暮らし術
長嶋有を、女の人だと思っていた。
2本の対になった短編が収められており、主な登場人物は夫婦と2歳半になる子どもだ。
表題作では、コロナウイルスに世間が翻弄され、最初の緊急事態宣言が出された一、二ヶ月の出来事が、夫婦それぞれの目線で語られていく。保育園から登園自粛を求められ、それを受け入れると同時に、保たれていた日々の平穏が一気に崩れはじめる。子どもが悪いのではない。けれど、元気の塊みたいな2歳児と過ごす時間は、どんなに体力のある親でも本当に大変だ。だからこそ少しでも物事がスムーズに進むように、親が先回りしていろいろ準備をするのだが、その様子があまりに自分のことのようで笑ってしまう。例えば、尿意を口にした子どものために、トイレに先回りして幼児用便座をセットして、さらに上手にできたご褒美的なコイン(うちはシールだ)を用意する。滑稽にも思えるけれど、いかに子どもの機嫌を良いままに保つかを、母親は父親以上に重視することを著者は本当に理解しているなとうなってしまった。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
本の山の記事をもっと読む
本の山
- バックナンバー
-
- 無心で身体を動かすことで感情を露わにする...
- 捨てられたガムへの偏って、強烈な思い -...
- 勝敗を超えたところに見るものは -『いま...
- 奇談好きなリーダーが導く新たな生きる活力...
- 辛い状況にあっても新しい道を切り拓く家 ...
- 「なぜ写真を撮るのか」をしっかり知るべき...
- 引退競走馬の未来に光が当たるということ ...
- シンプルな行為の中にも人それぞれの思いが...
- 当事者による文学が問う健常者の「無意識の...
- 事実を知ることは人の命を尊ぶこと -『黒...
- いちばんしたいこととはいちばん大切なもの...
- 知らない世界だからこそ自由に想像できる ...
- 守りきれたものは、いずれかたちを変えて自...
- サーカス - 誰しもが自分の居場所を見つ...
- 物語と料理が一体となって、読者の記憶に残...
- 北の大地を舞台にした熱気溢れる壮大なドラ...
- 「初心者目線」を保ち遭難者を発見する -...
- 「ものを書く」行為に突き動かされる理由ー...
- 大切なものを手放すことの難しさ -『よき...
- 各国の歴史的背景を学び、死刑の是非を自ら...
- もっと見る