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新宿・歌舞伎町

2020.11.26 公開 ポスト

歌舞伎町の名物経営者が描く「誰もが敗者復活できる街」の知られざる姿手塚マキ

コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となったアジア最大の歓楽街、歌舞伎町。しかし、この街ほど懐の深い場所はない。お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れる。歌舞伎町で23年間生きる元カリスマホストの名物経営者が描く<人間をすべて飲み込む街>の知られざる姿。11月26日に発売になった『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』より、「はじめに」と「目次」をご紹介します。

歌舞伎町には平等な「今」しかない

歌舞伎町は欲望に忠実な街だ。心が裸になれる街だ。いや心を裸にされる街だ。

「お前は誰だ?」と突き付けられる。

職業なんかじゃない。年齢なんかじゃない。性別なんかじゃない。

私は誰だ。

気取っていたって損するだけだ。誰も見ていない。今日の欲望のままに流されることがこの街での遊びの流儀だ。上手にお金を使う必要なんてない。ただ流されるままに、使えるだけ使えばいい。誰もあなたを気にしていない。それが歌舞伎町だ。みんな自分のことで精いっぱいだ。

歌舞伎町は目指す街ではなく、漂流した末に辿り着く街だ。昨日までの自分と決別して、ただの1人の人間として再出発できる街だ。どれだけ大きな失敗や挫折があったとしても、この街では関係ない。誰にとっても敗者復活戦の街なんだ。

辿り着いてしまった歌舞伎町の住人たちは、ただの1人の人間として生きている。だから、常に「お前は誰だ?」と突き付けられる。

歌舞伎町にある店は、9割以上が10坪程度の小さい店だ。どこで飲んでも誰と飲んでも、知らない人も知っている人も巻き込んで飲むようになる。時には喧嘩になったり、時には恋をしたりして夜は永遠に続く。何軒もはしごして深夜になれば、最初に飲み始めたメンバーとは違う顔ぶれになっている。翌日になって、「昨日、なんであいつと飲んでいたんだっけ?」なんてことはしょっちゅうある。

歌舞伎町で飲んでいても、名刺を出すことなんて滅多にない。どんな仕事をしているのか、なんて気にしないし、肩書なんて通用しない。誰も何者でもない。

「明日、朝早いんだよ……」なんてセリフは意味がない。

今、この場にいる人間たちに与えられた平等な「今」。

過去も未来も関係ない。「今」に集中することが、むき出しの自分をさらけ出させる。

明日のために今があるのではない。将来のために今があるのではない。

ただ今があるだけ。

過去の自分も、未来の自分も、誰かと比べての自分も関係ない。

だからこそ素の自分が受け入れられたとき、心が解放される。

あらゆる制約から解放されて、他人も自分も受け入れることができるようになったとき、人にも自分にも優しく生きることができるようになるのかもしれない。

歌舞伎町で生きている人に触れることは、誰もが気づかないふりをして胡麻化して生きているある部分を露わにするのかもしれない。

歌舞伎町の人間に触れて、自分の心を覗いてみてください。

プロローグには、2020年5~6月というコロナが最も猛威を振るっていた時期に、新宿区行政とホストクラブとがコロナ対策の連携に到るまでの経緯について書いています。時系列順で書いているため、当時の雰囲気を追体験するように読んでほしいと思っています。

第一部では、歌舞伎町全体の概要と歴史を、私の見てきた景色を中心に書いています。ぼんやりと知っていた歌舞伎町を、より身近に、より立体的に感じていただけたら幸いです。

第二部には、私が出会ってきた歌舞伎町で生きる市井の人々のことを書いています。実際に歌舞伎町で遊ぶ醍醐味や歌舞伎町の空気感の一端を感じて貰えたら嬉しいです。

以上のように、歌舞伎町全体の雰囲気を摑んでいただいてから、その中で生きる1人1人の人間にスポットを当てることで、歌舞伎町で生きるということをリアルに感じていただけるかと思います。

ようこそ歌舞伎町へ。

*   *   *

目次

はじめに

プロローグ コロナ禍の新宿区長からのメール
●ホストクラブのことを教えて欲しい
●ホストクラブに根強くある行政への不信
●区長とホストクラブのはじめての対話
●区長の真摯な対応
●無駄が集まる歌舞伎町

第一部 歌舞伎町は辿り着く街

渋谷では暴動が起きて、新宿では起きない理由
●防犯カメラの効果
●「共生はしないが共存はする」

歌舞伎町にわかりやすく美味しいお店はない
●観光客に頼りたくない
●歌舞伎町の料理の質が上がらない理由

歌舞伎町は本当にぼったくりが多いのか?
●ぼったくりの法的意味
●「料金の計算方法を複雑にする」という戦略
●サービス料という夜の店の“戦略”を撤廃してみると
●私のプチぼったくり体験
●夜の戦略を正すべきか、貫くべきか

「24時間眠らない街」の24時間の欲望
●歌舞伎町の昼間の顔
●歌舞伎町が色気づく時間帯
●歌舞伎町が面白くなるのは午前1時から
●酔っ払いたちが試合終了に向かうとき

元々森と沼だった歌舞伎町の歴史
●歌舞伎町で一番古い観光地
●ワクワクを大事にしてきた街

歌舞伎町はいつからホストクラブの街になったのか
●90年代のホストクラブは深夜1時の開店
●ホストのカッコよさは「漢らしさ」だった
●ホストクラブにやってくるお客様たち
●ストリッパーは90年代歌舞伎町の花形
●喧嘩、揉め事、暴力がいつも近くにあった
●就職氷河期世代ホストの台頭とホストの大衆化
●ホストクラブの増加と風俗業界の飽和

ホストのメンツと夜の世界のルール
● ホストは看板商売
●ケツモチのメンツを潰すとどうなるか

ホストたちの独立ブームが作った新しい潮流
●独立するにはやくざとの関わりが必至だった
●闇金ブームと治安が悪化した2000年代

歌舞伎町の混沌と秩序のバランスを築いた人たち
●戦後の焼け野原と歌舞伎町商店街振興組合
●振興組合を悩ませるホストクラブの存在
●空前のホストブームが到来した2018年
●歌舞伎町の外に出て受けたホストへの偏見
●いつの間にか歌舞伎町の浦島太郎になっていた

ツイッターはホストとホスト狂女性たちの劇場
●ホストラブ掲示板の進化
●ホストたちの炎上商法

売掛で過激化するホストたちのステータス争い
●売掛の功罪
●見せかけの売上争い

夜の街で働くということ
●歌舞伎町は辿り着く街
●「お互い様」を生きる

第二部 歌舞伎町は許してくれる街

ホストはタキシードで寝ていると思わせる仕事
●日常を見せない。戸惑いを見せない

ホストクラブの泥棒たちと一つの決断
● 泥棒がわかるようになった

家のない異端の元カリスマホストと変わった人たち
●自分のダサさに気づかせてくれた友達
●手の込んだ恋愛の復讐

流行らせようと思わない歌舞伎町の店主たち
●ホストたちとソムリエ試験を受けるために
●クラブもわかりづらい

歌舞伎町に呼び戻した仲間への罪悪感
●みなみとの出会いと再会

新宿ゴールデン街の怪物たちとの付き合い方
●ゴールデン街の歴史
●重鎮ばかりの旅行にて
●ゴールデン街の数珠繫ぎ飲み

憧れの先輩ホストとゴールデン街で育つということ
●大学とは比べものにならない刺激
●ゴールデン街生まれゴールデン街育ち

多様性を知りたかったら歌舞伎町に来ればいいんだよ
●歌舞伎町にはなぜ外国人が多いのか
●ヒモ体質のエジプト人・アイマン
●歌舞伎町が教えてくれた「甘えることの大切さ」
●エリート高校出身者の無駄なプライド

エピローグ 拝金主義という強さ
●コロナ禍と家賃
●拝金主義が生んだ大らかさ
●文化のない歌舞伎町のこれからの文化

おわりに

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。 しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。 19歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として23年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

倉科遼/柳葉あきら『夜を生きる 歌舞伎町・ホスト手塚マキ物語』

〈夜の街〉と〈ホストの人生〉を変え続ける男。 新宿・歌舞伎町の元ナンバーワンホスト名物経営者の生きざまをネオン劇画の巨匠がマンガ化&舞台化 軽い気持ちで新宿・歌舞伎町のホストクラブで働くことにした19歳、大学一年生の手塚マキ。優等生人生では見ることのなかった世界。刺激的な毎日。とはいえ、いつかは就職して、まっとうな社会人になるつもりだった。なのに、ナンバーワンになった自負と虚栄心によって起こした事件で歌舞伎町にとどまることになってしまう――。挫折も、孤独も、欲望も、人間のすべてを飲み込む、新宿・歌舞伎町で生き続けるということ。「『夜王』を終えて10年。もう一度ホストを書きたいと私に思わせたのが手塚マキです」と倉科遼氏に言わしめた、稀有な夜の街の住人、手塚マキの生きざまをマンガ化。2022年11月17日〜27日は新宿シアターモリエールにて本作を舞台化する。

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新宿・歌舞伎町

2020年11月26日発売の新書『新宿・歌舞伎町』について

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手塚マキ

歌舞伎町でホストクラブ、バー、飲食店、美容室など10数軒を構える「Smappa! Group」の会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。JSA認定ソムリエ。1977年、埼玉県生まれ。川越高校卒業、中央大学理工学部中退。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、独立。ホストのボランティア団体『夜鳥の界』を仲間と立ち上げ、深夜の街頭清掃活動を行う一方、NPO法人グリーンバードでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店『歌舞伎町ブックセンター』をオープンし、話題に。著書に、『自分をあきらめるにはまだ早い』『裏・読書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ホスト万葉集』(共著、講談社)がある。

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