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新宿・歌舞伎町

2021.05.03 公開 ポスト

多様性を知りたかったら歌舞伎町に来ればいいんだよ手塚マキ

Photo by Pema Lama on Unsplash

一年以上続くコロナ禍。三度目の緊急事態宣言も、酒場や興行など、いわゆる「不要不急」とされる場所が自粛の対象です。しかし、いったい「不要不急」とは何なのでしょうか? 23年間生きる元カリスマホストの名物経営者が新宿の知られざる姿を描いた、『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』を読めば、不要不急ゆえの懐の深さが多くの人を救ってきたことがわかります。

歌舞伎町にはなぜ外国人が多いのか

歌舞伎町には外国人が当たり前のようにたくさんいる。私が育った埼玉の田舎では外国人を見たことはほとんどなかったし、両親が揃っていない家も少なかった。その後も進学校に入ったからか、その状況はあまり変わらなかった。両親共にいる家族構成、そして家がある。ということが当たり前だと思って生きてきた。一人親家庭やハーフの子なんてテレビの中の世界でしか知らなかった。

私が97年に入店した店で、両親が共にいて、高校を卒業した人は1人もいなかった。違う環境で育った人に慣れる助走経験もないまま、立場が逆転して自分がマイノリティの街に私は入り込んでしまった。

戦後の歌舞伎町の復興において、それまで日本の支配下にあった中国人、朝鮮人、台湾人の解放されたエネルギーはとても大きかった。GHQが彼らを連合国側と同等に扱うよう位置づける声明を出したことによって、彼らはアメリカ人同様に占領軍専用のマーケットで物品の仕入れができた。それを闇市で転売し力を蓄えた者もたくさんいた。資金を貯めて未開発の歌舞伎町で不動産投資をする人、商売する人がたくさん現れた。それまで散々日本人に苦汁を飲まされてきた反骨心も大きかっただろう。

稲葉佳子・青池憲司『台湾人の歌舞伎町』に詳しいが、鈴木喜兵衛の都市計画にいち早く協力し広場周辺に地球座(映画館)を作ったのも台湾人だった。今でも歌舞伎町のビルオーナーの半分以上が外国籍の人だと言われている。歌舞伎町には韓国系のパチンコ店がたくさんあり、その景品を担って成長したのがロッテである。歌舞伎町は外国籍の人たちと切っても切れない関係がずっと続いている。

さらに溝口敦『歌舞伎町・ヤバさの真相』によると、当時は在日の人たちの就職先が差別によって限られていたというのも大きかった。優秀な人材が繁華街に関わる職種に就いたことも、歌舞伎町における彼らの勢力を拡大させていった要因の一つでもあるようだ。出自など関係ない歌舞伎町は彼らにとっても自由に活動できる格好の場所だったのだろう。誰でも受け入れる土壌は脈々と引き継がれ、私がやってきた90年代にも色濃く残っていた。

外国人に対する免疫がないまま、いろんな環境で育った人、いろんな国籍を持った人といきなりごっちゃになって生きることになったのだが、そんなことはまったく気にならなかったし、何か特別な記憶として残っていることもない。歌舞伎町にはそんなことがまったく関係ない別の尺度がたくさんあったからだと思う。

さらにみんな源氏名で生きているので、誰がどこの国の出身なのか? なんて忘れてしまう。海外旅行に行くときに、パスポートの違いで思い出したりする程度だ。

ヒモ体質のエジプト人・アイマン

いろんな外国籍の人たちとの関わりはたくさんあるが、まったく日本語が喋れないエジプト人の仲間がいた。

ある日友達から、その筋の人が乗っていたフルスモークで車高も下げてある昔ながらのやくざ仕様のベンツを買わないか、と連絡が来た。私は免許を持っていないし、買い手を探しておくよと適当に話を聞いておいた。

同じ日の夜、別の友達から、エジプトで仲良くなったエジプト人が日本に来ていて、職を探しているんだけど仕事はないか? と酒を飲みながら相談された。

彼はアイマンという名前で、観光客と付き合ってお小遣いを貰いながら遊んで暮らしているという。バックパッカーをしていた私の友達ともエジプトで友達になったらしい。観光客の日本人女性と仲良くなって結婚まで持ち込んで、ビザを獲得し日本にやってきた。しかし仕事がない。彼女にも家を追い出された、ということで友達を頼ってきたそうだ。

後日、友達は父親のレクサスにモロヘイヤスープをジュースホルダーに入れてやってきていた。なぜかアイマンをうちで働かせるために必死だった。アイマンは、元軍人でエジプト料理が得意、運転が得意なので、運転手に雇ったらどうか? ということだった。

アイマンは当時のオバマ大統領を一回り小さくしたような雰囲気のアラブ人だった。

別々の友達からそれぞれ、こんな珍しいお願いをされることも滅多にない。二つの話をくっつけたらめっちゃ面白いと思い、友達に連絡してベンツを買った。もちろん酔って調子に乗っていた。

アイマンは、初めて私を家に迎えに来る日からまず辿り着かない。彼は日本語ができない、英語はカタコト、そして東京の道も知らない。当然だ。

前途多難だった。が、すぐに彼は会社の仲間になじんでいった。とにかく陽気なのだ。キャラも面白く、身体が動く。雑用などは得意で、壊れたものはすぐに直す。

典型的なヒモ体質だった。

ヒモ体質に国境も言葉も関係ないんだなと教わった。彼は会社の人間をすぐに手なずけた。もちろん私も彼にすぐに手なずけられた。

観光客をたらしこんで結婚したのは実は3回目だった。子供もたくさんいた。そして3番目の妻からも離婚されそうだった。家を追い出され、うちの会社の寮暮らしになった。

アイマンは、ナビに入れたところにしか行けない。しょっちゅう職質で止められる。さらに軍隊にいたというから激しい運転をするのかなと想像していたが、めちゃめちゃ安全運転で遅い。運転手としては活躍しなかったが、それよりも楽しい仲間が増えて私は嬉しかった。店のボーイの手伝いをさせてもなかなか良い働きっぷりをして、スタッフからも人気だった。お客様の膝にトーションを載せるときは、ポイっと投げて渡す。理由はイスラム教徒だから誰かの彼女に触ってはいけないんだと言っていた。

私は面白がっていろんなところに連れて行った。正月の実家にも一緒に帰り、実家のこたつでアイマンがみかんを食べている姿を楽しんだ。とにかくチャラいのでどこでもナンパしていたし、物怖じもしない。

彼ととんこつラーメンの店に行ったら、めちゃめちゃ美味しいと喜んでいた。次の日、はめたな~っとにやりとした顔で私の顔を両手で指(さ)してきた。美味しすぎてまた行こうとネットで調べたそうだ。

それ以来、私のすすめる料理にいつも疑いのまなざしを向けつつ、食べて喜んではしゃいで、次の日ググってはめたな~というのを繰り返した。私を言い訳にして、戒律で食べられないものを堂々と楽しむことを覚えたようだった。

仲間の父親が亡くなって、静岡まで車で行ったとき、道中、ずっとイスラム教のお経を口ずさんでいた。着いて早々に焼香の列に並んで私は自分が済ませた後アイマンを探した。私の後ろの方に並んでいた。神妙な顔で並んでいた。田舎のお通夜で完全に浮いていた。我々以外もみな彼に注目している。異様な空気だった。前の人の見様見真似で焼香を無事やってのけた。父親を亡くした仲間はそれを見て笑っていた。

社員旅行でグアムに行くことになったとき、アイマンも一緒に行ったのだが入管でアイマンだけストップさせられた。1時間待っても出てこないので、我々はホテルに先に行った。

翌日の朝の集合時間にアイマンが不機嫌な顔でやってきた。何があったと聞くと、「人種差別だ」と憤っている。詳しく聞くと、入管でどこに住んでいるんだ? と聞かれて、彼は住んでいる寮のアパート名を答えた。そのアパートの名前が「ホワイトハウス」だったのだ。ふざけるな、と怒られたらしい。アイマンは、事実だし同じ部屋に住んでいる仲間は通って、なぜ自分だけ止めるんだと怒る。入管の人もオバマに似た小さいアラブ人が日本人の若者たちの団体に紛れてやってきて、ホワイトハウスに住んでいるなんて言えば、止めざるを得なかったのだろう。アイマンは旅行中ずっとふてくされていた。

ある日、アイマンの免許が実は更新日を過ぎていることを知った。アイマンを問い詰めたらアラビア語で書いてあるから絶対にバレないよと、ヘラヘラと言う。そういう問題じゃない、と怒り試験を受けに行かせた。しかし何回行かせても試験に落ちる。毎回人種差別だと怒っていた。アイマンはかなり落胆していた。

アイマンから1回エジプトに帰って免許を取ってすぐ帰ってくると提案された。その交通費を出して欲しいと言う。落胆する姿をこれ以上見たくなかったので、その提案に乗ることにした。アイマンが一時帰国する前日、みんなで格闘技を観に行ったら、アイマンがハンディカメラを持っていた。「思い出ー、思い出ー」とみんなを撮っていた。みんな中指を立ててアイマンの撮影に笑顔で応じていた。コミュニケーションはいつも雑だったが、みな笑顔だった。

大方の予想通り、アイマンは帰ってこなかった。

心に大きな穴がぽっかり空いた。ベンツも二束三文で売った。

それから数カ月後、YO! なんて軽い感じの書き出しのつたない英語で、アイマンからメッセージが届いた。日本に戻りたいという。つらつらと戻れなかった理由を語っていたが、あのハンディカメラがすべてを物語っていた。元々日本に戻る気はなかったのだ。

しかし、アイマンがいると楽しい、どうにか日本に再び来られるように行政書士に相談した。彼はすでに離婚していたため、かなりハードルが高かった。

手続きも大変だし、けっこうな額のお金も必要だった。さすがにもうアイマンをお金の面で信用することはできなかった。自力で来いと伝えたが、それからしばらくの間、早く行きたいー、助けてー、というような彼らしい軽い悲愴感を演出するメッセージが送られ続けてきた。

歌舞伎町は、すぐ許してしまう街だ。アイマンが裏切った思い出より、楽しかった思い出の方が強い。約2年間彼と過ごした日々で、私はまったく英語を喋れるようにもならなかったし、アラビア語も喋れるようにもならなかった。彼も日本語を覚えなかった。

言葉が通じなくても人と人は仲良くなれるし、騙せることを学んだ。

うちの会社には、初めて飼ったペットが象というタイ人だったり、父親が何人もいるフィリピン人だったり、母親が小学生のときに産んだ日本人だったり、国籍も育った環境もいろんな奴がいる。

普通って何なのだろうか?普通なんて誰かが作った虚像で、それに一生懸命合わせようともがいて苦しんだ被害者、そうなれなくて疎外感を覚えた被害者を生み出しただけなのではないだろうか。高度成長を支えたサラリーマンたちに必要だったのは、本当に普通と言われる環境だったのか?

多様性を学ぶ。多様性のある社会にしよう。そんな言葉を聞くと、歌舞伎町に来ればいいじゃん。っていつも思う。私は外国人の文化を一生懸命学ぼうとした訳ではない。そりゃ国や人種によって傾向はあるかもしれない。宗教観だって、生活様式だって、文化の違いだってあるだろう。でも歌舞伎町の人たちは、一緒に働きながら、一緒に遊びながら、○○人だからって扱いではなく、その人との関係性を作っていく。そんなお互いの数珠繋ぎのような関係が、多様性を自然と生むのではないだろうか。「○○人は~」なんて一括りに構えることが、無個性な集団を生み出してしまうのではないだろうか。

私はただ、アイマンという軽薄極まりないけど憎めない仲間と2年間過ごしただけであった。

*  *  *

続きは『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』をご覧ください。

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。 しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。 19歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として23年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

倉科遼/柳葉あきら『夜を生きる 歌舞伎町・ホスト手塚マキ物語』

〈夜の街〉と〈ホストの人生〉を変え続ける男。 新宿・歌舞伎町の元ナンバーワンホスト名物経営者の生きざまをネオン劇画の巨匠がマンガ化&舞台化 軽い気持ちで新宿・歌舞伎町のホストクラブで働くことにした19歳、大学一年生の手塚マキ。優等生人生では見ることのなかった世界。刺激的な毎日。とはいえ、いつかは就職して、まっとうな社会人になるつもりだった。なのに、ナンバーワンになった自負と虚栄心によって起こした事件で歌舞伎町にとどまることになってしまう――。挫折も、孤独も、欲望も、人間のすべてを飲み込む、新宿・歌舞伎町で生き続けるということ。「『夜王』を終えて10年。もう一度ホストを書きたいと私に思わせたのが手塚マキです」と倉科遼氏に言わしめた、稀有な夜の街の住人、手塚マキの生きざまをマンガ化。2022年11月17日〜27日は新宿シアターモリエールにて本作を舞台化する。

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新宿・歌舞伎町

2020年11月26日発売の新書『新宿・歌舞伎町』について

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手塚マキ

歌舞伎町でホストクラブ、バー、飲食店、美容室など10数軒を構える「Smappa! Group」の会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。JSA認定ソムリエ。1977年、埼玉県生まれ。川越高校卒業、中央大学理工学部中退。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、独立。ホストのボランティア団体『夜鳥の界』を仲間と立ち上げ、深夜の街頭清掃活動を行う一方、NPO法人グリーンバードでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店『歌舞伎町ブックセンター』をオープンし、話題に。著書に、『自分をあきらめるにはまだ早い』『裏・読書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ホスト万葉集』(共著、講談社)がある。

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