幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し
丸山正樹『ウェルカム・ホーム!』
一方、こちらは27歳になる新米介護士の大森康介が主人公。派遣切りに遭い、「しかたなく」特別養護老人ホームの職に就いた。
そこの入居者には意地悪な人や手がかかる人、認知症の人や寝たきりの人もいる。康介はそんな人たちを相手に食事や入浴の介助、オムツ交換などの仕事をしている。しかし仕事は過酷で……と紹介すると、「お仕事小説」と安易なジャンル分けをされてしまうかもしれない。だが、この作品の面白さは、康介の目を通して介護現場の実情や、現代社会そのものの矛盾を、時にはコメディを交え、時にはミステリ要素をまぶしつつ描き切っているところである。
誰もが介護する側とされる側のどちらか(もちろん両方も)になる可能性があるのに、あえて直視するのを避けている。誰かがオムツを交換しないといけないし、お風呂に入れてきれいにしないといけない。そんな介護の仕事は、世の中には欠かせないとみんなわかっている。でもその一方で、こうも思っている。「でも自分はやりたくない」と。
読者は、康介のモヤモヤに共感しながらページを繰る。トラブルや壁にぶつかり、もたつきつつも乗り越えようとしていく康介。どこにも完璧な解決策などないが、とにかく元気をくれる小説だ。
特養ホームも、利用者にとっては大切な我が家。現実も矛盾も全部受け入れた康介が笑顔で待っている。読後、ちょっと大きな声で言ってみたくなる、「ウェルカム・ホーム!」と。
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アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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