100回を超えた本連載が、このたび、『今日も、自分を生きる練習』とタイトルを変え、6月10日に書籍として発売になります。連載の一部に書き下ろしを加え再構成。30代後半を迎えた佐津川さんが、「演じる」ことと「生きる」ことのあいだで揺れながら、自分自身の輪郭を見つめ直した軌跡を綴った一冊です。予約も始まっています。詳しくは、小社紹介ページをご覧ください。
子どもの頃、身近に、いつも慌ただしい人がいた。常に何かに追われていて、常に急いでいて、常に頭の中が忙しそうだった。
口癖は、「そんな時間ない」。
時計ばかり見て、いつも慌てていて、何かをしながら次のことを考えていて。その姿を見ながら、どうしていつもそんなに急いでいるんだろう、と子どもの私は不思議だった。
でも最近、ふと気づいた。今の私、あの頃見ていたその人に、そっくりだ。
口癖こそ違うけれど、常に何かに追われている。頭の中では、ずっと次のことを考えている。返信、確認、締切、移動時間、次の企画、、目の前のことをやりながら、気持ちはもう次の予定へ向かっている。
これはもう、性格というよりクセなのかもしれない。
昔、「一日にひとつ予定があるだけで忙しい」と言っている人がいた。私はその言葉に、本気で驚いた。一日にひとつ。そんな日、私は逆に不安になる気がする。
ミーティングをして、リサーチして、撮影の合間に返信や原稿を書く。スケジュールをテトリスみたいに組むことが、いつの間にか当たり前になっていた。
でも数ヶ月前、あまりの忙しさに、頭の中が完全にパンクした。「思考回路はショート寸前」というセーラームーンのアニメの歌詞がよく脳内で流れていたけど、寸前でなく、ショートした気持ち。そしたらなんか、生まれ変わった気になったのだろうか。今までの私から信じられない思考回路が出て来た。
「焦らない」
今日は朝5時半の電車に乗る日だった。今までの私なら、ギリギリまで寝て、ダッシュでシャワーをあびて、完璧に逆算して家を出ていた。でも最近は、一本早く出るようにしている。焦りながら動くより、少し余白を持ちたい気分。シャワーもゆっくりあびて、焦らず支度をする。焦らずに家を出る。
乗り換え駅のホームで、まだこない電車。私はベンチに座り、スマホを見ながら仕事の資料チェックをしていた。すると数分後、目の前で電車が発進していった。
一瞬、何が起きたかわからなかった。そして気づく。乗るはずの電車、行った。
スマホに集中しすぎて、電車が来ていたことに全く気づいていなかった。
焦った。かなり焦った。集合時間にメイク時間に、間に合わない⁉ でもその瞬間、私は思い出した。一本早く家を出ていたことを。つまり、普通に間に合う!
私はホームで一人、心の中で思った。
「ありがとうわたし!グッジョブわたし!」
未来のわたしを助けたのは、少し前のわたしだった。
子どもの頃、「どうしていつもそんなに急いでいるんだろう?」と思っていた。今なら少しわかる。もちろん、性格がほとんどだろうけど。
大人は、やることが多い。守るものも増える。だから気づけば、ずっと追われている。でも、自分で追われないと決めることも出来る。
一本早く家を出る、5分前行動とか、程遠いと思っていた世界は、自分への優しさだったのか。未来のわたしに、今のわたしは、選択ひとつで贈り物を渡せるんだと知った。












