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美しい暮らし

2021.11.05 更新 ツイート

天神下つれづれ日記#21

生きていてすみません 矢吹透

時々、僕は考える。

僕は日本の東京という街に暮らしているけれど、僕が暮らしているのは実は仮想世界とかパラレルワールドのような場所なのではないかと。

僕が当たり前だと考えていることが、この国のスタンダードからはかけ離れたものだったりするのではないかと。

僕は、ゲイであることを明らかにして生きている。僕のウィキペディアにまでそのことが誰かの手によって記されている。家族も友人も、近所の飲み屋の人たちだって皆、そのことを知っている。

 

僕は数年前に勤務先を退社したが、20年くらい前から職場でもカムアウトしていた。というか正確には、親しい同僚の何人かに話したら、気がつくといつの間にか誰もが知っていることになっていたのだが。

僕が同性のパートナーと同棲して、もう12年が過ぎる。購入済みの分譲マンションでずっと暮らして来たので、男二人が同居していることについて誰かにとやかく言われるようなことは今までになかった。玄関の表札にも僕とパートナーの名前を併記している。

日々の生活の中で、セクシュアリティに関する事柄で僕が誰かから明らかな差別を受けるようなことはほぼない。もし仮にそんなことがあったとしたら、僕は黙っていないだろう。相手に直接、抗議するとか、法的に対抗するとか、何らかのアクションをすぐに起こす。

そんな僕には、この国の一般的なゲイの気持ちはわからない、と以前、友人に言われた。

透ちゃんには、地方に暮らすゲイの気持ちなんて絶対にわからないから。透ちゃんは、自分がとても恵まれた特別な状況で生きていることを忘れるべきではない。そのことに感謝しながら生きなければならない。

僕は同性婚に賛成である。夫婦別姓にも賛成である。

それらを認めることによって誰かが不利益を被るというのが、僕にはうまくイメージできない。

誰かの不利益にならず、逆に他の誰かが幸せになることならば、何でもやった方がいいと僕は思ってしまう。

僕の周囲の人間たちの多くは皆、似たような意見を持っている。まあ、当たり前である。僕の周りにはLGBTフレンドリーな人間が多く集まっているし、リベラルな世界の方がマイノリティにとって生き易いものである。

衆院選の結果を見て、この国の多くの人々は僕とは異なる意見を持っているのだなと実感する。

まあ、同性婚や夫婦別姓などのテーマは、国政にとってのすべてではない。しかし、それ以外のさまざまな事案に関しても、日本の国民の多くは従来通りの与党の政策に概ね賛同しているということが伝わってくる選挙結果だった。

ああ、そうか、と僕は思う。これが日本なんだ、と思う。

ということは、僕が生きている世界はきっと日本ではない。

かつてニューヨークで暮らしていた頃、周囲のアメリカ人たちに言われた。この街での常識がアメリカのスタンダードだとは考えない方がいいと。ここはニューヨーク。ニューヨーク・イコール・アメリカではない。

僕が今暮らしている世界は、きっと「東京」ですらない。東京の中でも一部の特殊な世界。

僕にとっての常識は、おそらく多くの日本人にとっての非常識なのであるということを痛感した。

生きていてすみません、という気持ちになった。

ほんと、すみません。

では、自分にできることは何だろうか、と考える。

僕は、書こう、と思う。

一般的ではないかもしれないことを、それでも書き記そうと思う。書き残そうと思う。

僕が書くことに賛同してくださいとは言いません。

特殊なマイノリティの生活や人生や、その中で考えることの記録であると考えて頂ければ、と思います。

動物園で珍しい生き物の生態を眺めるように、僕の文章を読んで頂ければと思います。

 

僕のこの幻冬舎plusの連載がスタートして、来月で丸五年になります。

書くスタイルもさまざまに変移しながら、これまでいろいろなことについて書いて来ました。

まあ、僕の文章なんてろくなものではありません。へえ、と思って頂いたり、くすっと笑って頂いたり、そんなことが少しでもあればうれしいなと思います。

昨年は、僕のこれまでの人生のあらましを「イカレポンチの回顧録」というタイトルで一年に渡って書きました。並行して「ぼくはアンプリファイア」という人生相談のコーナーも設けさせて頂きました。

今年の「天神下つれづれ日記」では、ノン・テーマで日々の徒然を書き連ねました。

さあ、来年は何について書きましょう。

こんなものが読みたいなとか、こんなことについて書いて欲しいというようなご要望等ございましたら、お知らせください。

では、また次回。

最近はロン毛なんです。​​​​​

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美しい暮らし

 日々を丁寧に慈しみながら暮らすこと。食事がおいしくいただけること、友人と楽しく語らうこと、その貴重さ、ありがたさを見つめ直すために。

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矢吹透

東京生まれ。 慶應義塾大学在学中に第47回小説現代新人賞(講談社主催)を受賞。 大学を卒業後、テレビ局に勤務するが、早期退職制度に応募し、退社。 第二の人生を模索する日々。

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