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トランプ時代の地政学

2019.07.18 更新 ツイート

トランプ大統領の本音は、北の核保有容認か杉本宏

トランプ大統領のTwitterより(7月2日)

6月30日午後3時46分、トランプ氏が現職の米大統領として初めて軍事境界線を踏み越え、北朝鮮側に入って金正恩朝鮮労働党委員長と固い握手を交わした。世界中の多くのテレビとネットによってライブ中継された「板門店会談」。その「歴史的瞬間」に息を呑んだのは私だけではないだろう。

多くの識者が批判するように、このドラマを「壮大な政治ショー」と切り捨てることは簡単だ。具体的な成果が何もないことは否定しようがない。とはいえ、今回の会談は、二人の仲が1年前の初会談のときから深まり、敵同士から「持ちつ持たれつ」の間柄になってきたことを強く印象づけた。問題は、二人の「親交」と非核化の関係だ。仲良しになれば、北朝鮮は核を廃棄するのか。

 

自作自演のライブショー

「最大のライブショー」、「サプライズ受け狙い」、「宣伝用の記念撮影の機会」……。今回の電撃的な会談に対する米メディアの見方は概して冷ややかだ。紙面では、首脳会談の際に使う「サミット」よりも単なる会合を意味する「ミーティング」という単語が目立つ。トランプ氏お気に入りのニュース専用放送局「FOXニュース」は別だが、過去の米大統領が成し遂げたことのない「偉業」を自作自演の演出で実現し、メディアの受けを狙った、といった解説が多い。

振り返ってみれば、米朝首脳は、シンガポールでの初会談から1年を経ても非核化の定義すら共有できないでいる。2月にハノイで開催された2回目の会談では、トランプ氏が北朝鮮核施設の全面廃棄を、金氏が制裁の全面解除を主張して折り合えず、トランプ氏は予定を切り上げて席を立ってしまった。その後、米朝交渉は膠着状態に陥り、当局者同士の連絡は途絶えがちになった。

この手詰まりを打開したのがトランプ氏のツイートだった、といわれている。G20出席のため滞在していた日本から訪韓する前日の29日朝、「軍事境界線で握手してハローだけでも言えれば」と投稿、この呼びかけに金氏が応じ、二人は電撃的な再会を果たした。こう二人は口裏を合わせているが、俄かには信じがたい。事前の親書のやりとりから再会の筋書きが固まり、ツイートで最終的に確定したのだろう。韓国の文在寅大統領もお膳立てしたのかもしれない。

しかし、二人の意見が一致したのは、中断していた実務者協議の再開ぐらいだ。それも継続するかは疑わしい。トップダウンの決定を好む二人に実務者同士が積み上げる「王道」の外交が果たして通用するのか。ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ブート氏は、やらせとぶっつけ本番が入り混じったようなトランプ外交を「(テレビの)リアリティショーにはいいが、最低の外交だ」と酷評する。

仲良しぶりを見せつけ、国内でのポイントを稼ぐ二人

米朝首脳は今回、それぞれ相手との関係を大事にしている姿を盛んにメディアに見せつけた。とりわけ、興味深い会談冒頭のシーンを紹介しよう。

金委員長「二人の親交がなければ、たった1日で今日のような劇的な再会は実現しなかっただろう。二人の関係は、これから迎える難関や障害を耐え忍ぶ神秘的な力として作用するだろう」

トランプ大統領「あなたがソーシャルメディア(ツイッター)での呼びかけに応じないで、ここに現れなかったならば、メディアは私を叩いていただろう。あなたのおかげで顔をたてることができた」

「同じ境遇だぞ。分かっているよね」――こう確認し合っているように響く。多くの点で二人の利害は一致しないが、親交を継続すれば、お互いに国内政治上の利益を得られるという点では共通していると。

来年の大統領選が最大の関心事であるトランプ氏が、金氏との関係に政治的価値を見出していることは明らかだ。米外交問題評議会(CFR)のスナイダー研究員は、トランプ氏にとって、金氏は便利な「引き立て役」だと見る。金氏を国際政治の舞台に連れ出せば、トランプ氏への注目度はアップ。現職の仕事ぶりをアピールし、民主党候補を批判する絶好の機会となる。

実務者協議で進展がなければ、会わなければいいだけだ。民主党側は批判するだろうが、そもそも「外交は票にならない」。しかも、日本や韓国と異なり、普段は北朝鮮問題に対する米国内の関心は概して低い。仮に成果がなくてもトランプ氏への大きな「圧力」とはなりにくい。

一方、金氏もトランプ氏のパフォーマンスを側面支援することにやぶさかでないようだ。トランプ氏と会うたびに、北朝鮮の指導者としての正統性は強化される。対外的なイメージアップにもつながり、それが米大統領と渡り合う「偉大な首領様」として国内に反射する。トランプ氏との関係を維持している限り、たとえ政府レベルで非核化交渉が進まなくても攻撃される心配はない。

長距離弾道ミサイルだけ止めていてくれればいい

しかし、いくら仲良しだからといって、金氏が核を廃棄するわけではない。金氏は、リビアの二の舞を演じたくないと思っているはずだ。米国の説得で核開発を放棄したが、8年後に米主導で長年の独裁体制は転覆されてしまった。その教訓を学んだ金氏に核を手放すつもりはない、首脳会談を重ねても核開発を秘密裏に着々と進めている、というのが米情報機関の見解だ。

トランプ氏もそれで構わないと思っている節がある。会談後の記者会見で、「非核化は急いでいない」と明言。北朝鮮に対する経済制裁についても「ある時点で解除することを楽しみにしている」と語っている。米主要紙によれば、近く開かれる予定の実務者協議に向け、北朝鮮の核開発の凍結で妥協する案がトランプ政権内で検討されている。これは、「完全な非核化(核施設と核兵器の全面廃棄)」を早急に求める従来の基本方針からの大転換に等しい。

こうした言動を勘案すると、米国を射程に収める長距離弾道ミサイルの実験停止を継続する限り、当面、北朝鮮の核保有を黙認するというのがトランプ氏の腹構えのようだ。

トランプ氏に足をすくわれかねない日本

北朝鮮は現在、推定20~60発の核爆弾を保有しているといわれる。トランプ氏が一時的にせよ、北朝鮮の核保有を事実上容認すれば、日本にとって核の脅威は残ることになる。このままだと、完全な非核化の実現に向け、米国とともに制裁を維持する方針を掲げている日本は足をすくわれかねない。

トランプ氏は日米で基本方針が違っても気にしないようだ。北朝鮮が5月に国連安保理決議違反の短距離弾道ミサイルを試射した問題でも、「どの国もやっている小さなもの。それを我われはミサイル試射とは見なさない」と平然と語っている。むしろ、貿易や高額防衛装備品の購入などと絡めて日本とディール(取引)する余地が広がると計算しているかもしれない。

それにしても、安倍首相とトランプ氏は本当に「蜜月」なのか。首相の片思いなのではないか。

この問題は、日米安保が絡むので参院選後の次回コラムで取りあげることにする。

杉本宏『ターゲテッド・キリング』

「対テロ戦争」という果てしない戦争が世界を覆う中、標的殺害(ターゲテッド・キリング)という非公然攻撃を米国は展開している。一種の「闇討ち」は、効率的ではあるが、米国政府に様々な法的・倫理的なジレンマを突きつける。米首脳たちの内紛と懊悩を通じ、21世紀の正義と戦争の行方を追う。

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「世界の警察官を辞める」だけでは収まらず、いまや世界秩序の攪乱要因になりつつあるトランプ大統領のアメリカ。海外取材経験の豊富なジャーナリストであり、国際政治研究も続ける著者がトランプ大統領・アメリカの本音を読み解き、日本とのかかわりを考察する。

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杉本宏

ジャーナリスト。慶應義塾大学大学院修士課程修了。マサチューセッツ工科大(MIT)政治学部博士課程単位取得退学。防衛大学校非常勤講師を経て、朝日新聞社入社。政治部、外報部などを経て、ロサンゼルス、アトランタ、ワシントンに赴任。記者としての取材活動のかたわら、国際政治研究も続ける。著書に『ターゲテッド・キリング――標的殺害とアメリカの苦悩』(現代書館)がある。

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