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僧侶、家出する。

2019.09.12 更新 ツイート

第9回

輪郭に余白を稲田ズイキ

京都のお寺の副住職で、コラムニスト・編集者としても活躍中の稲田ズイキさん。そんな僧侶が、なんと「家出する」と宣言。この連載は、「僧侶」に虚無を、「寺」に閉塞感をおぼえた27歳の若い僧侶が、お寺を飛び出し、他人の家をわたり歩き、人から助けられる生活の中で、一人の人間として修行していく様子をほぼリアルタイムに記録していくというものです。気になった人はどうか、稲田さんをお家に泊めてあげてください。

 

*   *   *

 

お盆という名の繁忙期を終えて、僕は今、東京にいる。

東京で何をしているかというと、地獄かってくらい仕事をしているのだ。

 

お盆というのは僧侶にとって、一年で最も精神と肉体を費やす期間。供養されるのは、先祖か、それとも自分かってくらい、死の淵をさまよう「デスゲーム(二重の意味)」なんだけども。ようやく繁忙期を抜けたと思うと、それまでに溜まりに溜まった仕事が待ち受けているのだ。繁忙2コンボだドン!

 

追い込まれた僕が今、逃げ込んでいる先が、かつての居候先である。

僕は2018年の4月から2019年の5月まで約1年間、友人の家に居候させてもらっていた。1日200円。しかもワンルームである。

 

今こうして、他人の家に宿泊させてもらう家出生活をしているのは、間違いなく彼との1年間の生活があったからだ。

あっ、人って結構、家に泊めさせてくれるんだ」という見通しの甘い実感が、今の僕の家出生活を支えていると言っても過言ではない。相変わらず人生ガバガバ。

 

今回はそんな友人、カワニシとの日々を綴る。

 

 

「ち○げ割り」という新しい部屋割引サービス

「頼む、しばらくの間、お前ん家に居候させてくれへんか?」

 

2018年4月。会社を辞め、フリーランスになりたてだった僕は、死に物狂いでカワニシに頼み込んでいた。当時、決まっていた仕事は月1本単価2万円のライター仕事のみ。東京で家賃なんて払えるわけなんかなく、まず最初に東京の家を捨てたのだ。

 

「はあ~? まじで言ってんの?」

 

カワニシは渋っていた。カワニシは売れてない芸人でもなければ、駆け出しのアーティストでもない。普通の会社員である。ワンルームに男二人なんていう、アナーキーな生活を送る必然性なんて何一つない。

 

「大学2年からの仲やん~ 東京に来てからもずっと一緒に遊んどったやん~」

 

カワニシとは大学からの親友である。初めて彼と交わした会話は「好きなモビルアーマーって何?」だった。それから、一緒に「ロボットアニメ研究会」というサークルを立ち上げ、大学の会議室を借りて24時間ぶっ続けで映画を見たり、お互いに相手の食べるものにこっそり黒いミンティアを仕込んで眠気をじわじわと蝕んでいく遊びなどをして、ゲラゲラ笑っていた仲である。

 

「まぁせやけど、でもな~」

 

「何を渋る理由があるん?」

 

僕は食い気味に出た。渋る理由はそりゃあるだろう。ワンルームに男二人が住むなんて、不可能だ。それに、この男は家賃を払わない「居候のスタイル」を決め込もうとしている。そりゃ断って当然。だけど、それでも……! 一縷の望みにかけ、まっすぐにカワニシの瞳を見つめた。すると、カワニシの口から出たのは。

 

「お前さ、めっちゃち○げ落ちるじゃん? それが嫌なんだよね」

 

妙な角度からの不満に、光明が差した。

 

「んじゃ! 剃る! 毎日パ○パンにする! だから……!」

 

という経緯で、ち○げを剃る代わりに1日200円という最低限の条件をつけて、居候生活が始まったのだ。

 

人間の輪郭が溶け合うワンルーム

ワンルームに男二人。片方はツルツル。お互いの部屋なんてもちろんなく、就寝時はカワニシはベッドで、僕はその横に布団を敷いて寝る。プライベートという概念はなく、同じ飯を食って、同じテレビ番組を見て、同じ音楽を聴く生活。

 

初めて会社から帰ってきたカワニシを「おかえり~」と迎えたとき、「あっ結婚生活ってこんな感じなんだな」と理解した。カワニシはちょっと恥ずかしそうに「ただいま~」とはにかんでいたのを覚えている。

 

カワニシの彼女が家に泊まりに来る日は、ネカフェか別の友達の家に泊まり、彼女が出ると「ええぞ。」と連絡が来るので、それを合図に家に戻るというルーティンだった。

 

1日200円の支払いは、玄関先に小銭入れがあるので、そこに入金していくルールだ。その仕組みは完全に善意で成り立っていて、僕が入金したかどうかはカワニシは全く確認しない。それどころか、小銭入れから僕が金を取ることだって可能なくらい、お金は野晒しにされている。僕がサイコパスだったら、この経済圏はとっくに破滅しているだろう。

 

プライベートも経済もガバガバ。人間が生活を行う上での最低限の輪郭線が、このワンルームの中では、溶け合っていた。冷静に考えると、カワニシは割りを食っていたはずだった。正直なところ、僕はいつカワニシが目覚めないか、ずっと心の隅に不安を隠していた。

1週間に1度のペースで通っていた近所の銭湯。湯船でゲリラ的に漫才を始める「湯沸かし漫才ユニット しゃぶ湯」を結成した。3ヶ月後、自然解散。

 

不意打ちの慈悲

というわけで、今週はカワニシの家に1週間ほど滞在し、以前のような生活を過ごしている。ある時、仕事に終われて疲弊した僕が「もう東京に定住しようかな~」なんて軽はずみなセリフを言うと、彼は、

 

「定住するなら、しばらくはうちに泊まってもええぞ!」

 

と言った。ちょっと何。不意打ちの慈悲に胸が熱くなってしまった。

 

なんでなんだろう。なんでカワニシは僕を泊めてくれるんだろう。ち○げ割りだってそうだ。普通のリアクションは「ち○げ嫌なんだよね~」ではない。ち○げ以前の問題。人を家に泊め続けるデメリットはもっとたくさんあるはずなのに。

 

思い切って、訊いてみることにした。

 

「あのさ、ち○げ割りの時からさ、なんで俺を泊めてくれんの?」

 

「そりゃ、お前が困ってたからなぁ。でも、最初はそう思って泊めとったけど、最近はもうよう分からんわ」

 

「嫌だと思ったことないの?」

 

「嫌なときめっちゃあったよ」

 

「なんで追い出さなかったの?」

 

「さぁ~」

 

どうやら、もうメリットとかデメリットとか分からなくなっているらしい。熟年の夫婦みたいだ。一緒にいるのが当たり前みたいな境地なんだろうか。

ぶっちゃけ、こんなに一緒に過ごしていても、カワニシは何を考えているのか分からない時がある。

 

自分の輪郭に余白を

僕とカワニシの間にはもう一つのルーティンがある。お互いの別れをちゃんと惜しむことだ。

 

僕がワンルーム居候中、京都の実家に1ヶ月ほど戻らないといけなくなってしまい、彼に「じゃあ明日京都に帰るから。1ヶ月は戻らないし」と別れを告げたとき、カワニシは、

「あっそ」と言った。いやいや、お前そこはもっと寂しがれよ! と僕が怒ったことで、そのルーティンは生まれた。

 

僕は明日からまた家出の旅に出る。DMをくれた東京の友達の家を回り、その後愛知県の方へ向かって、そのまま関西へ移動するつもりだ。

 

「じゃあ、明日からまた家出するしな……」

 

僕は神妙な面持ちで切り出した。すると、カワニシは、

 

「そうか……寂しくなるな……」

 

と間を十分にとって、ポケットに手を突っ込み、夜空を眺める。そうだ、その求めていたのはそのロンリネス! それでいいのだ!

 

とゲラゲラ笑っていたものの、肝心のカワニシの本音みたいなものは一向に見えないままだった。

 

「本当に寂しがっているのかもしれない」と僕は思った。だって「定住するならうちにずっと泊まってもいいぞ!」と言ってくれたくらいで。解像度が低いカワニシの心をもう少し深掘りしてみようかと一瞬迷った。だけど、僕は踏み込むのをやめた。

 

思えば、僕らの関係性はずっと曖昧だったのだ。

あの部屋がそうだったように、境界線はゆるゆるな波形を描いている。人が人と一緒にいるのに、言葉も属性もイデオロギーも必要ない。ただなんとなく一緒にいて、ただなんとなく人は生きているくらいが心地いいのである。

 

メリット・デメリット。生産的・非生産的。

つい僕らは自分の輪郭をバチっと決めてしまいがち。自分がいる理由、相手がいる理由を定義づければ、そりゃなんか安心するけど、決めすぎてもしんどくなる。

 

少なくとも、そんな誰かがこれまで概念化してきた理由で、僕とカワニシの関係が定義づけられるのは癪だ。おそらく僕らって、なんかもっと尊い関係のような気がするのだ。まぁ、27歳のいい歳したおっさん二人なんだけど。

 

自分の輪郭の余白を大切にしたい。僕とカワニシのバイブスが合うのはきっとそういうところなんだろう。

カメラを向けるとピースしかしない男。

*   *   *

まさかのち〇げ割には虚を突かれました! こんな関係を築くことができるのは、稲田さんだからかもしれません。修行はこれからどのような道をたどるのでしょうか。もし稲田さんを泊めてあげてもいいと思った方は、稲田さんのTwitterにDMを送信してみてくださいね。お布施もなにとぞ、よろしくお願いいたします。

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僧侶、家出する。

若手僧侶がお寺や僧侶のあり方に疑問を持ち、「家出」した!

さまざまな人に出会うこと、それ自体が修行となると信じ、今日も彼は街をさまよう。

(アイコン写真撮影:オガワリナ)

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稲田ズイキ 僧侶

僧侶。1992年京都のお寺生まれで現・副住職(※家出中)。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、仏教を楽しむコラム連載など文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。

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