罰を下し続けるドラゴンの匂いがした」と説明を足した。

 

「どんな匂いやねん」と突っ込みながらも、拭いきっていたと思っていた自意識の強さを言い当てられたような気がして、少し心がざわついた。

ちょうど家出前、「僧侶として自分は何ができるのか」と思い悩んでいた頃の出来事だ。

 

世の中には苦しんでいる人がたくさんいて、自分は僧侶として手を差し伸べなければいけない。苦しみを救い取らないといけない。

「なぜ家出を始めるのか」を記したこの連載の第1回にも「誰かのための何者かになりたい」と綴っている。

 

今思えば、たしかにこの頃の自分は「龍」だったのかもしれない。『山月記』でいう自意識をこじらせた虎と同じ。何よりも自分自分自分。

「こうあらねばならない」という自我に身を委ねてしまって、独りよがりになっていた。そして、そんな自分の「龍の匂い」を自分では認識できていなかったのだ。

 

家出生活をしていると、自分が救うなんてもってのほか、自分がいかに他人に支えられて生きているのかを実感する。

宿を提供してもらったり、ご飯をご馳走になったり、そんな直接的なことだけじゃない。誰かが押したたった一つのRTがきっかけで、数時間後に「なんか面白そうな人見つけたから」とDMを介してリアルで出会ったりしている。

 

それを何よりも教えてくれるのが、他人ん家で洗濯してもらった服から香るひょんなフローラルだ。

 

たとえ自分が一人でいたとしても、どれだけ距離が離れていたとしても、ひょんなフローラルが「自分は誰かに支えてもらって生きている」ことを伝えてくれるのだ。

ひとりぼっちだと思っていた「自分」の中に、漠然とした「他者」を感じられる。他人ん家の柔軟剤の匂いが、凝り固まっていた個を解体していく。

 

自分は独立して存在しているたった一人の生き物ではなく、他者とのつながりの中で生かされている大きな流れの一部であるということ。

仏教ではそれを「縁起」と言うが、昔は頭ばっかで理解していた概念が徐々に身体に落ちて背骨になってきているのを感じ始めている。言葉にすると難しいけど。

 

最近はSNSが怒りに満ち溢れていて、ちょっとしんどい。

賛成と反対、右と左、伝統と革新、もちろんそれぞれが願う未来のために主張されていることだ。

でも、時には自分の匂いに気がつかず、時には自分を守るための主張に代わって、結局倒錯の道を辿ることも多い。

 

どうやって生きてもいい。そんな多様性の時代では、自分で選び取ることが大前提になっているが、まずは自分の匂いを理解することが大切なんじゃないだろうか。

 

自意識に飲まれそうになった時、いつも僕はひょんなフローラルに、他者とともに生きていることを教えてもらっている。目には見えないつながりだけど、自分の今は見えない他者によって支えられているのだ。

してもらってばかりではなく、たまに代わりに家主の洗濯をしたりもする。
​​​​

*   *   *

稲田さんの衣服から香るフローラルが、ひとりじゃないと思わせてくれるのですね。これも、家出しないとわからなかったことのひとつ。修行はこれからどのような道をたどるのでしょうか。もし稲田さんを泊めてあげてもいいと思った方は、稲田さんのTwitterにDMを送信してみてくださいね。お布施もなにとぞ、よろしくお願いいたします。

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僧侶、家出する。

若手僧侶がお寺や僧侶のあり方に疑問を持ち、「家出」した!

さまざまな人に出会うこと、それ自体が修行となると信じ、今日も彼は街をさまよう。

(アイコン写真撮影:オガワリナ)

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稲田ズイキ 僧侶

僧侶。1992年京都のお寺生まれで現・副住職(※家出中)。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、仏教を楽しむコラム連載など文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。

Twitter:@andymizuki

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