ぬか漬けをはじめた。
きっかけは、健康になろうという思い。まずは体力をつけたい。体もちょっとしぼりたい。そんな今日この頃。エステのお姉さんに言われたひと言だった。
「まずは、朝ごはんを何かしら食べるところからはじめてください。ぬか漬けのゆで卵とか、楽でいいですよ」
ぬか漬けの、ゆで卵。気になる。
ゆで卵を食べるのがいいことは知っている。手軽にタンパク質がとれるし、腹持ちもいい。そこにぬか漬けが加わるなんて、さらに体によさそうではないか。
そして何より、単純に味が気になる。
ぬか漬けには、20代の頃、一度挑戦したことがある。
料理を題材にしたドラマに出演したとき、撮影で使ったぬかを、フードコーディネーターの先生から分けていただいたのだ。うれしくて家に持ち帰り、これから毎日かき混ぜて、大切に育てようと思っていた。
ところが、すぐに地方ロケに出ることになった。
そして、そのまま、すっかり続かなかった。
当時の私は、仕事以外の暮らしを楽しむ余裕がなかったように思う。
丁寧に暮らしたり、毎日少しずつ何かに手をかけたり。そういう生活に憧れはあっても、仕事が忙しくなると、真っ先に手放してしまう。
けれど、最近は昔よりは少し、生活そのものを楽しめるようになった。
運動をはじめたり、できるだけ朝ごはんを食べるようにしたり。自分の体のことを、以前より気にかけられるようにもなった。
今度なら、もう少し大切にできるかもしれない。
そう思って、簡単にはじめられるぬか床を買った。
最初に漬けたのは、ニンジン。洗って、切って、入れる。以上。
本当にこれだけでいいのだろうかと思いながら、一日待って取り出してみる。
食べてみると、なんとまぁ、おいしい。
ほどよく塩気が染み込んでいて、ポリポリとした食感もいい。これだけで、ごはんが進む。立派なおかずである。白米とこれだけで充分。
そして意外にも、私はこのニンジンにすっかりハマってしまった。キュウリや大根やカブ。ぬか漬けにできる野菜はいろいろあるのに、永遠にニンジンだけでもいいかもしれない。
毎日、漬かったニンジンを取り出して食べては、また新しいニンジンを入れている。
そして、いよいよ気になっていたゆで卵も漬けてみた。殻をむいた固茹での卵をぬか床に入れて、一日。
いつものゆで卵が、コクのある、味わい深いゆで卵になった。塩をつけなくても、そのままでおいしい。
ぬか漬けゆで卵、おいしい!
楽で、タンパク質もとれて、体にもよさそう。これはいいものを教えてもらったと喜んで、今度はぬか漬けについて、いろいろ調べはじめた。
すると、動物性のものは、野菜とはぬか床を分けたほうがいい、という情報が出てきた。
なるほど。では、ゆで卵専用のぬか床をつくろう。
そう決めたものの、今度はどんな容器がいいのかが気になり、ずっとタッパーを探している。大きすぎても邪魔になるし、小さすぎても卵が入らない。冷蔵庫に収まりやすくて、密閉できて、洗いやすいものがいい。
ぬか漬けをはじめただけなのに、私の頭の中には今、かなりの割合でニンジンとゆで卵とタッパーがいる。
さらに、もしかしたら近々、また地方ロケに出る可能性が出てきた。
ぬか床、どうしよう。以前なら、そこで諦めていた。
けれど今回は、地方ロケにも持っていこうかな、と思っている。
小さなぬか床を持参して、スーパーで買った野菜で、地方でもぬか漬けをつくれたら。朝起きて、漬かった野菜とゆで卵を食べてから撮影へ向かえたら。
ちょっと、私の地方ロケの概念が変わるかもしれない。
昨年、一か月の地方ロケに行ったときは、三キロ太った。
外食やお弁当が続き、生活のリズムも崩れる。撮影が優先なのだから仕方がないと思っていたけれど、今年は運動もはじめた。自分の体を整えることが、少しずつ楽しくなってきている。
地方ロケだから仕方がない、ではなく、地方ロケ先でも自分の生活をつくってみる。
仕事にすべてを明け渡さず、小さくても、自分の暮らしを持っていく。昔、地方ロケに出たことで続かなかったぬか漬けを、今度は地方ロケに連れていこうとしている。あの頃は、そんな考えすら浮かばなかったなぁ。
そう考えると、少しだけおもしろい。ぬか漬けを続けられるようになったというより、昔よりも、自分の生活を置いていかなくなったのかもしれない。
旅先の冷蔵庫に、ニンジンとゆで卵の入ったぬか床が並んでいる。
そんな未来を想像しながら、今日もまた、漬かったニンジンを取り出し、新しいニンジンを入れる。
この小さな習慣が、これからの私の暮らしを、少しだけおいしく、健やかにしてくれたらいい。
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いつまで自分でせいいっぱい?

自分と向き合ったり向き合えなかったり、ここまで頑張って生きてきた。30歳を過ぎてだいぶ楽にはなったけど、いまだに自分との付き合い方に悩む日もある。なるべく自分に優しくと思い始めた、役者、独身、女、一人が好き、でも人も好きな、リアルな日常を綴る。











