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アルテイシアの59番目の結婚生活

2019.04.18 更新

わが家に借金取りがやってきた!アルテイシア

「アルテイシアの熟女入門」も大人気のアルテイシアさん新連載がスタートです!人生の荒波に揉まれまくってきた堂々たるJJ(熟女)アルテイシアさんによる結婚と人生にまつわる大爆笑エッセイ。お楽しみください。

*   *   *

昨年、父が飛び降り自殺した。

その一連の話を「毒親の送り方シリーズ」としてコラムに書いたところ「不謹慎だけど爆笑しました!」といった感想を多くいただいた。
それで気持ちがスッキリして、「お父さんの自殺の記事がバズりましたよ」と遺骨に線香をあげる日々を送っていた。

要するに、私の中ではもう終わった話だったのだ。

そこへ「まだ終わらんよ!」と突然カットインしてきたのが、借金取りさんだったのである。

 

家にやってきてほしくないランキングでいうと、借金取りとゾンビは同率首位だろう。だがゾンビは丸太で頭をカチ割っても許されるが、借金取りさんの頭をカチ割ると逮捕される。

なので丸太以外の方法で対処したのだが、今回もいろいろと学ぶことがあった。私の体験が少しでも誰かの役に立てば幸いだ。

また、当コラムの内容は「※あくまで個人の感想です」であり、私は借金や法律について素人のボンクラである。なので、専門的なことはプロに相談してほしい。

それはとても寒い日のことじゃった。

とても寒い日なのに給湯器がぶっ壊れて、風呂に入れない事案が発生していた。そこで新しい給湯器の見積もりをとったら「25万円」と提示されて、目玉がビョーンと飛び出した。
「生きるってお金がかかるのね…」と落ちた目玉を拾っていた、ある日の午後。

 

突然、インターフォンが鳴った。モニターを見ると、マンションのエントランスに立つ男性の姿が映っていて「××××の者ですが、○○○○さんの娘さんでいらっしゃいますか?」

××××はとある金融機関の名前で、○○○○は父の名前である。借金取りさんは何の前ぶれもなく、いきなり奇襲をかけてきたのだ。43歳のJJ(熟女)なのに、心筋梗塞を起こしたらどうしてくれる。

説明しよう。

20年前、私は父に脅されて、とある書類に署名捺印をさせられた。具体的な金額などは記載されていなかったが、「なんかヤベーやつだな、たぶん借金の保証人とかだな」と私は思った。

思ったけれど「判子を押さないと俺は死ぬ」と脅迫されて、従ってしまった。

今の私なら「たわごとは地獄の鬼にでも言え!」とケンシロウのようにかっこよく拒否しただろう。でも、当時の私はまだ23歳の娘さんだったのだ。
だから父の脅しに逆らえらなかったし、「おまえには絶対迷惑かけない」という父の言葉を信じたかった。

今の私なら「おまえが一度でも人との約束を守ったことがあるのか?」とケンシロウ(略) でも当時の私は、父に多少は愛されていると信じたかった。

その後も何度か金を脅し取られ、ようやく「父にとって自分は、利用して搾取する対象だ」と認めることができた。それで完全に連絡を絶ち、去年、死体とご対面となったのである。

「毒親の送り方シリーズ」に書いたが、父の死後3ヶ月以内に、私は相続放棄の手続きを行った。だが、相続放棄をしても「保証人」の義務は放棄できない。

ゆえに20年前の書類のことはずっと心の片隅にあって、時限爆弾を抱えている気分だった。いつか厄介なことが起こるんじゃないか…その不安がまさに今、的中したのである。

場面は戻って、私は「どうぞお入りください」と解錠ボタンを押した。ここで居留守を使っても、問題を先送りにするだけと思って。
そして「一世一代の大勝負や…女優になるのよ、マヤ!!」と拳を握りしめた。

「父に脅された不幸な娘」かつ「生活に余裕のない中年女性」の役を演じて、情に訴える作戦に出ようと決めたのだ。

「借金取りと勝負する日のファッション」の正解がわからないが、フリーランスの制服であるヨレヨレのパジャマを着ているので、金持ちには見えないだろう。VERY妻みたいな恰好をしてなくてよかった。

しかし私は体が丈夫なデブなので、やつれ感はない。かつ、わが家はそこそこオシャレである。
中古マンションをリフォームしたのだが、輸入壁紙やインテリアに凝っているため「生活に余裕がない」という設定に説得力がない。

「そこは演技力でカバーするのよ、マヤ!! 」と白目になりつつ、玄関のドアを開いた。

借金取りさんは地味なスーツ姿のおじいさんだった。定年退職後に再雇用された職員かもしれない。そんな年まで働くおじいさんも大変だが、今は私の方が大変な状況である。

その後、おじいさんから名刺をもらって、リビングのテーブルで向かい合った。

爺「突然すみません。去年、お父様が亡くなられましたよね」
アル「はい……父とは絶縁していて……ずっと会ってなかったんですが……」

三点リーダー多めで、中森明菜のモノマネをする友近のモノマネ(小声&伏し目がち)で話す。

アル「それが去年……父が自殺したと連絡が入って……」

そう言いながら、一気に涙があふれた。「私、こんなに嘘泣きができるんだ」という新鮮な気づきである。
「死んでくれてホッとしました!」と本音を言うと心証が悪いので、さめざめと泣きながら事情を話した。

両親は私が十代の時に離婚したが、その後も父には苦しめられてきたこと。何度も脅されて金を巻き上げられたので、引っ越しして携帯も変えて、連絡先も教えていなかったこと。

「そうですか、お父さんは自殺されたんですね。娘さんも大変でしたね……」
オーディエンスはまんまと同情している様子だった。「恐ろしい子!」と自分を褒めたいが、私はマヤより月影先生に近い年齢である。40歳を過ぎたJJはみんな女優になるのかもしれない。

アル「父の遺書に『相続放棄してくれ』と書いていたので、相続放棄の手続きは済ませました。父はいろいろと借金を重ねてたんだと思います。それで生活苦の末に死を選んだのかと……」

涙ながらに話す私に、おじいさんは本題の借金について説明を始めた。詳細は覚えてないが、ざっくりこんな内容だったと思う。

爺「アル子さんはお父さんの会社の債務の連帯保証人になってますよね?」
アル「私は何も知らないんです。20年ほど前、父に脅されて無理やり書類に署名捺印させられた記憶があるだけで」
爺「そうですか。アル子さんは保証人になっていて、保証人の義務は相続放棄できないんですよ」
アル「そうなんですか……ただ、私自身も生活に余裕がなくて……」

ここでカッと吐血しようかと思ったが、体が丈夫なデブなので出なかった。おじいさんはカバンから書類を取り出して、こう続けた。

「こちらが債務の内容です。元本が2000万、利息を含めて5000万になります

パリーン!! ! ! ! ! (目玉が吹っ飛んで窓ガラスを割る音)

5000万…5000万っててめえ…ふざけんなコノヤロー!! ! ! ! ! 

紅天女からアウトレイジになってジジイの頭をかち割ろうかと思ったが、悪いのは目の前のジジイではなく父である。そして私は父に脅されて保証人にさせられた被害者である。

だがそれを証明するのは難しい、ということも知っていた。いったん保証人になってしまうと、それを無効にするのはきわめて困難であると。

おじいさんは「うちとしては利息は全額減免してもいい、元本さえ回収できればいい」という趣旨の話をしていたが、元本つっても2000万じゃねえかコノヤロー! しかも私が借りた金じゃねえぞバカヤロー! とグレッチでぶん殴りたい気分だった。

しかしわが家にグレッチはないし、遺骨の前にはフィギュアがある。まずい。
父の遺骨の前にスタープラチナとザ・ワールドのフィギュアを飾って遊び心を演出していたのだが、そんな演出するんじゃなかった。ふざけた人間なのがバレるじゃないか。

私は再びマヤになって「私の収入は微々たるものですし、義理の母を養ってもいるので、生活に余裕がないんです……」と貧乏アピールをした。

先方もまさか2千万を回収できるとは思ってないだろう。毎月少額ずつ返済を続けるという話をすれば、おそらく手打ちになるだろう。
とにかく私はもうこの問題に悩まされたくない。この場で決着をつけて終わりにしたい。

そんな思いから「なんとかお金を捻出して、毎月、少しずつでも返していきたいと思ってます」と打診して「死ぬまで毎月、1万円ずつ振り込む」という話で決着をつけた。

先方はあっさり納得して「もし1万円が厳しい時は、5千円とかでもいいから、とにかく継続して払ってもらうことが大事です」的なことを言っていた。
意外とゆるい印象である。私が借りた金じゃないし、境遇に同情されたのかもしれないが、話し合いは30分程度で終わった。

こうして借金取りさんは「実は私も三部推しなんですよデュフ」とか言わず、普通に帰っていった。私も「拙者は四部推しでござる、仗助と露伴のカップリングがデュフ」とか言わず、玄関のドアを締めた。

それから廊下に座りこみ、深いため息をついて呟いた。「1万円じゃなく5千円って言えばよかった……」

私があと40年生きるとしたら、計480万支払うことになる。480万あったら何が買える? とりあえず給湯器はいっぱい買える。

あの悪魔の毒々モンスターペアレントのために、自分が必死で稼いだ金をまた使うのだ。死ぬまで一生搾取され続けるのだ。マジでブッコロ助になりたいが、相手はもう死んでいる。

「現実なんだから、乗り越えるしかない」。いつものように自分に言い聞かせて、よっこいしょういちと立ち上がった。

「Aちゃんに電話するナリ」(コロ助のモノマネで)

Aちゃんとは東京に住む友人で、心根の優しいおっとり敏腕弁護士である。父の自殺コラムを読んで「何かあったらいつでも相談してね」と言ってくれていたので、お言葉に甘えることにした。

Aちゃんに電話すると「大変だったねえ」と労わってくれて、親身に話を聞いてくれた。それだけでめちゃめちゃ心が救われた。友情パワーは尊いナリよ。

A「親に脅されて判子を押した、内容を知らずにサインしたとか主張しても、裁判所で認められるのは難しいんだよね。実印を盗まれてサインも偽造されたとか、立証できれば別だけど」

アル「昭和の演歌歌手とか借金の保証人になってエラい目に遭ってるもんね。それはコラムでシェアするわ」

A「うん、署名押印の効果がものすごく重いことは、もっと知られてほしい。こういうことって学校でも教わらないから」

皆さんも借金の保証人にならないように注意しよう。実印は厳重に膣の中とかにしまっておこう。

その他、Aちゃんから大切な話をいっぱい聞いたので、また次回書きたいと思う。
たとえば、親きょうだいが死んでから3ヶ月以上たって、借金が出てくるケースなど。うちには借金が得意なアホアホ丸という弟がいるので、そっちもヤバい。

人の死には金がからむのでややこしい。親族で殺し合いが起こるのもよくわかる。
Aちゃんも「汚いものを見すぎて、すっかり性悪説になっちゃった」と話していた。そんな彼女は父の借金についても、他にどんな選択肢があるかを教えてくれた。

「人に相談するのは大事ナリ」とブッコロ助は声を大にして言いたい。

20年前、23歳の私は毒親のことを誰にも話せなかった。
自分の家庭環境がみじめで恥ずかしかったし、「私には頼れる家族がいないんだから、全部ひとりで背負わなきゃ」と思い込んでいた。
なにより「父親が困ってるのに、助けないなんてひどい」と洗脳されていたのだ。

もしあの時、身近に頼れる人がいて、相談できていたら。「ひどいのは父親だ、あなたが罪悪感をもつ必要はない」「彼らは人の良心につけこみ、利用して搾取する。そんなモンスターからは逃げるしかない」と教えてくれる人がいたら。
私は「実印を膣にしまって逃げる」という道を選べたと思う。

だから、絶対にひとりで抱え込まないでほしい。身近に話せる人がいなければ、弁護士の無料相談や行政の相談窓口などを頼ってほしい。

私は人に頼れるようになって、格段に生きやすくなった。さらに今回の奇襲騒動の後、ますます生きるのが楽になった。その予想外の心の変化についても書きたいと思う。

そんなわけで次回「借金取りが再びやってきた、もうええわ!」お楽しみに☆

アルテイシア『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』

若さを失うのは確かに寂しい。でも断然生き やすくなるのがJJ(=熟女)というお年 頃! おしゃれ、セックス、趣味、仕事等に まつわるゆるくて愉快なJJライフがぎっし り。一方、女の人生をハードモードにする男 尊女卑や容姿差別を笑いと共にぶった斬る。「年を取るのが楽しみになった」「読むと元気 になれる」爆笑エンパワメントエッセイ集。
・解説 カレー沢薫

 

関連書籍

アルテイシア『アルテイシアの夜の女子会』

「愛液が出なければローションを使えばいいのに」「朝からフェラしてランチで口から陰毛が現れた!」とヤリたい放題だった20代。「男なら黙ってトイレットペーパーを食え!」「ヤリチンほどセックス下手」と男に活を入れていた30代。子宮全摘をしてセックスがどう変わるのか克明にレポートした40代。10年に及ぶエロ遍歴を綴った爆笑コラム集。

アルテイシア『オクテ女子のための恋愛基礎講座』

小悪魔テクは不要! 「モテないと言わない」「エロい妄想をする」など、「挙動不審なブス」だった著者も結婚できた恋愛指南本。

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コメント

ちっちょ@筆毛ほぐし職人  わが家に借金取りがやってきた!|アルテイシアの59番目の結婚生活|アルテイシア - 幻冬舎plus https://t.co/z7cor9NrSV 1日前 replyretweetfavorite

もみじα  相続放棄しても、保証人の責任は免れないという罠。 わが家に借金取りがやってきた!|アルテイシアの59番目の結婚生活|アルテイシア - 幻冬舎plus https://t.co/Na35JtmBgL 3日前 replyretweetfavorite

にゃお子@無職40  RT @ender_3510: 壮絶。しかし連帯保証人でこんなん払うのもバカらしいな…偽装離婚と慰謝料が非課税な事を利用して、旦那さんに全ての資産を移動させた上で自己破産とかできないのかな? わが家に借金取りがやってきた!|アルテイシアの59番目の結婚生活|アルテイシア -… 4日前 replyretweetfavorite

アルテイシアの59番目の結婚生活

大人気コラムニスト・アルテイシアの結婚と人生にまつわる大爆笑エッセイ。

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

twitter : @artesia59

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