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山田マチの山だの街だの

2019.01.09 更新

第31回 金時山 - 富士山・うどん・金時娘 -山田マチ

年明けそうそう、箱根の「金時山(きんときやま)」に登ってきました。標高は、1212m。前回の登山は、埼玉県吉見町の「ポンポン山」。標高は、20m。一気に2桁あがりました。

いっしょに行くのは、いつもの山の相棒である通称カッパと、山の先輩であるKさんと、Kさんの妹さん。
およそ10年前、初めての登山に連れていってくださったのが、Kさん。そのときも、金時山でした。
初登山は、先輩のみなさんに遅れをとらないよう、とにかく必死。山頂についたら、誰かがリュックからキンキンに冷えたシャンパンのフルボトルをとりだして優雅な酒盛りがはじまり、「早くその境地にたどりつきたい」と思ったものです。

ロマンスカーで箱根へ。
女4人、席を向かい合わせておにぎりをほおばりながら、箱根湯本駅に向かいます。もぐもぐ。ぺちゃくちゃ。ロマンスの要素はゼロ。
駅からはタクシーで国道1号線をくねくねと走り、登山道の入り口へ。今日登るのは「乙女峠コース」なんていうロマンチックな名前のコースです。

乙女4人、靴紐をしばり、準備運動。タクシーの運転手さんは「この冬いちばんの寒さだよ」なんて言っていたけれど、すでに背中に太陽があたってぽかぽか。
登りはじめは階段がつづきます。
最近はキャンプばかりで、登っても標高20mだったので、体が完全になまっています。なるべく段差のないところを探してこまかく足を運び、バテてしまわないよう慎重に。汗がふきだし、はぁ~疲れてきた~というころ、K先輩が「あと10分くらいでご褒美があるから!」とはげましてくれました。ご褒美ってなんだろう。がんばれ自分。
「もうエスカレーターは使うまい」。なんども誓ってはすぐに忘れてきたこの言葉を、またしても心の中でつぶやきます。今年こそは。

そうして歩いた先のご褒美は、急にどかんと現れました。
雲ひとつない青空の下、裾野からてっぺんまで全身丸見えの富士山!
あまりにも見事すぎて、もはやK先輩が私たちを元気づけるためにつくったCGではないか、VRで見させられているのではないかと疑うほどの、日本一の山の姿。
ここが標高1005m地点にある「乙女峠」。山頂までの標高は、あと200mです。レッツゴー。

富士山にパワーをもらって歩きだしてまもなく、遠くの山の頂に山小屋っぽいものが見えました。「あれはどこの山だろうねぇ」などとカッパとのんきに話していたら、なんとそこが金時山の山頂と判明。はるかかなた!
あんな遠くまで我が足でたどり着けるのだろうか。不安な気持ちになってきてまもなく、道がくだり坂になりました。雪が残って固まったツルツルの道。油断したら転倒&ケガ確実! そろりそろりと足を運びながらへっぴり腰で進みます。
そこをすぎると、平らな尾根道になりました。尾根いいね。ずっと尾根を歩きつづけたい。しかしそんな願いが叶うことはなく、アップダウンを繰り返したのちに、最後の岩場へ突入。岩や木の根やロープにつかまりながら、ぐいぐいとよじのぼります。
登りはじめて約2時間、ついに山頂到着! バンザーイ!

山頂にいる人々は、皆同じ方向を向いていました。その視線やレンズの先にいらっしゃるのは、もちろんあの大スター、富士山です。富士山はいつも見られるわけではなく、K先輩は8回ほど登って見られたのは今日が2度目とのこと。貴重なお姿、ありがたや。

山頂には100円で使用できるバイオトイレと、茶屋がふたつあります。
金時山といえば有名なのは、金時娘。おさげ髪の乙女に会えるでしょうか。金時茶屋に入ると、あぁ、いらっしゃいました。13歳から茶屋で働きつづける看板娘は、なんと85歳。
売り場にちょこんと座る金時娘に「金時うどん」を注文すると、横からサッとひとりの女性がやってきて、金時娘の耳もとで「うどん!」と伝えました。その女性は私から700円を受け取ると、金時娘に手渡しました。そして横に立っていた男性が厨房に「うどーん!」と伝えました。

客席でうどんを待っていると、さきほど売り場にいた男女が座ってお茶をすすっています。
「あれ、もしかして、お客さんなんですか?」
「はい。みんなでお手伝いしてるんですよー」
金時娘はもはや象徴と化しているようです。いてくれるだけでみんなはうれしいんですね。

油揚げとさつま揚げと大粒ナメコがどっさりのったうどんでお腹を満たし、いざ下山。無事に山を降り、バスで箱根湯本駅まで戻りました。
そこからK先輩おすすめの温泉に向かう予定だったのですが、タクシーもバスも長蛇の列。さくっとあきらめ、すぐ近くにある湯本富士屋ホテルの温泉へ。
巨大ホテルだけあって人は多いけれど、そのぶん浴場も大きくて、ゆったりつかることができました。筋肉痛確定の足をもみもみ。露天風呂は、イノシシやサルがやってくるかもしれないので注意が必要とのこと。全裸ではご対面したくないですね。勝てる気がしません。

帰りもロマンスカーの4人席。
駅の売店でおのおのお酒やツマミを買い込み、車内で乾杯! 
私とカッパは缶のビールやハイボールなのですが、K先輩は妹さんと日本酒の4合瓶を1本。試飲用の小さな紙コップをおちょこに2人で静かにくいくい飲んで、新宿到着と同時にきれいに空になっていました。かっこよすぎる。たどりつきたい、その境地。

金時山は、歩く道もさまざまに変化し、ところどころでご褒美のように、富士山、芦ノ湖、仙石原などの美しい景色を見せてくれました。山頂は茶屋もトイレもあってスペースじゅうぶん。山からおりれば温泉だらけ。初登山におすすめされる理由がよくわかりました。
私も誰かを連れていきたいと思います。こんど、ロマンスカーで。

*きょうのごはん*
金時娘が売っている金時茶屋の金時うどん。おでん、おにぎり、おしるこ、ホットココアなんかもありました。
*きょうの昭和*
ロマンスカーの宴の際、友人のカッパがくれた「かっぱデミタス」。なんとも艶かしいカッパ。ロマンス多そう。

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山田マチ『ひとり暮しの手帖』

実家をはなれて、およそ20年。 これまでも、きっとこれからも、ひとり暮し。 ここには、ひとり暮しのいろいろなことを書きつけます。 このなかのどれかひとつくらいは、あなたの心に届くかもしれない。 いや、ぜんぜん届かないかもしれない。 そんなふうな、 これは、ひとり暮しの山田の手帖です。

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