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本の山

2020.12.26 更新 ツイート

三年しか続かないゆえの 繊細で儚い世界――『最愛の子ども』松浦理英子 KIKI

松浦理英子さんの作品を読むのは初めてだ。しっとりとした青色の表紙に金字のタイトルという装幀にどこか儚さを感じて手に取った。物語の舞台は、共学でありながらクラス構成は男女別という高校。他のクラスからは変態扱いされるほど結束が強い女子クラスを中心に、級友である「わたしたち」によって、あるひとつの「家族」について語られていく。

 

家族といってもそれは女子高生三人による「疑似家族」。〈夫〉役の日夏と〈妻〉役の真汐とのあいだに子ども役の空穂がいる設定だ。「空穂は日夏と真汐のものだから、日夏と真汐は空穂に対して何をしてもかまわない」と級友たちに認識されているように、空穂はちょっとした言動を日夏と真汐から度々たしなめられ、頬をつつかれたり髪を弄ばれたりもする。いじられキャラである空穂。その三人のやりとりは微笑ましく、これこそ理想の家族だと集合体としての主人公である「わたしたち」はうっとりする。物語の中で、時折、見たり聞いたりした出来事の続きが「わたしたち」の想像として語られ、女子クラスの現実が「わたしたち」の理想と溶け合っていくようだ。

しかし読み進めていくと、日夏たち三人は家庭内において親兄弟との関係が良好とはいえないことがわかっていく。特に母子家庭で育った空穂は、幼少のころに母親から愛情の裏返しのような折檻を受けており、いじられキャラとしての立ち位置に甘んじる理由が、母親との関係性から生まれていることが見えてくる。三人が学校で疑似家族を演じることは、傍観している「わたしたち」だけでなく、当事者が求めている理想でもあるのだ。

わたし自身女子校出身だ。クラスには仲が良くて「カップル」のように認識されている二人組がいた。彼氏と彼女のような役割があって、本書に描かれる「家族」のように睦まじい仲だった。そこにからだの関係があったのかどうかはわからないけれど、精神面での結びつきが強いのは確かだ。ふたりは卒業したらどうなるのかな、と漠然とした不安を人ごとながらに抱いたこともあった。その関係性は日夏たち三人のように、一歩先に踏み込んだり、わずかに互いの感情がずれたりするだけで、壊れてしまう脆いものだったのかもしれない。

そんな気持ちも含め、自分の高校時代を思い出した。けれどその記憶は本書と同様に卒業を迎えて途切れている。読み終えた後、装幀により強く儚さを感じたのは、「わたしたち」の理想が長くても三年しか続かないためかもしれない。女子高生だったわたしを含めた「わたしたち」を主役に、どうしてこんなにも繊細で、数多くの問題を孕んだ世界を描くことができるのだろう。寡作と聞く著者の過去の作品を読んでみたら、なにか見えてくるものがあるだろうか。

「小説幻冬」2018年3月号

松浦理英子『最愛の子ども』

〈パパ〉日夏、〈ママ〉真汐、〈王子〉空穂。「疑似家族」を演じる女子高生三人と、それを見守る同級生たち。その均衡の中で生まれるドラマを静かに綴る長篇小説。
文藝春秋/本体730円+税

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