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才能の正体

2018.10.13 公開 ツイート

ノーベル賞を獲った人に対して、「もともと《才能》があった」とみんな思うものです。 坪田信貴

先日、ノーベル賞受賞者が発表されました。
ところで、受賞されると、その方の努力の素晴らしさをひとまず横に置いて、その方には「もともと才能があった」「天才は最初から違う」という方向に、みんな考えたがるように感じます。
そんな我々の“思考癖”についても、『才能の正体』では言及しています。

みんなが、何かにつけて使いたがる「才能」という言葉。
しかし、いったい「才能」って何なのでしょうか?
才能というものが本当に存在するのであれば、それを見つけ、伸ばすことは可能なのでしょうか?
「才能研究家」の坪田信貴さんが、徹底的に「才能」と向き合った新刊『才能の正体』より、抜粋!

iStock/rrodrickbeiler

人はどういうときに、
「あの人は地アタマがいい。才能がある」と言うのか

 僕は全国各地から依頼をいただき、様々な場所で講演をしています。調べてみたら、ここ3年間で約15万人の方にお話をしていました。
 学生さんや親御さん向けの「教育」をテーマにした講演から、ビジネスパーソン向けの「人材育成」「チームビルディング」についての講演まで、ターゲットはいろいろですが、共通しているテーマは「個人の能力をいかに伸ばすか」ということです。

 お客さんの多くは、僕のことを『ビリギャル』で知っていますから、皆さんに向かって、僕は必ず、こう問いかけます。

「僕はたびたび、『ビリギャル』のさやかちゃんは、もともと地アタマが良くて、才能があったんでしょう、という言い方をされます。この中で自分の息子さん、娘さん、あるいは自分自身が『地アタマがいい』『才能がある』と思う人は、手を挙げてください」

 会場に1000人いたとして、どれくらいの人が手を挙げると思いますか?
 だいたい3人くらいです。たったの0・3%。面白いことに、どこの会場でもこの割合はほぼ一緒です。
 そこで、さらに質問をします。

「では、“地アタマ”とか“才能”って、何なのでしょうか?
 皆さんは何をもって、『さやかちゃんは地アタマがいい、才能があった』と思ったのでしょうか?
 逆に何をもって、皆さんは自分の息子さん、娘さん、あるいは自分自身は地アタマが良くない、才能がない、と思っていらっしゃるのですか?」

 こう聞くと、だいたいの人は「う~ん」と言うばかりで、答えが出ません。
 そこで僕はこう言います。

「これは、皆さんが“結果”だけを見ているからなんです」と。

「さやかちゃんは、学年ビリからスタートして、慶應義塾大学と明治大学と関西学院大学に受かりましたが、実は皆さんは、『慶應と明治と関学に合格した』という“結果”しか見ていません。
 これは他のことでも当てはまります。名門の中高一貫校に合格した、早稲田大学に受かった、東京大学に受かった、医学部に受かった、ハーバード大学へ留学した、弁護士になった、本を書いてミリオンセラーを出した、すごい発明をして世界を変えた、起業して株式公開をして大金持ちになった、ノーベル賞を受賞した……
 などなど、いずれも“結果だけ”を見て、この人は『地アタマがいい』『才能がある』と言っているのです

 こう説明すると、皆さん、ハッとするようです。

大学に落ちれば「もともと才能がない」。
受かれば「地アタマが良かった」

『ビリギャル』にも書いていますが、さやかちゃんが初めて僕のところへ来たとき、家族も友人もほぼすべての人が、「慶應合格なんてまず無理」「身の程知らず」「勉強ができるようになるはずがない」と思っていました。
 さやかちゃんのお父さんは「お前が受かるわけがない。塾にお金を払うのは、ドブに金を捨てるみたいなもの。一銭も出さないから、やめなさい」と言ったそうです。ですから、塾のお金は、お母さんが苦労して払ってくださいました(その後、さやかちゃんの成績がメキメキ上がったのを目の当たりにしたお父さんは、応援してくれるようになりました)。

 さらに学校の友達からは「さやかはもともとバカだったけど、とうとう頭がおかしくなった!」と言われたそうです。それまで遊んでばかりいて、成績も悪くて“バカ”だったのに、「私は慶應へ行く」と、急に勉強を始めたことから、ついたあだ名が「ガリ勉バカ」
 学校の先生からは「お前が慶應に受かったら、俺は全裸で逆立ちして、ここを1周してやるわ」と言われたそうです。ちなみに映画『ビリギャル』では、先生は約束を守ったことになっていますが、実際には、卒業式のときに合格通知を見せに行ったら、無視されたそうです(ひどいですよね!)。

 でも、もし、ですよ? さやかちゃんが猛勉強して、成績も上がって、偏差値もすごく上がった。でも受験に失敗してすべての大学に落ちていたら……。
 それでも彼女は「地アタマは良かった」「才能はあった」と言われたでしょうか?

 金髪のギャルで、聖徳太子を「せいとくたこ」と読んでいたさやかちゃんです。もし受験に失敗していたら、周りから「それ見たことか」「言わんこっちゃない」「ああいう大学は、才能がある人が行くところなんだよ」みたいに言われていたでしょう。

 それがどんな人であっても、結果が出たら「元がいい」「地アタマがいい」と言われ、結果が出なければ「もともと才能がない」、と言われるのです。受験までに驚くほど偏差値が上がっていたとしても、です。

 人は結果しか見てくれない、結果からしか判断しない、ということなのです。

人は、「結果」に合わせて、事実を「物語」にする

 このように多くの場合、「結果」が才能の有無の判断基準になります。
 これはつまり、結果によって、過去の解釈もすべて変わってしまう、ということでもあります。
 面白いことに、「いい結果」が出ると、その人の過去にやっていたことが、“すべて”ポジティブな見方で捉えられるようになってしまいます。

 ここで、僕の過去がガラッと変わってしまったエピソードをご紹介しましょう。
『ビリギャル』がベストセラーになり、売上が120万部を超えて、映画化もされました。おかげ様でその後に出した本も反響が良く、執筆の依頼もたくさんいただくようになりました。
 僕の周りがそんなふうに騒がしくなっていたある日、『ビリギャル』を出す以前からお付き合いのある会社の社長さんとお会いしました。そのときに、こんなことを言われたのです。

「坪田さんて、もともと文才がありましたからね」

 しかし僕は、『ビリギャル』を出す以前に、小説やエッセーのようなものを書いたり、それをどこかに掲載したりなどはしたことがありません。この人は何を見て、僕に文才を感じていたのかな? とシンプルに疑問が湧きました。

「社長は、僕の何を見て、そう思ってくださったのですか?」

 そう質問すると、社長さんは、

「メールから滲み出ていた」

 とおっしゃったのです。
 気になった僕は、社長あてに出したこれまでのメールを全部チェックしてみました。
 するとそのほとんどが「お世話になります。坪田です」から始まる、ビジネスメールのテンプレート的なものばかり。これはつまり、僕がベストセラーを出したことで、勘違いされてしまったということに他なりません。
 人間の記憶というのは、思い出すごとに、“自分が納得いく形”へと改ざんされてしまうもの。つまりこの社長さんの中で、僕がベストセラーを出したという「結果」によって、過去の記憶がごっそり改ざんされてしまった、ということです。

 一目惚れや大恋愛も、同じことだと思います。「この人が運命の人!」と思ってしまった瞬間から(=すなわち「結果」を決めてしまった瞬間から)、どんな意地悪をされても、冷たくされても、「自分のためにやってくれている」「好きだから頑張れる」と思い込めてしまう。しかし、ふとしたことで、「その人は運命の人なんかじゃなかった(=その「結果」は自分の妄想だった)」と気づくと、過去の解釈ががらりと変わって、一気に気持ちが冷めてしまうわけです。

 もうひとつ、わかりやすい例を挙げましょう。
 ノーベル賞を受賞すると、必ずニュースになりますよね。すると、たとえば、受賞者の奥様にインタビューして、彼女にとってどういう夫なのか尋ねたり、受賞者の出身地へ行って、彼がどんな子どもだったかを聞いて回ったりします。

 a「研究者としては一流かもしれないけど、家では何もしない人です」
 b「あまり群れないタイプで、昔から一匹狼みたいな感じです」
 c「みんなが右へ行くときでも、自分は左だと思ったら左へ行くような人」
 d「何を言われても気にしない、“自分”を強く持っている人です」
 e「子どものときから発想が他の人とは違ったところがあって、ユニークでした」

 ……といった具合に、ノーベル賞を受賞するような人は、普段から普通とは違う、
 子どもの頃から思考も発想も他の人とは全然違っていた、というような内容のコメントが次々出てきます。
 ここで、少し皮肉な見方をしてみます。同じ人が、実は「罪を犯した人」だったらどうでしょう?

 a′「家のことはすべて妻に任せっきりで、外へ出かけてばかりいた」
 b′「どのグループにも属さず、まったく協調性がなかった」
 c′「こうと決めたら梃子(てこ)でも動かない人で、絶対に従わなかった」
 d′「ルールは全然守らなかったし、人の話なんかまったく意に介さなかった」
 e′「いつも一人だけ違う考え方で、わがままを言って和を乱し、大変だった」

 ……どうですか? ノーベル賞を獲った人と、罪を犯した人。同じ性格の同じ過去
 を持った人だったとしても、結果次第でここまで見方が変わってしまう。“真逆の認
 知”
をされてしまう。

 このように人々は、「結果」から遡さかのぼって「物語」を作ろうとするものなのです。
 結果を見て→それまでの認知が変わってしまい→新しい物語ができあがる。
 このときのキーファクターとなるもの、大きなウェイトを占めているものが、まさ
 に「才能」なのです。

関連書籍

坪田信貴『才能の正体』

“地アタマ”は幻想。才能の芽は誰にでもある。しかし、ほとんどの人が無駄な努力で才能を殺している―と、「ビリギャル」を偏差値40UP&難関大学に合格させた著者が断言。「できる人の行動を完コピすると爆ノビ」「客観的事実だけをフィードバックすると能力は育つ」など、才能の見つけ方・伸ばし方を実践的に紹介した、能力開発メソッドの決定版。

堀江貴文/田中里奈/鈴木おさむ/坪田信貴/小林麻耶/佐々木圭一『ぴりから 私の福岡物語』

福岡県が大好きな6名の著名人が描く、「福岡」をテーマとした小説集。 上京前の不安な心境、仕事や恋愛の失敗、親と子のぶつかりあい……。 そんなピリッとからい出来事に直面した主人公たちは、福岡ならではのあの場所、あの味、あの人の心にふれ、新たな希望を見つけていく。

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才能の正体

コロナ禍は、学習シーンにも大きく影響し、休校になったり、授業がオンラインになったりした。学校の授業だけでなく、塾も、部活も、コロナ前の体制に戻るには時間がかかりそうだ。いや、そもそも、戻らないのかもしれない。
でも、だからといって、能力を伸ばせなくなったわけではない!
「才能の本質」について知れば、体制に関係なく、能力を伸ばすことはできる。
学年ビリのギャルが1年で偏差値が40も上がり、慶応大学に合格できたのは、坪田先生との出会いのおかげだが、その『ビリギャル』の坪田先生が、「才能とは何か」について余すことなく書いたのが、ベストセラー『才能の正体』。

その『才能の正体』が文庫化されました! 文庫化記念で、本文を公開します。

バックナンバー

坪田信貴

坪田塾塾長。心理学を駆使した学習法により、これまでに1300人以上の子どもたちを「子別指導」、多くの生徒の偏差値を急激に上げてきた。 一方で、起業家としての顔も持つ。また、人材育成、チームビルディングの能力が多くの企業から求められ、マネージャー研修、新人研修を行うほか、現在は吉本興業の社外取締役も勤めるなど、活躍の場は枠にとらわれない。テレビ、ラジオ、講演会でも活躍中。 著書に映画化もされて大ベストセラーとなった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』のほか、『人間は9タイプ 仕事と対人関係がはかどる人間説明書』『バクノビ 子どもの底力を圧倒的に引き出す339の言葉』『どんな人でも頭が良くなる 世界に一つだけの勉強法』『才能の正体』ほか多数あり 。

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