1. Home
  2. 読書
  3. アルパカ通信 幻冬舎部
  4. 小手鞠るい『情事と事情』/丸山正樹『ウェ...

アルパカ通信 幻冬舎部

2022.05.27 公開 ツイート

第8回

小手鞠るい『情事と事情』/丸山正樹『ウェルカム・ホーム!』―それぞれの“事情”に、悩みながらも進む、2つの物語。 アルパカ内田/コグマ部長

一日一冊読んでいるという”本読み”​​​​​​のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。

そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。

*   *   *

元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
 第8回 小手鞠るい『情事と事情

自称フェミニストのライター・中条彩江子は、今日も理想と現実のギャップに苛立ち一人酒。自分を慕う年下のカメラマン・晴人を呼び出すも断られる。「私、もう少しだらしなくなってもいいのではないか」。後日家に誘い今度こそ“抱かれよう”とする彩江子だったが、晴人には抱けない“事情”があった。恋愛小説の名手が描く、大人たちの上品で下品な恋愛事情。

こんにちは。ジョージといえばワシントン。アルパカ内田です。

ニューヨーク州ウッドストック在住の「恋愛小説の女王」から素晴らしい新作が届いた。

幸せの在処を真正面から問いかける熟練の技。嫉妬と憧憬、嘘と真実、信頼と裏切り。渦巻く情愛の中で人生の明と暗が激しく交錯する。「こんなはずじゃなかった」の連続で、アラフォー女性たちの一筋縄ではいかない運命が赤裸々に表現されており、隅から隅まで共感必至。あたかも小洒落た舞台を「とちり席」で観たような臨場感に大満足。飛び切りの群像劇が楽しめる。

数多ある読みどころの中でも、切れ味の鋭いセリフ回しに要注目。それはまるで美しく咲きほこりながら、肌を突き刺す棘を持つ薔薇の花のようである。「本気の恋なんて、子どもっぽい」、「不倫の恋というのは、煩いだ」、「美しい人は、何をしたって、美しい」、「人生は偶然という名の必然でつながっている、一本の電線のようなもの」。行間から醸し出される豊かな余韻が心に響き、忘れがたき色香が漂ってくる。

「わお、だらしない女って、素敵!」という肉声のようなフレーズも脳裏に焼き付き離れない。

どんなに不器用でも無様でもささくれていても、ひたむきに過ごした日々はおしなべて愛おしいのだ。さらになんとも痺れるメッセージが込められた鮮やかなラストも秀逸。巧みに仕掛けられた天から舞い落ちる「オチ」は本当に見事。乾いた日常に潤いを与え、抱きしめたくなるような物語だ。

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
丸山正樹『ウェルカム・ホーム!

27歳の大森康介は新米介護士。特別養護老人ホーム「まほろば園」に勤め始めたものの、入居者の便臭にはまだ慣れない。しかも認知症の人、言葉が不明瞭な人相手の仕事は毎日が謎解きだ。やがて、この仕事の面白さにだんだんと目覚め始めて……。

一方、こちらは27歳になる新米介護士の大森康介が主人公。派遣切りに遭い、「しかたなく」特別養護老人ホームの職に就いた。

そこの入居者には意地悪な人や手がかかる人、認知症の人や寝たきりの人もいる。康介はそんな人たちを相手に食事や入浴の介助、オムツ交換などの仕事をしている。しかし仕事は過酷で……と紹介すると、「お仕事小説」と安易なジャンル分けをされてしまうかもしれない。だが、この作品の面白さは、康介の目を通して介護現場の実情や、現代社会そのものの矛盾を、時にはコメディを交え、時にはミステリ要素をまぶしつつ描き切っているところである。

誰もが介護する側とされる側のどちらか(もちろん両方も)になる可能性があるのに、あえて直視するのを避けている。誰かがオムツを交換しないといけないし、お風呂に入れてきれいにしないといけない。そんな介護の仕事は、世の中には欠かせないとみんなわかっている。でもその一方で、こうも思っている。「でも自分はやりたくない」と。

読者は、康介のモヤモヤに共感しながらページを繰る。トラブルや壁にぶつかり、もたつきつつも乗り越えようとしていく康介。どこにも完璧な解決策などないが、とにかく元気をくれる小説だ。

特養ホームも、利用者にとっては大切な我が家。現実も矛盾も全部受け入れた康介が笑顔で待っている。読後、ちょっと大きな声で言ってみたくなる、「ウェルカム・ホーム!」と。

{ この記事をシェアする }

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。

幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!

バックナンバー

アルパカ内田 ブックジャーナリスト

内田剛(うちだたけし)。ブックジャーナリスト。約30年の書店勤務を経て2020年2月よりフリーランスに。NPO法人本屋大賞実行委員理事で創立メンバーのひとり。文芸書をメインに各種媒体でのレビュー、学校や図書館でのPOP講習会などを行なっている。これまでに作成したPOPは5000枚以上で著書に『POP王の本!』あり。無類のアルパカ好き。
Twitter @office_alpaka

コグマ部長

太田和美(おおたかずみ)。幻冬舎営業本部で販売促進を担当。本はミステリからノンフィクションまでノンジャンルで読みまくる。アルパカ内田(内田剛)さんとは同学年。巨人ファン。
Twitter @kogumabuchou

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP