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ほかに誰がいる

2019.07.28 公開 ポスト

#11 臓物…破滅へ向かう少女の恋朝倉かすみ

ほかに誰がいる? わたしの心をこんなにも強くしめつける存在が。憧れのひと、玲子への想いを貫くあまり、人生を少しずつ狂わせていく16歳のえり。玲子――こっそりつけた愛称は天鵞絨(びろうど)――への恋心が暴走する衝撃の物語を、冒頭から抜粋してお届けします。ヤミツキ必至!大注目作家の話題作。
 

*   *   *

 

11

初めから、考えてみる。

天鵞絨(びろうど)は、友だちのなかではわたしに最初に教えるのだといっていた。これはいい。これはわたしが天鵞絨にとって特別だという証拠だ。ここに至るまでの道のりを思い起こし、わたしは少々感慨にふけった。

天鵞絨がわたし以外のひとと話すのを見たり、あるいは考えたりしただけで、からだが内臓ごと捩(ねじ)れそうになったものだった。

(写真:iStock.com/max-kegfire)

捩れて絞り上げられた臓物が熱かった。きっと自然発火する。火は瞬く間に炎になり、脳天までのぼりつめ、髪の毛を焦がすにちがいなかった。

わたしの吐く息はなまぐさく、放置された魚のわたのようなにおいに思えてならず、ときに慌てて口をおさえたりした。

しかし、わたしは「わたしたち」を信じるべきなのだった。わたしと天鵞絨が、真に「わたしたち」になる日を信じ、その日がくるまで、自分にできることをひっそりとつづけるしかないのだ。

息をついた。わたしの顔に笑みがひろがる。

数々の試練を乗り越え、わたしと天鵞絨は、ようやくひとつになってきている。

パレットのなかでは、ふたつの色が適量の純水の力を借りて溶け合っている。品のいい灰色に仕上がりつつある。

大丈夫、と、わたしは、わたしたちにいう。天鵞絨の留学はたった一年ではないか。一年や二年なんて、永遠のなかでは指を鳴らすほどの短さだ。

うん、と、深くうなずいたものの、気になることがあった。

天鵞絨は両親と話し合ったといっていた。なぜ、両親なのだろう。母親だけで充分ではないか。天鵞絨は母親のふるさとで暮らしたくてアメリカにいくのだ。

わたしは天鵞絨の母親には一目おいていた。天鵞絨の父親は、かれの妻と関係を持っただけだ。妻に挿入し、いくばくかの運動をしたにすぎない。でも、母親と天鵞絨は確実に繋がっている。天鵞絨は、あの感じのいい母親の胎内で何十週かをすごし、この世に生まれてきたのだ。

繋がり、という点ではかなわないと思っている。「わたしたち」にとって、もっとも尊重すべきひとだと思っている。だって、かのじょがいなければ、天鵞絨はこの世にいない。それだと、わたしたちは出会えなかった。

 

朝倉かすみ『ほかに誰がいる』

ほかに誰がいる? わたしの心をこんなにも強くしめつける存在が……。憧れの“あのひと”への想いを貫くあまり、人生を少しずつ狂わせていく16歳のえり。淡い恋心が暴走する衝撃の恋愛サスペンス。

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ほかに誰がいる

女友達への愛が暴走し狂気に変わる……衝撃のサスペンス

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朝倉かすみ

北海道生まれ。北海道武蔵女子短期大学卒業。二〇〇三年「コマドリさんのこと」で第三七回北海道新聞文学賞、〇四年「肝、焼ける」で第七二回小説現代新人賞を受賞。著書に、『田村はまだか』(第三〇回吉川英治文学新人賞、光文社)、『満潮』(光文社)、『てらさふ』(文藝春秋)、『植物たち』(徳間書店)、『平場の月』(第三二回山本周五郎賞、光文社)などがある。

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