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美しい暮らし

2019.08.05 更新 ツイート

子供を生めなければ駄目ですか?矢吹透

政治家たちが、子供を生め、と言います。

私には、子がありませんが、もし生めるものであれば、生んでいたでしょう。

若い頃の私は、恋愛をするたび、その人との間に子供を持てたら、といつも願ったものです。

生憎、私には、子供を持つことはできませんでした。

なぜなら、私は同性にしか、恋愛感情を持てない種類の人間だからです。

 

ゲイであろうと、生殖能力に問題がなければ、子供を作ろうと思えば、作れるではないか、という人があるかもしれません。

実際に、女性と結婚し、子供を作っているゲイの男性もおります。

その人が、ゲイであっても、女性も愛せるということなのか、或いは、契約や偽装を孕む結婚のかたちなのか、ケースにより区々でしょうし、そういった諸々について、私は論評する立場にありません。

私は、子供を作る時には、自分の心から愛する人との間に作りたい、と思います。

愛する人と自分の遺伝子を併せ持つ子供を、この世に送り出せたら、と願います。

現況、それは不可能です。

精子と精子(または卵子と卵子)で胚を作る生殖の方法は、人類に関して、まだ見い出されておりません。

 
国のために3人以上子供を生め、子供を生めない人間は非生産的である、子供を生むことが功績である、などという政治家たちの発言を耳にするたび、私は複雑な感情に苛まれます。

私は、この国に生まれ、育ち、精一杯に働き、決して少なくない額の税金を納め続けて来ました。

それでも、駄目なのでしょうか。

失格なのでしょうか。


最近のこの国と、その政治に、私は、絶望に近い感情を覚えることがままあります。

この国が、私の存在を否定し、許容しないのであれば、私は、別の天地を生き場所として探すほかありません。

私は、生まれ育ったこの国を愛しておりますが、この国には、私のような人間の居場所はきっとないということなのかもしれません。

途方に暮れる、齢50を越した私がここにおります。


せめて、この国を追い出される前に、この国の風物を慈しみ、味わい尽くしておこう、と思います。

季節は盛夏です。

夏といえば鱧、と敬愛する先輩が言いました。

久しぶりにお目にかかり、お気に入りだというお店に連れて行って頂いた折りのことです。

私たちは、鱧の湯引きと鰹のお刺身を頂くことにいたしました。

頂いた鱧は淡泊な中に、しっかりとした味わいがあり、私がこれまでの人生で経験した鱧とは、ひと味もふた味も違うものでした。

梅の風味の奥に微かに醤油の味わいを感じさせるたれが添えられており、このたれとの相性も絶妙でした。

薄いグラスで冷たいハイボールを頂きながら、大好きな方と四方山話に花を咲かせ、季節の美味しい料理を頂くひとときは、かけがえのない時間でした。

しかし、そんな幸せがいつまでも続くと思えない、最近の私がいるのです。

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関連書籍

矢吹透『美しい暮らし』

味覚の記憶は、いつも大切な人たちと結びつく——。 冬の午後に訪ねてきた後輩のために作る冬のほうれんそうの一品。苦味に春を感じる、ふきのとうのピッツア。少年の心細い気持ちを救った香港のキュウリのサンドイッチ。海の家のようなレストランで出会った白いサングリア。仕事と恋の思い出が詰まったベーカリーの閉店……。 人生の喜びも哀しみもたっぷり味わせてくれる、繊細で胸にしみいる文章とレシピ。

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