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新宿・歌舞伎町

2020.11.28 公開 ポスト

肩書も経歴も関係ない<夜の街>にずっと救われてきた(矢吹透)手塚マキ

11月26日に発売になった『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』は、歌舞伎町で23年間生きる元カリスマホストの名物経営者の手塚マキさんがこの街の懐の深さを描き出しました。コロナ禍では攻撃の対象となった<夜の街>ですが、その存在に救われる人はたくさんいます。幻冬舎plusで「美しい暮らし」を連載している矢吹透さんもそんなおひとり。『新宿・歌舞伎町』を読んでの感想を早速お寄せくださいました。

Photo by Fabrizio Chiagano on Unsplash

正直でないと夜の街では生きられないのだと著者・手塚マキの文章がそれを表している

「歌舞伎町」の本である。

東京で生まれ育った僕にとって、歌舞伎町は馴染みの深い街である。

子供の頃から、大作映画の封切りを見に行くのは歌舞伎町の映画館だった。チケットを買い、開演までの時間を、マクドナルドやファーストキッチンでハンバーガーを食べ、シェイクを飲んで、潰した。

大学生になるとよく、歌舞伎町のチェーン居酒屋で、コンパと呼ばれる学生同士の飲み会が開かれた。コンパで泥酔した勢いで初めて、覗き部屋なる風俗店に足を踏み入れたのも、歌舞伎町だった。

大人になり、ゲイであるという自らのセクシュアリティを受け入れるようになった頃からは、新宿二丁目からほど近い立地であるということもあり、歌舞伎町一番街のお気に入りのタイ料理屋で何人もの男たちとデートをしたし、コマ劇場の建っていた一角の大箱のディスコで時折り開かれるゲイ・ナイトにも足を運んだ。

歌舞伎町の中心には古い有名なゲイ・サウナがあり、男同士で入れるラブ・ホテルも何軒かある。

そんな街のあれこれにこれまでの半生、僕はいろいろとお世話になって来た。

 

最近の僕はあまり本を読まない。

書かれるべきことが書かれている本、語られなければならないことについて語られている本に出会うのは、昨今、とても難しい。

どうでもいいこと、当たり前のことが書かれている本を読む気にはなれない。

しかし、元ナンバーワンホストであり、ホストクラブを始め、さまざまな事業を歌舞伎町で展開する手塚マキさんが、その主戦場である「歌舞伎町」についての本を書かれたと聞いて、読んでみたくなった。

 

 

この本では、歌舞伎町という街について、さまざまな角度から語られている。

街の成り立ちや歴史、コロナ禍にある現在、そこに生きる人々、そして著者である手塚さんが歌舞伎町とホストクラブで経験して来たいろいろ。

「新書」であるが、学者や研究者が著すのではなく、歌舞伎町で働き、生きてきた当事者である手塚さんが「歌舞伎町」について書いたということの意味は大きい、と思う。

だから、この本は「歌舞伎町」の本であるが、そこに描き出されているのは「人間」である。

この本は、歌舞伎町という街についての本であって、実は手塚マキという人間についての本である。

手塚さんの筆致は、正直で真摯である。

その筆致のトーンは、この本のすべてを表している。

夜の街の明かりは、陽の光よりも鮮やかに、人間の欲望や業を浮かび上がらせるものである。

夜の街では、その場しのぎの装いや飾りは簡単に剥ぎ取られ、その人の正体というものが露見する。

昼の街で幅を利かせる肩書きや経歴などは、夜の街には通用しない。

正直であり、真摯でなければ、他人と渡り合うことはできない。

手塚さんの筆致から、「歌舞伎町」という街で生きるというのはそういうことなのだ、「歌舞伎町」とはそういう街なのだ、と読む側に伝わってくる。

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。 しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。 19歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として23年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

倉科遼/柳葉あきら『夜を生きる 歌舞伎町・ホスト手塚マキ物語』

〈夜の街〉と〈ホストの人生〉を変え続ける男。 新宿・歌舞伎町の元ナンバーワンホスト名物経営者の生きざまをネオン劇画の巨匠がマンガ化&舞台化 軽い気持ちで新宿・歌舞伎町のホストクラブで働くことにした19歳、大学一年生の手塚マキ。優等生人生では見ることのなかった世界。刺激的な毎日。とはいえ、いつかは就職して、まっとうな社会人になるつもりだった。なのに、ナンバーワンになった自負と虚栄心によって起こした事件で歌舞伎町にとどまることになってしまう――。挫折も、孤独も、欲望も、人間のすべてを飲み込む、新宿・歌舞伎町で生き続けるということ。「『夜王』を終えて10年。もう一度ホストを書きたいと私に思わせたのが手塚マキです」と倉科遼氏に言わしめた、稀有な夜の街の住人、手塚マキの生きざまをマンガ化。2022年11月17日〜27日は新宿シアターモリエールにて本作を舞台化する。

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新宿・歌舞伎町

2020年11月26日発売の新書『新宿・歌舞伎町』について

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手塚マキ

歌舞伎町でホストクラブ、バー、飲食店、美容室など10数軒を構える「Smappa! Group」の会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。JSA認定ソムリエ。1977年、埼玉県生まれ。川越高校卒業、中央大学理工学部中退。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、独立。ホストのボランティア団体『夜鳥の界』を仲間と立ち上げ、深夜の街頭清掃活動を行う一方、NPO法人グリーンバードでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店『歌舞伎町ブックセンター』をオープンし、話題に。著書に、『自分をあきらめるにはまだ早い』『裏・読書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ホスト万葉集』(共著、講談社)がある。

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