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大人バレエの世界

2025.11.30 公開 ポスト

#131

大人バレリーナ、やせなくてもいいんじゃないか説丸山裕子(イラストレーター)

久しぶりにレッスンに行ったのは、発表会が終わって2ヶ月と少しが過ぎた頃でした。
スタジオに入るなり思ったのは、

あれ?
皆様、大きくなっていらっしゃる?
2ヶ月前のお姿はいづこへ……

 

レッスン帰りは友人の車に途中まで乗せてもらうのがルーティンになっています。
スタジオ近くのコンビニでコーヒーとお菓子を買って(消費したカロリーを即倍返しするスタイル)車内でしばしご歓談。今日のレッスンの反省や気づいたこと、他愛もないことをあれこれ話して、それもレッスンに行く楽しみのひとつだったりします。

「2ヶ月しか経ってないのに、みんな大きくなってたんやけど?」
「どういうこと??」
私が切り出すと、友人はコーヒーを飲みながら1ミリも表情を変えずに言いました。
「2ヶ月もあったら十分やろ。」
「てか、発表会の後、1週間休みあるやん? その後のレッスンでみんな元に戻ってたで。」
と。

そっちかー。「しか」じゃなくて「も」かー。
早い。
速すぎる。
恐るべし、大人バレリーナの原状回復力。
そして、形状記憶力。

しかし、前向きに考えれば、それは発表会前に皆がとてもがんばっていたという証拠でもあって。
えらいぞ、みんな!

そして、そんなふくふくした大人バレリーナたちの姿を目にした私は、
美しい! 良き! 好き!
と思ったのです。これはちょっとした驚きでした。

バレエをするからにはたとえ大人バレリーナであっても「身体は絞らなければ」という意識がありました。発表会前ともなると皆がそういう意識に捉われていて、酒をやめたの、炭水化物を食べないの、何グラム減っただの(キロ単位では減らないオレたち)という話が日常になります。

結果、がんばってバレリーナらしく身体を絞った人はもちろん美しいですし、その努力には頭が下がります。

だけど、こと大人バレリーナに関しては、無理にやせなくてもいいのでは?
努力はそこでなくてもいいのでは?
ふっくらが美しいやん!

と、本気で思ったのです。

効き目の見えないやせる努力を続けるよりも、ふっくらをキープしつつ、体積(と質量)の増えた身体を動かす筋力をつける努力。そちらに全フリする方が美的にも踊り的にもお得では? と思いました。

それはそれで大変なんですけれど。
筋トレをがんばったら自然に身体は絞れるでしょうし。
筋トレがんばれる人ならダイエットもがんばれる、とも言えますし。

いや、しかし、人には向き不向きがあります。
こちらの努力はできなくてもあちらの努力はできるということはある。
ダイエットは苦手でも、筋トレはがんばれるということもあるはずです。

外見の美醜についての発言がはばかられる昨今ですが、バレエにおいては美は正義です。
基本的にはどこから見ても美しい動き、美しいシルエット、美しい身体を目指していると思います。(プロのコンテ作品などでは美しさばかりが目的でないことがあります。また、最近では美そのものの基準が多様化しています。が、大人バレリーナがよく踊るクラシックの演目では、共通認識としての美があると思います。)

とは言え、プロダンサーのようにストイックに自身を律してスレンダーな身体を作るのは、大人バレリーナには難しい。

ならば、大人バレリーナは大人バレリーナなりの美しさを目指せば良いのでは?
そして、「それは芯の強いふっくらだ!」と、発表会の2ヶ月後、スタジオの扉を開けた私は気づいたのです!

もうひとつ、とても現実的な話をすれば、何かのときにやせる余裕(脂肪)のある身体であることが大切なお年頃でもあります。

先日、若い友人が風邪をひいて医者に行ったときの話を聞きました。待合室にいた医者通い友達らしき人生の大先輩たちの会話です。
「最近、えらい太ってしもてー。そろそろ病気してやせなあかん(ならばなぜ今病院にいらっしゃるのか? というツッコミはともかく)」
「そやそや。入院して点滴してもろたらすぐやせるで。」
「そやそや。」

これは自身が経験者である大先輩方にのみに許されるブラックジョークだけれども、実際、ある程度の年齢になると身体の余裕(脂肪)も大事だと、高齢の母を見ていても思います。
というわけで、

よーし、やせないぞー!
(でも、体幹は鍛えような、みんな)

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大人バレエの世界

いくつになっても憧れる華やかなバレエの世界。アラフォーからバレエを始めた著者による、楽しく、たくましく、哀しくもおかしい“大人バレリーナ”の日常。

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丸山裕子 イラストレーター

京都市出身。踊るイラストレーター。健康のために始めたバレエにはまり、寝る間を惜しんでレッスンに通う。『バレエ語辞典』の全イラストを担当。書籍や雑誌、広告にイラストを描いている。女性、育児、健康、犬と花に関するものが多い。イラストエッセイは『しあわせな犬生活を』(ドッグワールド)、『極楽いぬ生活』(ペピイ)。布花作家でもあり、『まんまるさん®︎』という古布を使ったオリジナルのアクセサリーを作っている。

Instagram @yucosartworks

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