2月21日(土)15時半より、日本最大の読書サークル・猫町倶楽部とSmappa!Groupによる読書会「文化系ホストクラブ」が開催されます。課題図書は、Smappa!Group会長、手塚マキさんの著書『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』です。開催を前に、歌舞伎町の奥深さがわかる本書より一部を抜粋してお届けします。読書会に参加ご希望の方は、猫町倶楽部のサイトをご覧ください。
歌舞伎町の昼間の顔
歌舞伎町は「24時間眠らない街」と言われている。しかし24時間同じ顔をしている訳ではない。どの時間を始まりに設定するのかは難しいが昼の12時をスタートとして考えてみよう。
コロナ禍になる前、昼間の歌舞伎町にはたくさんの外国人観光客がいた。アパホテルを筆頭にここ数年はホテルが乱立し、外国人観光客が歌舞伎町の猥雑な街並みをカメラ片手に観光しながら、ランチをしたりお茶をしたりしていた。この時間の歌舞伎町の中心はTOHOシネマズのあるセントラルロードだ。入りやすいチェーン店が路面に多く並び、映画を観に来た人や観光客を迎え入れる。
新宿駅、西武新宿駅、東新宿駅の駅間の移動でも歌舞伎町を跨ぐため、ただ通行している人もたくさんいる。さらに私の会社も歌舞伎町にあるのだが、歌舞伎町周辺も含めて案外会社がたくさんある。そこで働いている人たちはランチや打ち合わせを歌舞伎町内でする。昼間の時間は他の街と変わらない人種が多い。ホストクラブやキャバクラも一般企業だ。企業としての業務は昼間に行うことが多い。他の会社が昼間に稼働しているからだ。私の会社でも財務、人事、広報、製作、衛生管理など一般企業と変わらない部署が他の会社とやり取りをする。そういう人間たちにとって歌舞伎町はただの職場にすぎない。
しかしそこに紛れて12時頃にはまだ昨日が終わっていない酔っ払いも道端でちらほら見かける。さらに昼キャバと呼ばれる昼間から営業しているキャバクラ、性風俗店の客引きなどもいる。客引きは24時間いる。遊ぼうと思えばいつだって歌舞伎町は「夜」になる。
歌舞伎町が色気づく時間帯
15時頃から夜の住人と呼ばれる人たちが少しずつ街にやってくる。新人ホストは15時頃にヘアメイクを済ませてからお店に行き開店前の掃除をする。売れっ子のホストやキャバ嬢も同伴のために早めに歌舞伎町に来てヘアメイクをしてから同伴に向かう。17時頃には開店前の準備をする人たち、出勤するホストやキャバ嬢で街が色気づいていく。
私はこの時間が好きだ。戦闘態勢を整えたホストやキャバ嬢が引き締まった顔で街を闊歩している。みな自分が一番だと思うくらいの自信を持った表情をしている。それがプロだ。
この時間、歌舞伎町で一番賑わっている場所は、ヘアメイクサロンだろう。まさに戦場だ。時間にルーズであるが故にギリギリで準備をする、一分一秒を争うホストやキャバ嬢が集まる。スタイリストも大忙しなので、順番待ちをしている間にホストもキャバ嬢も化粧を整える。そしてスマホをいじる。お客様と連絡を取り続ける。今日の予定を決めるのに、この時間が一番重要だと言っても過言ではない。セットが終わったら鏡を凝視する。細部を自ら整える。ここがスイッチオンのタイミングだ。瞳孔がギュッと引き締まる。背中に一本筋が通る。ヘアメイクサロンを出るときは「いってらっしゃい」と声を掛けられる。その声に背中を押されて夜の蝶として羽ばたいていく。
夜の店を運営するスタッフたちの打ち合わせや会議も夕方に行われることが多い。お店で行いづらい打ち合わせや会議は喫茶店で行う。歌舞伎町で一番有名な喫茶店パリジェンヌでは、この時間はいろんな人たちが面接や面談をしている。歌舞伎町の舞台裏を感じることができる。喫茶店のルノアールも何軒か歌舞伎町にあるが、そこはまた様相が違う。水商売色はパリジェンヌよりも薄れる。1人のお客様も多い。ネットワークビジネスの勧誘もよく見かける。
歌舞伎町が面白くなるのは午前1時から
19時~午前1時頃までは、たくさんの人で歌舞伎町はごった返す。雰囲気はどこの繁華街も変わらないだろう。その人数が多いと思ってくれればわかりやすい。週末は祭りのように人でごった返す。歌舞伎町が際立って面白いのは午前1時からだ。ほとんどのキャバクラやホストクラブは法令遵守で午前1時に営業を終了する。24時頃にどこのお店もピークを迎え、午前1時の熱狂真っ只中に強制終了して店の外に一気に放出される。
お客様たちは余韻に浸りながら街を回遊する。飲みに行ったホストクラブやキャバクラでアフターを取りつけている人は行き先が決まっている。しかしたいがいのホストやキャバ嬢は「後で連絡する」という曖昧な返答をする。みな一旦、お客様をすべて帰した後、店で一息ついてから考えるのだ。さて誰とアフターしようかなーと。もしくは数軒アフターを回るならば、どこから回ろうかなーと作戦を立てる。お客様側はどこにいるのがベストか? を考えて連絡を待ちながら街を徘徊する。熱狂冷めやらない延長戦を求む欲望の塊が街を彷徨う。陽気で浮足立っていて眺めているだけで幸せな気持ちになる。
この時間は「陽」の時間だ。期待が蠢うごめいている。そう、水商売とは期待させる職業だ。期待に応える職業ではない。遠足に行く前日を作るようなものだ。
期待は、良くも悪くも裏切られる。期待通りにいくことなんてほとんどない。欲望は次から次へと欲望を生む。満たされることは永遠にない。アフターにホストやキャバ嬢が来てくれたとしたら、その先を求めてしまう。サクッと小一時間のアフターをこなして帰るのが綺麗な遊び方だし、ホストやキャバ嬢にとっても上手な仕事だろう。だが、そんな器用な人間は歌舞伎町には少ない。夜も深くなればなるほど、何が目的かもわからないまま時間は過ぎていき、お互いドツボにはまっていく。
この時間は「陰」の時間だ。意識も朦朧としてくる。お持ち帰りの攻防戦に敗れたおじさんたちは再び街を徘徊する。やけくそにキャッチされるがままに朝までやっているキャバクラに再び吸い込まれていく。ホストとお客様も路上で言い合う。疲れ果てた新人ホストたちが徒党を組んで近隣の寮に帰って行く。揉め事が起きるのもだいたいこの時間だ。
酔っ払いたちが試合終了に向かうとき
午前4時頃になると、もう酔っ払い祭りだ。男と女の攻防戦など意に介さない酔っ払いたちの饗宴の時間だ。ほとんどの人が覚えていないんじゃないかという泥酔祭りだ。この時間まで飲み続けると、もはやどうでもいい。先に帰った奴が意気地なしと見なされるチキンレースがそこかしこで繰り広げられる。
週刊誌などに載せられる酒池肉林の風景は、この祭りの終焉を迎えた意識朦朧の人々の試合終了直前の姿だ。中には12時間以上飲み続けている人もいるだろう。酒のせいで自己陶酔しすぎて周りなんて見えていないし、自分も周りを気にしない。自らが欲望の残骸となって漂うだけだ。
その頃から2部と言われるホストクラブやキャバクラの営業が始まる。日の出営業だ。この時間から出勤して、彼らは「夜」を始める。
このコロナ禍でも「新宿11チャンネル」という老舗ファッションヘルスは早朝から行列をなしていた。
欲望に時間は関係ない。いつだって夜への扉が用意されているのが歌舞伎町なのだ。
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続きは、『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』をご覧ください。
また、2月21日(土)15時半より、猫町倶楽部×Smappa!Groupによる『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』読書会を開催します。会場は、新宿・歌舞伎町のホストクラブ「APiTS(アピッツ)」。著者の手塚マキさんも参加します。
詳細・お申込みは、猫町俱楽部のサイトからどうぞ。
新宿・歌舞伎町

2020年11月26日発売の新書『新宿・歌舞伎町』について
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